ごろ)” の例文
文献としては、石渡賢八郎編の『西洋奇術狐狗狸怪談』と骨皮道人こつひどうじん著の『狐狗狸と理解』の二書があるが、皆明治二十年ごろの刊行である。
狐狗狸の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
先達而せんだつて御寸札ならびに論語到来、其御返事先月廿日ごろいたし、大坂便にさし出候。今度御書に而は、右本御恵賜被下候由扨々忝奉存候。いよいよ珍蔵可仕候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ごろむつまじくかたり給ふ二二殿原とのばらまうで給ひてはうむりの事をもはかり給ひぬれど、只師が心頭むねの暖かなるを見て、ひつぎにもをさめでかく守り侍りしに、今や蘇生よみがへり給ふにつきて
一 ざとうしゆ参候はゞ御さか月給づきたまひ御ひき給候べく候、あなたがたに候はんずるざとうしゆ参候はゞ御ねんごろは候べく候、なれ/\しくは御おき候まじく候、ついでに心へ候へ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「今晩はだめだよ、今度にしよう」何か考えて、「どうだ、おいらの家へ往かないか、このごろ、親爺は、田舎いなかへ往って留守なのだよ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
五六日ふりしのち此ごろまでふらず、此比三度少しづつふりたれども、地泥ちでいをなすにいたらず。然れども此上ふりてはまたあしし。これにてよき程也。これは蒓郷によろし。土地によるべし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
山田と伊沢は四時ごろになって寺を出た。晩春はるさきの空気がゆるんでもやのような雨雲が、寺の門口かどぐちにある新緑のこずえに垂れさがっていた。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
筑前屋より津軽屋へ之便一年にいくたび御座候やいつごろ御座候やも奉願上候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
照道寿真はそれを発端として玄妙げんみょうな仙道の秘訣を教えはじめた。河野はその教えを心に刻みつけた。午後四時ごろになって寿真の話は終った。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明治十七八年ごろのことであった。改進党の壮士藤原登ふじわらのぼるしば愛宕下あたごしたの下宿から早稲田の奥に住んでいる党の領袖りょうしゅうの処へ金の無心むしんに往っていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに三時ごろから降りだした雨は、まだ四時を過ぎたばかりであるのに、微暗うすぐらく陰気で、それやこれやで、とうとうそのまま帰ってしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは二時ごろで、外には絹糸のような雨が降っていた。広栄はやがて算盤を置いて、傍の硯箱すずりばこを引き寄せて墨をりだした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
真澄は上福島かみふくしまにいる友人の家へ年賀に往って非常に酔い、夜の十時ごろ阪急線の電車に乗ってやっと花屋敷はなやしきまで帰って来た。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お杉は三畳の微暗うすぐら茶室ちゃのまへ出て来て、そこの長火鉢によりかかっている所天ていしゅの長吉に声をかけた。それは十時ごろであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その日の昼ごろになって桐島きりしま伯爵が歿くなったと云うことが聞えて来た。豆腐屋の主翁はそれを聞いて真青まっさおな顔をした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜半ごろ、何かのひょうしに眼を覚ました夫人が、やるともなしに天井の方へ眼をやったところで、そこに小紋の衣服をて髪をふり乱した老婆がいて
天井裏の妖婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私はこのごろよく出かけて往く坂の上のカフェーで酒を飲みながら、とりとめのないことをうっとりと考えていた。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
昭和十年九月二十八日の夜の八時ごろ、駒込神明しんめい町行の市電が、下谷池したやいけの端の弁天前を進行中、女の乗客の一人が、何かに驚いたように不意に悲鳴をあげて
魔の電柱 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、近くの寺から響いて来る鐘に気がいて顔をあげた。十日ごろ月魄つきしろが池の西側の蘆の葉の上にあった。
おいてけ堀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「叔母さんこそ、どうかしてるのですよ、嘘と思や、今晩十二時ごろに来てごらんなさい、きっと来てますから」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夕方の六時四十分ごろ、その汽車が田浦を発車したところで、帽子をかぶらないあおい顔をした水兵の一人が、影法師のようにふらふら二等車の方へ入って往った。
帽子のない水兵 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これは「電球にからまる怪異」の話とともに、大正三年ごろハワイに住っていた田島金次郎おう土産話みやげばなしである。
机の抽斗 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
岩坂からじぶんの家まで二里位であるから、少し夜道をすれば帰れるが、このごろのように怪異がありつづけては、途中でどんなことが起るかも判らないと思うと
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旅僧は用人の聞いている昔主家に起った事件をはじめとして、近ごろの事件まで手に執るようにくわしく話しだした。用人は驚いて開いた口が塞がらなかった。
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜が更けて来るに従って十月ごろの陽気のように冷ひやとして来た。壮佼達は襟を掻き合せて顔を見あわした。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それはお淋しいでしょう、私も、このごろ、家内をくして一人ぼっちになってるのですが、同情しますよ」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「昼間出ようとすると、ばかなことを云うものだから、なぐりつけてやったのだ、あいつ、このごろ、よっぽどヒステリーだから、剃刀かみそりを持ってかかって来るのだ」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明治末季ごろ、その両親夫婦、すなわちお爺さんとお婆さんが、ちょっとした病気でわずかの間に死んでしまった。
