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放擲
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ほうてき
ふりがな文庫
“
放擲
(
ほうてき
)” の例文
もし、清国政府が日本政府に対して悪感情を抱き、現在の好意的な中立の態度を
放擲
(
ほうてき
)
して逆に
露西亜
(
ロシア
)
に傾いて行ったら、どうなるか。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
愛のため、ニコロの愛欲の満腹のためには、私は未来の歓楽もビイクトリア勲章の憧れさえも、
放擲
(
ほうてき
)
する考えだ。私は死すとも恥ない。
恋の一杯売
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
小倉は、水夫見習いが楽に出るようにと思ったのであったが、しかし舵機は同位に船首を保つために、一刻も
放擲
(
ほうてき
)
しては置けなかった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
もし
放擲
(
ほうてき
)
すれば、ほとんど進歩党は瓦解し尽し、自由党の如く政友会の下に加わらなければならぬという運命に
出遇
(
であ
)
ったのである。
〔憲政本党〕総理退任の辞
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
もう一切を
放擲
(
ほうてき
)
させる程の力で。高輪の家の蒸暑い夏の夜なぞは彼は奥の部屋の畳の上に倒れて死んだように成っていることもあった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
自分が手を引っぱって或生活から踏み出させて置きながら、其を
放擲
(
ほうてき
)
するということは、自分の真心として
□
(
一字不明
)
るべきではないことを知る。
日記:06 一九二〇年(大正九年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
青眼につけた剣にも、身構え、呼吸にも、どうかするとすてばちとも思えるほど無関心な、
放擲
(
ほうてき
)
したような態度がうかがわれた。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
正月以来、他ノ一切ヲ
放擲
(
ほうてき
)
シテ妻ヲ喜バスヿニノミ熱中シテイタラ、イツノマニカ淫慾以外ノスベテノヿニ興味ヲ感ジナイヨウニナッタ。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
けれど、秀吉との交情と、その恩遇のために、又左衛門利家は、ついに、
中原
(
ちゅうげん
)
に出て天下を争う考えは
放擲
(
ほうてき
)
せざるを得なかった。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
安らかに生命を保つ。そんなことを青年が考えるときではない。この命題を前提とするすべての思想を私らは当分
放擲
(
ほうてき
)
しなければならない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
近所
合壁
(
かっぺき
)
みんな肺病患者で、悲しい哉、彼等の大部分の人達は他の一切を
放擲
(
ほうてき
)
して治病を
以
(
もっ
)
て人生の目的とする覚悟がなく
青春論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
放擲
(
ほうてき
)
して目的に取り組む。普段は随分打算家で、世間師の僕だがね。ここのところを君のお父さまは冷静を欠くと叱りなすったし、僕の前の……
扉の彼方へ
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
兵馬が最初の
当途
(
あてど
)
もない甲武信の山入りを
放擲
(
ほうてき
)
したのと、お銀様と共に、その未だ知られざる温泉へ、発足しようと思い立ったのとは同時です。
大菩薩峠:23 他生の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
こんなに幾月もほかのことは
放擲
(
ほうてき
)
したふうで付ききりで看護もしていますが、またその時期が来ればあなたによく思ってもらえる私になるでしょう
源氏物語:35 若菜(下)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
先達
(
せんだっ
)
ての告白を再び同じ
室
(
へや
)
のうちに繰り返して、単純なる愛の快感の
下
(
もと
)
に、一切を
放擲
(
ほうてき
)
してしまったかも知れなかった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
これをもって方今士君子、唐楽・猿楽にては
面白
(
おもしろ
)
からず、俗楽は卑俚に
堪
(
た
)
えずとして、ほとんど楽の一事を
放擲
(
ほうてき
)
するに至る。これまた
惜
(
おし
)
むべきなり。
国楽を振興すべきの説
(新字新仮名)
/
神田孝平
(著)
回教徒が三十日もの間毎日十二時間の断食をして、そうして自分の用事などは
放擲
(
ほうてき
)
して
礼拝三昧
(
らいはいざんまい
)
の陶酔的生活をする。
映画雑感(Ⅲ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
わたしは東洋人が瞑想と仕事の
放擲
(
ほうてき
)
ということによって何を意味するかをさとった。おおむね、わたしは時間がどうたっていくか心にとめなかった。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
一端口外した自家意中の計画をさえも容易に
放擲
(
ほうてき
)
して少しも
惜
(
おし
