棟梁とうりょう)” の例文
もう一人はこの堂を建てた大工の竹次、二人とも五十前後、町人と棟梁とうりょうで肌合は違いますが、物に間違いのありそうもない人間です。
「徳島へ出かけたついでに、刀を受け取ってきたのはたしかだが、それを途中で棟梁とうりょうの手へ渡したきり、後のことは何にも知らねえ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エドワルド、セビルという侠客おとこだてがございますが、これを江戸屋えどや清次郎せいじろうという屋根屋の棟梁とうりょうで、侠気おとこぎな人が有ったというお話にします。
おれに似て器用でもあるから、行く行くは相当の棟梁とうりょうにもなれようというような考えで、いよいよ両親は私を大工にすることにした。
仏庵、あざなは景蓮といい、世〻神田岩井町に住した幕府御畳方大工の棟梁とうりょうで、通称を弥太夫という。仏庵は秘蔵の古硯を蒸雲と名づけた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……吹屋の棟梁とうりょう結託けったくして小判を吹きわけて純金分だけにしておけば、ほんのわずかの量ですむ。……まあ、手前はこう睨んだ。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
棟梁とうりょうめツク/″\井口君の顔を眺めていたが、到頭、『俺は悪いことは言わない。あなたは警視庁を止めて泥棒になった方が早うごすぜ』
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
親戚の外にも棟梁とうりょうの塚田や「音やん」の代理の庄吉など、出入りの者の顔が少しは見え、船場時代に奉公していた人達も二三人は出席した。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そうですね、もしお建てになるようでしたら、あの大工にやらしてごらんなさいましよ。あれは広小路の鳥八十とりやそお出入りの棟梁とうりょうですの。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふとゆく手にあたって弓張提灯ゆみはりぢょうちん——まつ川と小意気な筆あとを灯ににじませて、「オッと! 棟梁とうりょう、ここは犬の糞が多うがす」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
へへねえ。こりゃまたどうしたんですかい。やけにまた下司げすなものが出てきたじゃござんせんか。まさかに、この侍、棟梁とうりょう
もったいなくも征夷大将軍、源氏の棟梁とうりょうのお姿を刻めとあるは、職のほまれ、身の面目、いかでか等閑なおざりに存じましょうや。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其上、朝令暮改、綸旨りんしたなごころを飜す有様である。今若し武家の棟梁とうりょうたる可き者が現れたら、恨を含み、政道をそねむの士は招かざるに応ずるであろう。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「神田の由太郎でございますがね、随分有名な棟梁とうりょうで、それが羽田へ参詣したまま、行方ゆくえが知れないじゃありませんか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
云わばこの度の困難をきりぬけて、松岡長吉には、腕のある棟梁とうりょうになって貰いたいというのが家中一同の念願であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして哄笑しながら、張華先生足下は、国家の棟梁とうりょうじゃないか。食を吐きて土を入れ、賢者を進用し、不肖者を黜退ちゅったいすべき、地位にあるのであろう。
支那の狸汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
これは嘉永三年陸がわずかに四歳になった時だというから、まだ小柳町の大工の棟梁とうりょう新八の家へ里子に遣られていて、そこから稽古けいこに通ったことであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その前後、日本唯一の西洋型船大工の棟梁とうりょうといわれた上田寅吉の伝えを受けて、加うるに駒井甚三郎の精到な指導監督の下に、工事を進めているこの船。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は乗り継ぎの早駕籠かごで来たのだそうで、「若棟梁とうりょうにすぐ帰ってもらいたい」と、助二郎の伝言を告げた。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いさめのつづみの……今度の棟梁とうりょうで、近常さんには、弟分だけれど相弟子の、それは仕事の上手ですって。
大方読者はみな既に感じておられるように、清和天皇から流れ出て、頼義・義家以来東国土豪の棟梁とうりょうになった源氏の嫡孫は、田舎人になっていても貴族である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
伊豆国の流人るにん頼朝はわしの見るところ、兵家の棟梁とうりょうたる人物、また天下の源氏を糾合きゅうごうするに足る材じゃ。
その道は、とっつきから、小さい魚屋、荒物屋、八百屋、大工の棟梁とうりょうの格子戸の家などが、いかにも分譲地がひらけるにつれてそこへ出来たという風に並んでいる。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
金兵衛さんが紺の透通すきとおった着物を着て、白扇はくせんであおいで風通しのいい座敷に座っていると、顔見知りの老船頭だの、大工の棟梁とうりょうのところの伊三いさというおいだのがかわるがわるに
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今度こっちの棟梁とうりょう対岸むこうに立ってのっそりの癖に及びもない望みをかけ、大丈夫ではあるものの幾らか棟梁にも姉御にも心配をさせるそのつらが憎くって面が憎くってたまりませねば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「では棟梁とうりょう元値もとねに買っておくんなさい。これが誰にでも穿ける靴ならば、わたしもこんなことを言いたくはありません。が、棟梁、おまえさんの靴は仁王様におうさま草鞋わらじも同じなんだから」