平山婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小式部はその半ばごろから病気でもないのにやつれだして、いよいよ完成と云う日になって呼吸を引きとった。
偶人物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかたなしに泊って、夜中ごろに一度目を覚ましてみると、次のへやむすめが姉と激しく云い争っているのです
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
閽者もんばんは児を抱いた若い女の来たことを取りついだ。南は逢わなかった。南はその夜門の外で女と児の啼く声を徹宵よっぴて聞いたが、黎明よあけごろからぱったり聞えなくなった。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は待ちくたびれて女の往っている学校の傍を二時ごろから三時比にかけて暑いの中を歩いてみたが、その学校から数多たくさんの女が出て来てもあの女の姿は見えなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
政雄に同情を持っていた対手あいての運転手は政雄をカフェーへれて往って饗応ごちそうをしてくれたので、それがために遅くなって宿へ帰ったのは夜の十一時ごろであったが
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このごろ聞くと、村の人達が、うみの泥をあげて田を作ろうとすると、お前が亀に云いつけて、その人を喫い殺さすそうじゃ、不都合じゃ、その罰に毒蛇に云いつけて
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「主人は、このごろ、毎晩留守でございますから、お出でになりましても、当分お目にかかれますまい」
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おまえこそ、与茂七さんと云うれっきとした所天おっとがありながら、聞けば此のごろ、味な勤めとやらを」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明治三十年ごろのことであったらしい。東京の本郷ほんごう三丁目あたりに長く空いている家があったのを、美術学校の生徒が三人で借りて、二階を画室にし下を寝室にしていた。
女の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
逢引橋あいびきばしなどのあった三角の水隈みずくまには、今度三角の不思議な橋がかかったが、あのあたりは地震ごろまで川獺の噂があって逢引橋のたもとにあった瓢屋ひさごやなどに来る歌妓げいしゃを恐れさした。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その真紅な帆の帆前船ほまえせんが見えだしたのは、明治三十三四年ごろ、日本郵船会社の品川丸と云う古ぼけた千五百トン位の帆前船がドド根のあたりで沈没してから間もなくであった。
真紅な帆の帆前船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その来宮様のいた処は、今の静岡県しずおかけん加茂郡かもごおり下河津村しもかわづむら谷津やづであった。某年あるとしの十二月二十日ごろ、私は伊豆いず下田しもだへ遊びに往ったついでに、その谷津へ往ったことがあった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あれ程、昨夜も、主人はこのごろ留守であると申しあげておおきしましたに、それでは困ります」
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
阿芳の怨霊の事は、明治の終りごろまでは有名であったが、其の後は次第に忘れられていた。ところで、昭和二年の夏になって、又其の話がむしかえされるようになった。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは明治十五六年ごろの秋のことであった。ある日、一人の旅僧が飄然ひょうぜんとやって来て、勘右衛門かんえもんという部落でも一番奥にある猟師の家の門口に立って、一夜の宿をうた。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このごろ兄が御成敗になったと云うことを聞きましたから帰りました、私はべつに兄の罪科のことは知りませんが、兄弟である以上、その罪科は逃れないことだと思いまして
義人の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近代思想に関する講演をやったわかい思想家は、その夜の八時ごろにも十一時比にも東京行の汽車があったが、一泊して雑誌へ書くことになっている思想をまとめようと思って
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは十二三冊の小さな黄表紙きびょうし唐本とうほんで、明治四十年ごろ、私は一度浅草の和本屋で手に入れたが、下宿をうろついている間に無くしたので、この四五年欲しいと思っていた。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
結局あげくの果は何人かの者に手をかけて、この地に隠れておる者でござるが、時が経つにつれて浅間しく、邪慾のために、祖先を辱かしめたるこの身が恨めしゅう、此のごろでは
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これは明治三十七八年ごろ、田島金次郎翁が叡山に往っている時、ある尼僧に聞いた話である。
這って来る紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その夜老人は平生いつものように十時ごろからしんに就いたが、夜半になって急に発熱して苦しみはじめた。家族は驚いて薬をのませたり医者を呼んだりしたが、老人の熱は去らなかった。
位牌田 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
品川へ用達ようたしに往って、わたしは尾張町おわりちょうにいたのですよ、親方の用事で五時ごろから往ったのですが、やまの飲み屋で一ぱいやってるうちに、遅くなって、いっそ遊んで、朝
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)