)
まなかったのはちょっと類の少ない負け嫌いであった。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
道元は仏法のために
身心
(
しんじん
)
を
放擲
(
ほうてき
)
せよという。そうしてこの身心の放擲は、「汝の隣人に対する愛」にとってきわめて重大なる意味を持つものである。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
「吾等、大悟一番、生死の念を
放擲
(
ほうてき
)
して、夕立の中へ、駈込むのだのう。濡れまいとするから、押合いになるが、十死一生と観ずれば、夕立何物ぞ」
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ことにこの一、二年はこの詩集すら、わずかに二、三十巻しかないわが蔵書中にあってもはなはだしく冷遇せられ、架上最も
塵
(
ちり
)
深き
一隅
(
いちぐう
)
に
放擲
(
ほうてき
)
せられていた。
小春
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
時には、一切
放擲
(
ほうてき
)
、生命さへも別に執着もなくなつて、誰かに簡単にくれてやりたい状態にさへなつてゐる。
大凶の籤
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
種々の
苦悶
(
くもん
)
のうちにあって既に長い間、彼は仕事をやめていた。およそ世に仕事を
放擲
(
ほうてき
)
するくらい危険なことはない。それは一つの習慣がなくなることである。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
然
(
しか
)
れども首相阿部伊勢守を始めとして、幕閣は半信半疑にこれを
放擲
(
ほうてき
)
し、さらに何の準備もなさざりき。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
ありふれた日常の仕事は
放擲
(
ほうてき
)
されてしまった。てんでに思い思いの意見や善後策を持ち出すけれど、一致を見ることができないからであった。農業も中止された。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
最近聖典を失いましたため、一時研究を
放擲
(
ほうてき
)
しましたが、大挙して諸君が参られたからは、再び勇気を
揮
(
ふる
)
い起こし、所期を貫徹致すべく努力するつもりでございます
加利福尼亜の宝島:(お伽冒険談)
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そして終わりには、新たな
玩具
(
がんぐ
)
のためにすべてを
放擲
(
ほうてき
)
した。飛行機にたいする世人の熱狂にかぶれた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
祖父は自分が懲りているので、父の代になって家庭に鳴物と勝負事は一切入れなかった。母は長唄と下方の笛が得意であったが、そんなものは皆
放擲
(
ほうてき
)
して了っていた。
回想録
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
献身的ともいえる、妻の愛情に応えるために、私は一切の自己を、或は自己の一切の計量を
放擲
(
ほうてき
)
しようと試る。病気は医者任せ、後は運命に任せるより他はないではないか。
澪標
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
同時に
心柄
(
こころがら
)
なる身の末は一体どんなになってしまうものかと、いっそ
放擲
(
ほうてき
)
して自分の身をば他人のようにその
果敢
(
はか
)
ない
行末
(
ゆくすえ
)
に対して皮肉な一種の好奇心を感じる事すらある。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
私としては、今眼前にあるこの白人女性の不幸な屍体を、ただこのままに
放擲
(
ほうてき
)
してキャンプへ引き揚げてしまうということが、情において何としても忍びぬことなのであった。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
仁清再現の企図だけは計画いくばくもなくして
放擲
(
ほうてき
)
せられた……を人から聞き知った。
素人製陶本窯を築くべからず:――製陶上についてかつて前山久吉さんを激怒せしめた私のあやまち――
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
今まで文芸などに遊んでおった身で、これが果してできるかと自問した。自分の心は無造作にできると明答した。文芸を三、四年間
放擲
(
ほうてき
)
してしまうのは、いささかの
狐疑
(
こぎ
)
も要せぬ。
水害雑録
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
それも熔岩と砂礫の互層や、岩脈のほとばしりを露出して、整然たる成層美を示すところもあるが、多くは手もつけられないほど、砂礫や灰を
放擲
(
ほうてき
)
したようで、
紛雑
(
ふんざつ
)
を極めている。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
海が荒れるから今日は引返そうというような不自由極まる鑑賞方法に、この壮大な天然を
放擲
(
ほうてき
)
して置いてはいけない。できるだけいろいろの変化が見られるようにする必要がある。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
ば、全く土芥のごとくに
放擲
(
ほうてき
)
したのである。今やこの五尺の体躯こそ、最も貴重すべき宝となったではないか、それをも棄てさするに至っては……ああ、天地一の善神さえ無いのか!