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
庄吉は勇ましいかしらの姿を見た、それから御幣ごへいと扇と五色の布とがつけてある大黒柱の神々しさを見た、そしてまた革の印絆纒しるしばんてんを着て少し傍に離れて立っている棟梁とうりょうの鹿爪らしい顔を見た。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
中年をすぎたこのうらぶれた棟梁とうりょうは、手の甲で洟水はなみずをグッと抑えた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
和蘭船おらんだぶねの帆の張り方を知って、どんな逆の風でも船を走らして、出没自在の海賊の棟梁とうりょう、なんでも八丈島はちじょうじま沖の無人島で、黒船と取引もしていたッてえ、あ、あ、あの松五郎の娘……あの松五郎の娘が
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
棟梁とうりょうの材ばかりなり夏木立
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その普請中ふしんちゅう不念入ふねんいりというかどで、最初の奉行、棟梁とうりょう小普請こぶしん方など、幾人もの者が、遠島に罪せられたほどやかましい建立こんりゅうであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「不思議なことに、綱吉の野郎と、水茶屋のお常を張り合っている男に、露月町ろげつちょうの大工の棟梁とうりょうで、辰五郎というのがあるんだよ」
いやしくも棟梁とうりょうといわれる大工さん、それが出来ないという話はない、漆喰しっくいの塗り下で小舞貫こまいぬきを切ってとんとんと打って行けば雑作もなかろう。
成るほど此の男は一廉ひとかどの大名らしい品格と貫禄かんろくとを備えているけれども、何だか優男やさおとこじみていて、二萬の大軍に号令する武門の棟梁とうりょうの威風がない。
家中のものの労賃は見積ってなかったが、やとい入れた棟梁とうりょうはもとより、その折々の特別な技術についてはその道のものを呼ばなければならなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何処で飲んでも「おい左官の亥太郎だよ、銭は今度持って来るよ」と云うと、棟梁とうりょうさん宜しゅうございますと云って何処でも一文なしで酒を飲ませる。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
与八の前へ棟梁とうりょうを呼んで、自分から言いつけて工事をやらせるという徹底ぶりにまでなったのですから、与八の本望は申すまでもなく、大工さんたちも
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神田の方のある棟梁とうりょうの家から来ている植源の嫁も、その主人のことを始終鶴さん鶴さんといって、うわさしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
金剛寺へ出入りする棟梁とうりょうに、和泉屋の本店はどこにあるのか調べてくれと頼んでおいたのが、けさ、その棟梁のもとから若い衆が返事の手紙を持って来て
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
陸が生れた弘化四年には、三女とうがまだ三歳で、母のふところを離れなかったので、陸は生れちるとすぐに、小柳町こやなぎちょうの大工の棟梁とうりょう新八というものの家へ里子さとこられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
翌朝よくちょう出入でいりとびの者や、大工の棟梁とうりょう、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中もなか、庭一面の霜柱しもばしらを踏み砕いた足痕あしあと
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
その棟梁とうりょうの源七どんの御内儀おかみさんがつまりこちらのお絹さんでごぜえますが、入れたはよいとして、いかにも不思議というのは、もうかれこれひと月の上にもなるのに
父の弥兵衛やへえは大工の棟梁とうりょうだったが、吝嗇りんしょくなくせに人の好い性分で、いつも損ばかりしていた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
吹所には、吹所棟梁とうりょうが十人、その下に棟梁手伝いがいて、約二百人の職人を支配していた。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お玉さんは親代々の江戸っ児で、阿父おとっさんは立派な左官の棟梁とうりょう株であったと聞いている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかるに平八は思うところあって棟梁とうりょう風にやつしてはいたが、ついうっかりとその点へまで、心を配ることをうち忘れ、武士を見る時にも与力風に、まず足から見たものであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
詩集巻七まきのしちに、席道士せきどうしをべんすとあるもの、疑うらくは応真、しくは応真の族をいためるならん。張天師は道家の棟梁とうりょうたり、道衍の張を重んぜるもあやしむに足る無きなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鉄鎚かなづちをお持ちの時、手をついていた富棟梁とうりょうが、つッとあとへ引きました。
定家の薨後こうごは事実上歌壇の棟梁とうりょうであったけれども、定家に抑えられていた反対勢力が少しは動き出した形があって、平穏とばかりはいえなかった。建治元年五月一日薨去、年は七十八であった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
由来、王朗は博学をもって聞え、大儒たいじゅの風もありといわれ、魏の棟梁とうりょうたる経世武略の人物として、名はあまねく天下に知れていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)