捕手とりて)” の例文
「五百之進の不在こそかえって倖せ、今夜にでも、ふいに捕手とりてを向けて、奥にもぐりこんでいる郁次郎を、召捕ってみるといたそうか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕自慢の若侍が数をたのんでとりかこんでも、またたくうちに突き伏せられてしまう始末で、同心も捕手とりても近よれたものじャない。
取出し見れば最早もはやかほ劔難けんなんさうあらはれたれば然ば明日は病氣といつはり供を除き捕手とりての向はぬ内に切腹せつぷくすべしと覺悟かくごを極め大膳のもと使つかひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「痛えッ!」「痛かったら死ね、死んだ真似まねでもしろ」「何にいッ」と捕手とりてが机の上に跳ねあがって大河内を追っかけはじめた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
吹田村すゐたむら氏神うぢがみの神主をしてゐる、平八郎の叔父宮脇志摩しまの所へ捕手とりての向つたのは翌二十日で、宮脇は切腹して溜池ためいけに飛び込んだ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこで、捕手とりてはチユウヤの門の前で『火事だ、火事だ』といふ声をあげた。チユウヤは火事を見届みとどけるために、門の外へ走り出した。捕手とりてはそれを襲撃した。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて追ひ縋り来りし数多の捕手とりてを前後左右に切払ひつゝ山中に逃れ入り、百姓の家に押入りて物を乞ひ、押借り強盗なんどしつゝ早くも長崎の町に入りぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「つかまえに来たのか?」彼は昨夜捕手とりてに向かって夢中にいい放った自分の乱暴な言葉を不意に思い出した。
黒い影は町方まちかた捕手とりてであった。父子が大宝寺町まで行き着かないうちに、捕手は二人を取り巻いた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御秘蔵の兜を盗んだ謀逆人むほんにん、謀逆人、殿様のお首に手を掛けたも同然な逆賊でございますとさ。おかげで兜が戻ったのに。——何てまあ、人間というものは。——あれ、捕手とりてかかった。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっさい捕手とりての四、五人が台所のはりの上から天井裏へはいりこんで、隅から隅まで見届けて異常なしと復命したくらいだから、まったく「見落とし」たわけではなかったが——いや
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おとっさん、そのことでしたら。」と半蔵は言う。「なんでも、小諸藩こもろはんから捕手とりてが回った時に、相良惣三の部下のものは戦さでもする気になって、追分の民家を十一軒も焼いたとか聞きました。 ...
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弥次馬は崩れたが、逃げられないのは警護に出向いていた奉行ぶぎょう捕手とりて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると捕手とりての方も手当は十分に附いているから、もし此の窓から逃出したら頭脳あたま打破うちわろうと、勝藏かつぞうと云う者が木太刀きだちを振上げて待って居る所へ、新五郎は腹這はらばいになってくびをそうッと出した。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこで藩にも差置けぬというので幕府の捕手とりての手を借りて召捕ってもらう事にした。もとより公然幕府の手を借りるという事は手数のことだから、ないないで捕手に物をつかって頼んだのであった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
捕手とりての上役が、ひとりで何かうなずいた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と一かつすれば捕手とりての者も閉息へいそくする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今また新なるインケンな敵の捕手とりて
白い魔の手 (新字新仮名) / 長沢佑(著)
青い捕手とりて幕切まくぎれ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
捕手とりてだ!