太陽系統の滅亡
(新字新仮名)
/
木村小舟
(著)
その長い間
放擲
(
ほうてき
)
していた私の仕事を再び取り上げるために、一人きりにはなりたいし、そうかと言ってあんまり知らない
田舎
(
いなか
)
へなぞ行ったら淋しくてしようがあるまいからと言った
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
地理の宿題で大変綿密な地図を描かせられたことがありました。面倒がりやの僕は中途でそれを
放擲
(
ほうてき
)
してしまったのですが、友はそのために徹夜して僕の分まで仕上げてくれました。
わが師への書
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
放擲
(
ほうてき
)
され、人工の森や林や花園は、殆ど元の姿を失って、雑草のはびこるに任せ、鉄筋コンクリートの奇怪な大円柱
達
(
たち
)
も、風雨に
曝
(
さら
)
されて、いつしか原形を
止
(
とど
)
めなくなって了いました。
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
階下では妻と子が病気で
呻吟
(
しんぎん
)
しているが、近頃は
薬餌
(
やくじ
)
の料も
覚束
(
おぼつか
)
ない有様であるのに、もしベルリオーズが
金儲
(
かねもう
)
けの俗事を
放擲
(
ほうてき
)
して、
交響曲
(
シンフォニー
)
の作曲に
没頭
(
ぼっとう
)
したらどんなことになるだろう。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
事件を全然
放擲
(
ほうてき
)
しかねまじい失意を、法水が現わしたばかりでなく、せっかく見出した確証を掴もうとした矢先、その希望が全然截ち切られてしまって、もはやこの事件の刑法的解決は
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
含有する意味をもよくは探らで難解の句を
放擲
(
ほうてき
)
するは今の学生の弊なり。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
だが、ここではそういう企図ははじめから
放擲
(
ほうてき
)
せねばならぬ。
昭和四年の文壇の概観
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
現状のままに
放擲
(
ほうてき
)
して置いて好いでしょうか。
平塚さんと私の論争
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
放擲
(
ほうてき
)
し去り放擲し去り
明
(
あけ
)
の春
七百五十句
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
それが空想であるか、実在であるかを決めるのは私らの
放擲
(
ほうてき
)
、
憑依
(
ひょうい
)
、転換——内面から迫られた一種の冒険でなければならないかと思います。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
代助は、
百合
(
ゆり
)
の
花
(
はな
)
を
眺
(
なが
)
めながら、部屋を
掩
(
おゝ
)
ふ強い
香
(
か
)
の
中
(
なか
)
に、
残
(
のこ
)
りなく自己を
放擲
(
ほうてき
)
した。彼は
此
(
この
)
嗅覚の刺激のうちに、
三千代
(
みちよ
)
の過去を
分明
(
ふんみよう
)
に認めた。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
以前は彼の快活を愛したエリス教授も、最早一頃のように忠告することすら
断念
(
あきら
)
めて、彼が日課を
放擲
(
ほうてき
)
するに任せた。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
金溜
(
かねた
)
め主義を
放擲
(
ほうてき
)
してぱっぱっと使う気になったのであろうと、簡単に解釈していたのであったが、実際はそれだけのことではないらしくもあった。
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
“放擲”の意味
《名詞》
放擲(ほうてき)
投げ捨てること。投棄すること。
放り出すこと。
(出典:Wiktionary)
放
常用漢字
小3
部首:⽁
8画
擲
漢検1級
部首:⼿
18画
“放”で始まる語句
放
放蕩
放埒
放火
放縦
放恣
放逐
放肆
放埓
放免