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朝靄
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あさもや
ふりがな文庫
“
朝靄
(
あさもや
)” の例文
湖の
面
(
おもて
)
には牛乳のような
朝靄
(
あさもや
)
が棚引きかけていました。その上から、まだ誰も起きていないらしい、なつかしい故郷の村が見えました。
ルルとミミ
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
とだけん
(著)
すると、百歩も行かないうちに、姿は見えないが
朝靄
(
あさもや
)
の中から、オーイッと高く呼ばわって、忽ち追い着いて来そうな
迅
(
はや
)
い跫音が聞えた。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
風が少しもなくて、薄い
朝靄
(
あさもや
)
を透して横から照り付ける日光には帽子の縁は役に立たぬものである。坂を上りつめると広い新開道があった。
雑記(Ⅰ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
もちろん、森も、山も、野も丘も、まだみんな深い
朝靄
(
あさもや
)
の中に眠って、
姉妹
(
きょうだい
)
の姿なぞの、その辺に見えようはずもありません。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
平次は口小言をいひ乍らも、事態重大と見たか、寢卷の前を掻き合せて、春の
朝靄
(
あさもや
)
の中へ、眠り足らぬ顏を出すのでした。
銭形平次捕物控:181 頬の疵
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
朝靄
(
あさもや
)
を、
微風
(
びふう
)
が
吹
(
ふ
)
いて、さざら波のたった海面、くすんだ緑色の島々、
玩具
(
おもちゃ
)
のような
白帆
(
しらほ
)
、
伝馬船
(
てんません
)
、久し
振
(
ぶ
)
りにみる故国日本の姿は
綺麗
(
きれい
)
だった。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
ジュ、ジュクと雀の
啼声
(
なきごえ
)
が
樋
(
とゆ
)
にしていた。喬は
朝靄
(
あさもや
)
のなかに明けて行く水みずしい外面を、半分覚めた頭に描いていた。
ある心の風景
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
朝靄
(
あさもや
)
山の腰をめぐりて高くあがらず淺間が嶽に殘る雪
旭
(
ひ
)
の光にきらめきたり滊車の走るに兩側を眺むる目いそがはし丘を
木曽道中記
(旧字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
船岡の町の一部は見えるが、原田家の館は山に隠れて見えない。館に続いている
砦山
(
とりでやま
)
が、
朝靄
(
あさもや
)
の中に、その頭部だけをくっきりと浮き出していた。
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
翌朝
(
あくるあさ
)
日覚めると明け放った
欞子窓
(
れんじまど
)
から春といってもないほどな
暖
(
あった
)
かい朝日が座敷の
隅
(
すみ
)
まで
射
(
さ
)
し込んで、牛込の高台が
朝靄
(
あさもや
)
の中に
一眸
(
ひとめ
)
に見渡された。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
名にし負う神通二百八間の橋を、
真中
(
まんなか
)
頃から
吹断
(
ふきた
)
って、隣国の方へ山道をかけて深々と包んだ
朝靄
(
あさもや
)
は、高く揚って
旭
(
あさひ
)
を遮り、低く垂れて水を隠した。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しかし日頃信頼する医者の
許
(
もと
)
に一夜を送って、
桑畠
(
くわばたけ
)
に続いた病室の庭の見える雨戸の間から、
朝靄
(
あさもや
)
の中に鶏の声を聞きつけた時は、彼女もホッとした。
ある女の生涯
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
駒井が例の如く
籐
(
とう
)
の鞭を振って立去る姿を、門に立った一学は、
朝靄
(
あさもや
)
の中に見えずなるまで見送っていました。
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
丁度上州一円に、
春蚕
(
はるご
)
が
孵化
(
かえ
)
ろうとする春の終の頃であった。山上から見下すと、街道に添うた村々には、青い桑畑が、
朝靄
(
あさもや
)
の
裡
(
うち
)
に、
何処
(
どこ
)
までも続いていた。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
暁方
(
あけがた
)
近くうとうとして、ごとりごとり床板を踏む、フォイツの足音に、ふと眼覚めた時は、枕に近い小さい窓には、
朝靄
(
あさもや
)
が浴場の
玻璃
(
はり
)
扉のように渦まいておる。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
そして、朝になると本当によかったと思うことが度々であった。よく庭を一杯に
籠
(
こ
)
めた
朝靄
(
あさもや
)
に段々明るく陽が射して来る工合が何とも言えないいい気持であった。
回想録
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
六月十一日 朝六時甲板に立出で楠窓と共に
朝靄
(
あさもや
)
深く
罩
(
こ
)
めたる郷里松山近くの島山を指さし語る。
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
碧
(
あお
)
い
朝靄
(
あさもや
)
を
被
(
き
)
て、山蔭の水も
千反
(
せんたん
)
の
花色綸子
(
はないろりんず
)
をはえたらん様に、一たび山蔭を出て朝日が
射
(
さ
)
すあたりに来ると、水も目がさめた様に
麗々
(
れいれい
)
と光り渡って、
滔々
(
とうとう
)
と推し流して来る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
梅田着の上り列車で同志会総理加藤高明男が南海遊説の
帰途
(
かへりみち
)
に大阪へ立寄るといふので、まだ薄暗い
朝靄
(
あさもや
)
のなかから、一等待合室へ顔を出した
待受
(
まちうけ
)
の三人衆、一人は
北浜花外楼
(
きたはまくわぐわいろう
