散々ちりぢり)” の例文
一門は散々ちりぢりだし、義朝様始め、その後、縁につながる奴等は、毎日のように河原で首斬られるし——いやもう生きた空はなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七時になるとプラスビイユの連中はアンリ・マルタン街の方へ散々ちりぢりになった。するとまもなく邸の右側の小門が開いてドーブレクが出て来た。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
御大おんたいはあの通り苦しんでいる、我々はみな散々ちりぢりバラバラになっているのに、ツイぞ今まで、福はどうしているかと、お見舞にあずかったためしがない
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乱箱みだればこたたんであった着物を無造作に引摺出ひきずりだして、上着だけ引剥ひっぱいで着込きこんだ証拠しょうこに、襦袢じゅばんも羽織もとこすべって、坐蒲団すわりぶとんわきまで散々ちりぢりのしだらなさ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはほんの寸刻前いましがたのことで、今はもうこの店の間には、捕り方も湯治客もいなかった。捕り方は奥へ走り込み、湯治客たちは散々ちりぢりに逃げたからであった。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
総隊は、さて列を解き散々ちりぢりとなって所定の位置に着くと、第一の牛が放される。牛は暗闇から急にめくらむような明るい砂地に引き出されてはなはだ当惑のてい
彰義隊は苦戦奮闘したけれども、とうとう勝てず、散々ちりぢりに落ちて行き、昼過ぎにはいくさみました。
その船行方ゆくえなくなりてのちは、家に残る人も散々ちりぢりになりぬるより、絶えて人の住むことなきを、この男のきのうここに入りて、ややして帰りしをあやしとてこの漆師ぬしおじが申されし
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一、上野介殿十分に討取候とも、銘々めいめい一命のがるべき覚悟これなき上は、一同に申合せ、散々ちりぢり罷成まかりなり申まじく候。手負ておいの者これ有においては、互に引懸ひっかけ助け合い、その場へ集申べきこと。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
騒ぎくたぶれて衆人みんな散々ちりぢりに我家へと帰り去り、僕は一人桂のうちに立寄った。黙って二階へ上がってみると、正作は「テーブル」に向かい椅子いすに腰をかけて、一心になって何か読んでいる。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此の家三とせばかりさきまでは、村主すぐりの何某といふ人の、一八九にぎはしくて住みはべるが、一九〇筑紫つくしあきみてくだりし、其の船行方ゆくへなくなりて後は、家に残る人も散々ちりぢりになりぬるより
三年の月日を姉と呼び妹と呼んで一棟の寄宿舎に起臥おきふしを共にした間柄、校門を辞して散々ちりぢりに任地に就いてからの一年半のうちに、身に心に変化のあつた人も多からうが、さて相共に顔を合せては
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
浄音寺から水門尻へわたる捕手明り半円の灯の陣は、今、三枚橋と下谷の二手へ列を乱して、吹かるる螢の如く散々ちりぢりに追って行きます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
散々ちりぢりバラバラ逃げ去ってしまったということでございますね、どこへ行ってもその評判で持ちきりでございますよ。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……昔は同じ夜働き、三甚内と謳われた我ら、今は散々ちりぢりバラバラの、目明しもあれは女郎屋もある。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
果ては人波に押されまれしている中に三人は散々ちりぢりバラバラになってしまいました。
時しも一面の薄霞うすがすみに、処々つやあるよう、月の影に、雨戸はしんつらなって、朝顔の葉を吹く風に、さっと乱れて、鼻紙がちらちらと、蓮歩れんぽのあとのここかしこ、夫人をしとうて散々ちりぢりなり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の妻子、老少を始め、糜竺、糜芳、趙雲、簡雍そのほかの将士はみな何処で別れてしまったか、ことごとく散々ちりぢりになっていたのである。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往来にある屍体は、田の中へ叩き込み、そうして、六七名の者は、そのまま散々ちりぢりに姿を隠してしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうしてほとんど小半刻あまり、人と猛獣との格闘が雪の山路で行われたが、白毛を冠った狼が、若者の太刀下にたおれると同時に狼の群は山奥を目掛けて散々ちりぢりに散って見えなくなった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとは散々ちりぢりである。代診を養子に取立ててあったのが、成上りのその肥満女ふとっちょと、家蔵いえくらを売って行方知れず、……下男下女、薬局のともがらまで。勝手につかみ取りの、ふくろうに枯葉で散り散りばらばら。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麾下きか三軍の兵は、めどを失い、散々ちりぢり逃げ帰りもしたろうが、彼とすれば「何でおめおめ、この面さげて都へ」という感慨だろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その前後に神尾に召使われたものは散々ちりぢりになって、いつか知らぬうちに神尾家は全く甲府から没落してしまい、躑躅つつじさきの古屋敷も売り物に出てしまいました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ツになり、散々ちりぢりにちらめいて、たちまさんく、くれないとなく、紫となく、緑となく、あらゆる色が入乱いりみだれて、上になり、下になり、右へ飛ぶかと思ふと左へおどつて、前後にひるがえり、また飜つて
