清浄しょうじょう)” の例文
旧字:清淨
いったい蓮華は清浄しょうじょうな高原の陸地にはえないで、かえってどろどろした、きたな泥田どろたのうちから、あの綺麗きれいな美しい花を開くのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いたずらに、物絶ちをもって、清浄しょうじょうとし、形式にばかりとらわれて、実はかえって、裏には大きな矛盾むじゅんを秘しているようなことになる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空気は稀薄ですけれども非常に清浄しょうじょうな空気で、その上にごく成分に富んで居る麦焦むぎこがし粉を日に一度ずつどっさり喰って居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女の心は、その時以来別人のようにすさんだ。清浄しょうじょうなる処女時代に立ち帰ることは、その肉体は許しても、心が許さなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もう髪の黄ばみかけた尼提にだいはこう言う除糞人の一人である。舎衛城の中でも最も貧しい、同時に最も心身の清浄しょうじょうに縁の遠い人々の一人である。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
明神は女体におわす——爺さんがいうのであるが——それへ、詣ずるのは、石段の上の拝殿までだが、そこへくだけでさえ、清浄しょうじょう斎戒さいかいがなければならぬ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洲の後面うしろの方もまた一尋ほどの流れでおかと隔てられたる別世界、まるで浮世のなまぐさい土地つちとは懸絶かけはなれた清浄しょうじょうの地であったままひとり歓び喜んで踊躍ゆやくしたが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
清浄しょうじょう潔白、おのずから同藩普通の家族とはいろことにして、ソレカラ家をさって他人に交わっても、そのふうをチャントまもって、別につつしむでもない、当然あたりまえな事だとおもって居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ願うらくはかの如来にょらい大慈だいじ大悲だいひ我が小願の中において大神力を現じ給い妄言もうげん綺語きご淤泥おでいして光明顕色けんじき浄瑠璃じょうるりとなし、浮華ふかの中より清浄しょうじょう青蓮華しょうれんげを開かしめ給わんことを。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
寒い時分だから池の中はただ薄濁りによどんでいるだけで、少しも清浄しょうじょうおもむきはなかったが、向側むこうがわに見える高い石の崖外がけはずれまで、縁に欄干らんかんのある座敷が突き出しているところが
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クララは明かな意識の中にありながら、すべてのものが夢のように見る見る彼女から離れて行くのを感じた。無一物な清浄しょうじょうな世界にクララの魂だけがただ一つ感激に震えて燃えていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは冤罪えんざいです、全く冤罪です。昨日も云う通り、僕はった一度彼家あすこへ行ったりで、あの女と何等の関係も無いんです。先方むこうではう思っているか知らんが、此方こっち清浄しょうじょう潔白です。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鼓を打つにも、絵を描くにも、清浄しょうじょうな温かい心がない限りなんの値打もない。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
清浄しょうじょうな、そうして荘厳な大伽藍がらん
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
清浄しょうじょうの空や一羽の寒鴉かんがらす
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
で、申しますには「此器これはごく清浄しょうじょうです。夜前あなたがあがったのですから」と言ってバタかすの茶碗の縁に付いてあるのをそのまますすめるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「わしも若い、そのもとも若い。しかも清浄しょうじょうを尊ぶこの山荘に、あんな麗人を二人留め置いたら、世間は、何と見る?」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妾が、自分のみさお清浄しょうじょうに保ちながら、荘田を倒し得ても、社会的には妾は、荘田の妻です。何人なんぴとが妾の心も身体からだも処女であることを信じてれるでしょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何か、女児おんなごも十二三でなければ手に掛けないという、その清浄しょうじょうな梅漬を、汚穢くてならぬ、嘔吐すと云う。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我に射掛くる利箭りせんの毒は、それだけ彼女の懐を出でて彼女の胷裏きょうり清浄しょうじょうにすることになった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つその砂糖を清浄しょうじょうにするには骨炭こったんせば清浄になると云うこともチャントしって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あの富士山や御嶽おんたけ山などへ登る行者たちが、「懺悔さんげ懺悔、六こん清浄しょうじょう」と唱える、あの六根で、それは眼、耳、鼻、舌、身の五官、すなわち五根に、「意根」を加えて六根といったので
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「へへへへへもう水底から呼んではおりません。ここからいぬいの方角にあたる清浄しょうじょうな世界で……」「あんまり清浄でもなさそうだ、毒々しい鼻だぜ」「へえ?」と寒月は不審な顔をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その景色の素晴らしさは実に今眼に見るがごとく豪壮雄大にして清浄しょうじょう霊妙れいみょうの有様が躍々として湖辺に現われて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さような身持ちのわるい無頼な人間と分り切っていながら、なぜ、伽藍建立がらんこんりゅう清浄しょうじょうなお作事に使っておるかっ、そのほうどもの人事の不行届きでもあるぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、それと同じに、母が——あれほど、自分には優しく、清浄しょうじょうである母が、男に対して、娼婦しょうふのように、なまめかしく、不誠実であることが、一番悲しかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
えらいな! その清浄しょうじょうはだえをもって、紋綸子もんりんずの、長襦袢ながじゅばんで、高髷たかまげという、その艶麗あでやかな姿をもって、行燈あんどうにかえに来たやといの女に目まじろがない、その任侠にんきょうな気をもって
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よしやあたたかならずとも旭日あさひきら/\とさしのぼりて山々の峰の雪に移りたる景色、くらばかりの美しさ、物腥ものぐさき西洋のちり此処ここまではとんで来ず、清浄しょうじょう潔白頼母敷たのもしき岐蘇路きそじ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯の百文ひゃくもんも借りたることはないその上に、品行は清浄しょうじょう潔白にして俯仰ふぎょう天地にはじずと云う、おのずからほかの者と違う処があるから、一緒になってワイ/\云て居ながら、マア一口ひとくちに云えば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すい灯火ともしびのほか、そこには何もなくなった。清浄しょうじょうな灯かげだけが静かにゆらいでいた。——そうした気持で、彼は、二十年ぶりの、いや、生れて初めて会う骨肉を迎えたかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清浄しょうじょうの血を流さんなれば愍然ふびんともこそ照覧あれと、おもいしことやら思わざりしや十兵衛自身も半分知らで、夢路をいつの間にかたどりし、七蔵にさえどこでか分れて、ここは、おお、それ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、銀の柄香炉えこうろを片手に、折々、こういては、「六こん清浄しょうじょう」を口にとなえ、身に寸鉄を帯びるでもなく、白木の山杖一ツを力に、あまたの道士に見送られて、上清宮じょうせいぐうを出立した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)