)
の
女将
(
おかみ
)
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
緑のゴブラン織のやうな蔦の茂みを背景にして背と腰で二箇所に曲つてゐる長身をやをら伸ばし、
箒
(
ほうき
)
を支へに背景を見返へる老女の姿は、夏の
朝靄
(
あさもや
)
の中に
象牙彫
(
ぞうげぼ
)
りのやうに
潤
(
うる
)
んで白く
冴
(
さ
)
えた。
蔦の門
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
漢陽の家々の
甍
(
いらか
)
が
朝靄
(
あさもや
)
の底に静かに沈んで眠っているのが見えて来た。
竹青
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
寺を出たとき、夜は明けかかっていて、右側に迫っている山裾や谷や、左にひろがっている湖面が、濃くなり薄くなる
朝靄
(
あさもや
)
の中に見え隠れしていた。
若き日の摂津守
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その
朝靄
(
あさもや
)
をついて、ぴょいと、そこらの家から飛び出して来たひとりの身軽な
旅商人
(
たびあきんど
)
は、権之助と伊織のうしろから
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
付近の森や木立はまだ乳を溶かしたような
朝靄
(
あさもや
)
に閉じ込められて、深々とした暁の眠りのうちにあった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
村を立って、二日目の朝、大きな峠を登りますと、その峠の頂上から
遥
(
はる
)
か
彼方
(
かなた
)
に、
朝靄
(
あさもや
)
の中に、数限りもない人家が地面一ぱいに並んでいるのが
微
(
かす
)
かに見えました。
三人兄弟
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
雪の深い関ヶ原を
江州
(
ごうしゅう
)
の方に出抜けると、
平濶
(
へいかつ
)
な野路の果てに遠く太陽をまともに受けて
淡蒼
(
うすあお
)
い
朝靄
(
あさもや
)
の中に
霞
(
かす
)
んで見える
比良
(
ひら
)
、
比叡
(
ひえい
)
の山々が湖西に空に連らなっているのも
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
飄然
(
ひょうぜん
)
として橋を渡り去ったが、やがて中ほどでちょっと振返って、滝太郎を見返って、そのまま
片褄
(
かたづま
)
を取って引上げた、白い
太脛
(
ふくらはぎ
)
が見えると思うと、
朝靄
(
あさもや
)
の中に見えなくなった。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
こうして静かな
朝靄
(
あさもや
)
が、いつとなく晴れわたると、東の
極
(
はて
)
に朝日を浴びて、彼のグロース・シュレックホルンの屹えているのを仰ぐ、と間もなく、ブリュームリスアルプの山々は
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
脇本陣
(
わきほんじん
)
で年寄役を兼ねた
桝田屋小左衛門
(
ますだやこざえもん
)
と、同役
蓬莱屋
(
ほうらいや
)
新助とは、伏見屋より一軒置いて上隣りの位置に
対
(
むか
)
い合って住む。それらの人たちをも誘い合わせ、峠の上をさして、一同
朝靄
(
あさもや
)
の中を出かけた。
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
自分の頭をぽかぽかと
拳骨
(
げんこ
)
で
撲
(
なぐ
)
って、うろうろと、いまにも泣き出しそうな顔を、
朝靄
(
あさもや
)
の
彼方
(
あなた
)
へ上げた。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その四日目は、うすら寒く空は
時雨
(
しぐ
)
れて、
朝靄
(
あさもや
)
の晴れぬうち、いつかしとしとと小雨になった、東の窓はヴェランダにつづいて、蔓薔薇のからんだ欄干の上に、樅の梢が少し見える。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
対
(
むこ
)
うなる、海の
面
(
おも
)
にむらむらと
蔓
(
はびこ
)
った、鼠色の濃き雲は、
彼処
(
かしこ
)
一座の山を包んで、まだ
霽
(
は
)
れやらぬ
朝靄
(
あさもや
)
にて、もの
凄
(
すさま
)
じく空に
冲
(
ひひ
)
って、
焔
(
ほのお
)
の
連
(
つらな
)
って
燃
(
もゆ
)
るがごときは、やがて九十度を越えんずる
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
畠地のうしろの松林に濃い
朝靄
(
あさもや
)
がおりていて、その樹の間をしきりに小鳥が
啼
(
な
)
きながら飛び移っていた、頬白であろう、よく徹る美しい音色がきんきんと林へこだまし、筧をはしる水の囁きと和して
日本婦道記:不断草
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
白い
朝靄
(
あさもや
)
にまぎれて、地上に手をつかえて見送っている僧や牢人や市人たちもあった。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
もう、
梢
(
こずえ
)
のすがたは見えなかった。白い
枯野
(
かれの
)
の
朝靄
(
あさもや
)
から、
鴉
(
からす
)
が立ってゆく。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あの色けのない本船の
咽
(
のど
)
ぶとい汽笛の声が、
横浜
(
はま
)
の
朝靄
(
あさもや
)
をゆるがすころになると、あっちこっちの遊仙窟から、それこそ、とるものもとりあえず、といったような、あわてふためいた異人たちが
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ゆうべおそく、
関
(
せき
)
の追分で泊った二人なのに、その二人は今朝もまた、まだ
朝靄
(
あさもや
)
のふかいうちに、
筆捨山
(
ふですてやま
)
から四軒茶屋の前へかかり、やっとその頃、自分たちの背中から昇りかけた日の出を振向いて
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
朝
常用漢字
小2
部首:⽉
12画
靄
漢検1級
部首:⾬
24画
“朝”で始まる語句
朝
朝夕
朝飯
朝臣
朝餉
朝日
朝食
朝陽
朝鮮
朝廷