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
敵は頑強に手向かったが間もなく散々ちりぢりに逃げてしまった。
かくて味方とも散々ちりぢりにわかれて後、義経の足跡そくせきは、四天王寺までは見た者もあるが、そこを立退たちのいた先は、まったく踪跡そうせきくらましてしまった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ、これらの一味の者が散々ちりぢりになって、或る者は伊勢路へ、或る者は紀州領へ、或る者は大阪方面を指して、さまざまに姿を変えて落ちた後のことであります。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
振返ると、まだそこに、掃掛けてしたように、あおきが黒く散々ちりぢりである。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「四方に散々ちりぢりに散っている友船をことごとく集めねばならぬ」
で、常から睨まれていた山手組は、否応なく十手の雨の的となって、たちまち二、三人はそこに召捕られ、残る者は皆散々ちりぢりに逃げ失せてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十文字に攻めたりける、四郎左近太夫大勢たいぜいなりと雖も、一時に破られて散々ちりぢりに、鎌倉をさして引退ひきしりぞ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
散々ちりぢりになった中に、しなやかにひじをついて新聞を読む後姿。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや金吾のみならず、あの関所の人数が暴風のように千鳥ヶ浜を襲った後は、みな散々ちりぢりばらばらになッて、八方へ敗走せざるを得なかったでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
散々ちりぢりになって、このあたりの村々で亡くなった、それを神に祭って「きさきみや」とあがめてあること、帝が崩御ほうぎょあそばした時、神となって飛ばせ給うところの山を「天子てんしたけ」と呼び奉ること
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蜘蛛の子は、糸を切られて、驚いて散々ちりぢりなり。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何をいうかご家老。われわれ宿将たちが、散々ちりぢりに主君のお側を離れてよいものか、われらは城門と君側を固く守る。姫路の急援には他の人があろう」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お君が入って来た軽業の一座は、あれから散々ちりぢりになってしまって、またも旅廻りをしているか、江戸へ帰ったか、それさえ消息たよりがないということで、お君は落胆がっかりしました。兵馬も困りました。
と、それは、ここにいる者のすべてのねがいだったが、頼朝も、他日を期して別れてくれと云い渡したので、人々は、やがて散々ちりぢりに、思い思いに、落ちて行くしかなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰ってゆく百姓たちも、声をかけ、礼拝して、散々ちりぢりに、宵暗よいやみの中へ消えて行く。と——そこへ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安兵衛の家にも、宵から討入りの祝宴があり、やがて、それの片づく頃には、矢倉やのくらに集まった人々や、その他、散々ちりぢりに今宵を待っていたともがらが後から後からとここへ来て落ち合っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、わしを追いかけて来た賊が、反対にまたここへ、散々ちりぢりに逃げて来るにちがいない。その時は、お前たちがわっと声をあげ、不意に横から衝け、足を払え、真っ向をなぐりつけろ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元の岩井一座なら、とうに厚木か四日市で散々ちりぢりになっている一座じゃないか。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おたがいに明るい話題を持って会おうじゃないかと約束して散々ちりぢりに分れた。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、身を伏せ、やがて散々ちりぢりになって来る賊を見ると、再び、わっと包んで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにゃあず、今度の変事の経緯いきさつからお話し申さなくちゃお分りになりますめえが、実は貴方が小野の道場へ行ってから、生不動ひとまきが散々ちりぢりばらばらになるような大変が起ったのでごぜえます
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村重もまた、毎日、散々ちりぢりに脱軍する部下を恨むこともならなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いいえ、それは、この身から云うことじゃ。主従の縁も、はや薄らいで、散々ちりぢりに、行方も知らぬ人すらあるに——いやそうした事が世の常なのに——。内蔵助、そなたとは、まだ、主従と思うて居りますぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ちょうどよい。われらも、散々ちりぢりに参りましょう」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)