旅宿やど)” の例文
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、ことによったら、その供の男ッて奴は、ケタはずれな人間だから、旅宿やどへ連れて帰ってしまったんじゃないかと思ってさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で元気よく三脚を片付け旅宿やどへ帰えろうとかけますと、其時まで観ていた男女ふたりの者から呼び止められたのでございます。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
旅宿やど三浦屋みうらやと云うに定めけるに、ふすまかたくしてはだに妙ならず、戸は風りてゆめさめやすし。こし方行末おもい続けてうつらうつらと一夜をあかしぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
衣装みなりといい品といい、一見して別荘に来て居る人か、それとも旅宿やどを取って滞留して居る紳士と知れた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
殺される十日ほど前、夜中やちう合羽かつぱて、かさに雪をけながら、足駄あしだがけで、四条から三条へ帰つた事がある。其時旅宿やどの二丁程手前で、突然とつぜんうしろから長井直記なほきどのと呼び懸けられた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、御苦労さま、——ついそこの、花村と言う、旅宿やどの前に着けて下さい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
旅宿やどでの、大酒、高声、放談も慎んで頂きたい
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
越前えちぜんの府、武生たけふの、わびしい旅宿やどの、雪に埋れた軒を離れて、二町ばかりも進んだ時、吹雪に行悩みながら、私は——そう思いました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし旅宿やどはすぐ斜向すじむかいなので何の苦もない。開いている戸の間からはいって、寝臭い暗闇を撫でながら二階へ上がった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上等の食物に味のよい飲料、旅宿やども最うチャンと取ってある。これでは不平が無い筈である。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大津はゆえあって東北のある地方に住まっていた。溝口みぞのくち旅宿やどで初めてあった秋山との交際は全く絶えた。ちょうど、大津が溝口に泊まった時の時候であったが、雨の降る晩のこと。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
殺される十日程前、夜中やちゅう合羽かっぱを着て、傘に雪をけながら、足駄がけで、四条から三条へ帰った事がある。その時旅宿やどの二丁程手前で、突然うしろから長井直記どのと呼び懸けられた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はじめて、泊りました、その土地の町の旅宿やどが、まわり合せですか、因縁だか、その宿の隠居夫婦が、よく昔の事を知っていました。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「呉用先生のいいつけだから、どうでも旅宿やどへ連れて行こうと思ってよ、こっちも夢中で追ン廻しているうちに、あの蓮池へ落ッこちてしまった」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラシイヌは心でこう思って飽気あっけないような表情をしたが、ダンチョンを抛擲うっちゃっても置けないので、彼を旅宿やどまで運ぶための自動車を探しに街の方へ、大速力で走って行った。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その次は四国の三津が浜に一泊して汽船便びんを待った時のことであった。夏の初めと記憶しているが僕は朝早く旅宿やどを出て汽船の来るのは午後と聞いたのでこの港の浜や町を散歩した。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
伯父おぢは振り向きもせず、矢張りかさした儘、旅宿やど戸口とぐちて、格子こうしけてなか這入はいつた。さうして格子をぴしやりとめて、うちから、長井直記なほきは拙者だ。何御用か。と聞いたさうである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
食われて蟹が嬉しがりそうな別嬪べっぴんではありませんが、何しろ、毎日のように、昼ばたごから——この旅宿やどの料理番に直接じか談判で蟹をります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰のご紹介をお持ちになろうと、お会いになる気づかいはありません——とは、この旅宿やどあるじもいったことばである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして旅宿やどへ帰った頃には其絵のことも彼女のことも増して酒井のことなどは思い浮かべようとさえ為ませんでした。次に描くつもりの画稿のことを私は思い詰めていたのでした。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伯父は振り向きもせず、やはり傘を差したまま、旅宿やどの戸口まで来て、格子こうしを開けて中へ這入はいった。そうして格子をぴしゃりと締めて、うちから、長井直記は拙者だ。なに御用か。と聞いたそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅行りよかうして旅宿やどいてこのがつかりするあぢまた特別とくべつなもので、「疲勞ひらう美味びみ」とでもはうか、しか自分じぶん場合ばあひはそんなどころではなくやまひ手傳てつだつてるのだからはなからいきねつ今更いまさらごとかん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「うつけた女子おなごよの、音羽山の奥まで行くのに灯りなしでこの婆を歩ます気か、旅宿やどの提燈を借りて来なされ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……余り世間では知りませんが、旅宿やどが江戸時代からの旧家だと聞いて来たし、名所だし、料理旅籠はたごだししますから、いずれ由緒あるものと思われる、従って古いのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近年村々へ虚無僧、修行のていにて参り、百姓共へねだりヶ間敷儀申掛、或は旅宿やどを申付候様村役人へ申候故、宿取遣候得ば、麁宅そたくにて止宿成難を申あばれ、其の場に居合候ものどもを
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「小袖を訊いているのじゃない、胴着を出してたも。それから足袋も洗うてあるか、草履の緒もゆるい。旅宿やどへ告げて、わら草履の新しいのをもろうて来ておくりゃれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……のちに、大沼で、とれたといって、旅宿やどの台所に、白いがん仰向あおむけに、まないたの上に乗ったのを、ふと見まして、もう一度ゾッとすると、ひきつけて倒れました事さえあるんです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今は、何も云うめえ。どこか旅宿やどへでも落着いてから云うが、おれはおめえの心意気がうれしいんだ。捨てるくらいなら初めから、つかみちも聞かずにあんな金を出しはしない」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なつかしい浮世のさまを、山のがけから掘り出して、旅宿やどめたように見えた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「きょうとも明日あすともしてないのじゃ、幾歳いくつになってもあの子ときては子供じゃでのう。……それより自分で旅宿やどへ来ればよいに、住吉のこともあるので、がわるいのじゃろ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅宿やどいて、晩飯ばんめしと……おさかなういふものか、といた、のつけから
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
軽井沢へ避暑の真似をして、旅宿やどはらいにまごついたというのではない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅宿やどへ。——どこの旅籠はたごだ、その家は」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「仮のお旅宿やどは」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)