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
翌々日、二人は、手筈てはずしめし合わせて、向島から竹屋へ渡舟わたった。二人の後から五、六名の捕手とりてが、平和な顔をして、歩いて行った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暫くすると戸口が細目にいた。内からのぞいたのは坊主頭ばうずあたまの平八郎である。平八郎は捕手とりてと顔を見合せて、すぐに戸を閉ぢた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
群がり立つたる槍襖やりぶすま戞矢かつし々々と斬り払ひ、手向ふ捕手とりて役人を当るに任せてなぐり斬り、或は海へひ込み、又は竹矢来やらいへ突込みつゝ、海水をあけに染めて闘へば
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は捕手とりての役人に囲まれて、長崎の牢屋ろうやへ送られた時も、さらに悪びれる気色けしきを示さなかった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして彼は鋭く裏の戸口を指さすと、また後ろに向いて捕手とりての方に一歩近づいた。
真っ黒ぐろに折り重なった捕手とりての山! 十手の林! しいんとばいをふくんで。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのうちに高野長英の捕物一件が出来しゅったいして、長英は短刀を以って捕手とりての一人を刺し殺し、更に一人に傷を負わせ、自分も咽喉のどを突いて自殺するという大活劇を演じたので、近所の者はきもを冷やした。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そうしたほうがいいだろう。ここへ捕手とりてン込んで、枕元から縄付きになった日には、養父おやじさんも安々と行く所へも行かれまい」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死骸らしい物のある奥の壁際かべぎはに、平八郎はさやを払つた脇差わきざしを持つて立つてゐたが、踏み込んだ捕手とりてを見て、其やいばを横にのどに突き立て、引き抜いて捕手の方へ投げた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
お妙が、喬之助の前に、かばおうとするように立っていた。壁辰は、部屋の真ん中にドッカリすわりこんで、がッしと腕を組んだ。四、五人の捕手とりてが、十手をひらめかして喬之助へ打ち掛ろうとした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こだまをよびあって、不敵なしれ者の行方をさがしまわっている捕手とりてたちの声が聞えてでも来るように——夜かぜがひさしにさわいでいた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっぽう、捕手とりてにかこまれて、引ッ立てられた龍巻たつまきは、このていをみると、あたりの者をはねとばして、形相ぎょうそうすごく、民蔵たみぞうのそばへかけよった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
谷川橋まで出向いていた役人の群れが、なにしろ、物々しく殺気立っていたし、その他、十名、二十名ずつの捕手とりてが、幾組たむろしていたろうか。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神田橋近くへ来ると、番屋からも手を借り、十四、五名になった捕手とりてを、石垣のすそだの、樹蔭こかげだの、橋のたもとだのへ配って
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、大須賀康隆おおすかやすたかの部下である。扇山へあやしの者がいりこんだと聞いて、捕手とりてをひきいてきたものだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実をいうと眼八は、大勘の家へ旅人として静かに泊り込んだまま、夜半よなかに、外へ迫る捕手とりてへ案内をする約束であった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多寡たかをくくッて通ろうとすると、すでに、熱海にいる釘勘から密告の早打はやが飛んでいて、小田原の役人や捕手とりてがビッシリ手配をしていたのであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日どりをしめし合せて、甲府と高麗村から挾撃的きょうげきてき捕手とりてを出し、寒さを冒し天童谷をうかがってみた事がありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜叉やしゃのごとく荒れまわった忍剣は、とつとして、いっぽうの捕手とりてをかけくずし、そのわずかなすきに、ふたたびわしくさりをねらって、一念力、戛然かつぜんとうった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひじをはずして、一人の捕手とりてを勢いよく投げつけた。途端に、サッと持った匕首あいくちが、青い光流こうりゅうを描いて横に走った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——その目の前の往来をかすッて、十四、五人ずつ二組ばかりの捕手とりてと組子が、手に手に十手をしのばせて、忍川の川尻へ真ッ黒になって馳けて行く——。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又、萩乃を召捕ったのも同じ考えであったし、八雲様のやしきへ、捕手とりてを向けたのも、この熊楠に相違ないのです
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外へ出ると、屋敷のまわりに、捕手とりてたちが四、五人ずつかたまって待っていた。黙々と黒い列が葬式のように藪と藪の間の狭いだらだら坂を降りて行く——。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずかな間に、げっそりと衰えた塙郁次郎は、やがて、軍鶏籠とうまるかごの人となった。警固は、二十人余りの捕手とりて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……今、親切に教えてくれた者があって、すぐにも、捕手とりてが来るかも知れぬのだ。とにかく、一時、この神社の裏山へ登って、谷間へでも何処へでも隠れておれ。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろめきそうな足を、一心にふみしめていたかの女は、やがて、のどからびつくような声を捕手とりてへ投げた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、役付やくづきでない鴻山や一八郎が、かく早速な捕手とりてを連れてきたのも不審——と外を見ると、捕手はいない、すぐ前の木立の蔭に、たッた一人の男が腰をかけている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捕手とりてだ! 足がついた。密かに伏せた、十四、五本の十手。霜より真っ白に光ってみえる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒屋の勘定ぐらいならよいが、官の捕手とりてを殺したのは、雲長の義弟おとうとだと分ったひには、童学草舎へも子供を通わせる親はあるまい。いずれ官からこの雲長へも、やかましく出頭を
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれには、捕手とりても同心もない。ただあるのは、目指す剣山の山牢があるばかりだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)