打棄うっちゃ)” の例文
打棄うっちゃっておくと伊呂波いろは四十八文字を、みんな書きそうな形勢になって来たのには、持って生れたブッキラ棒の吾輩も負けちゃったね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
下僕しもべは「それでもいうたら大変に怒られるから仕様しようがない。」「そんならこの儘打棄うっちゃって置いてもよいか。一月かかってもよいのか。」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
オーレンカはサーシャが両親にすっかり打棄うっちゃられて、一家の余計者扱いにされ、じにしかけているような気がしてならなかった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかし何処かへ打棄うっちゃらかしておいた、小さな皿や茶碗ちゃわんなどを一所懸命にき集めて、前と同じようなままごとを二人だけでしはじめた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
誇るに西洋料理七皿をもってする、かたのごとき若様であるから、冷評ひやかせば真に受ける、打棄うっちゃって置けばしょげる、はぐらかしても乗出す。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜ胸を小衝こづかれたような心もちになるか、そして又なぜに自分の視覚がその咄嗟とっさの間にどぎまぎして、いままで眺めていたものを打棄うっちゃって
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
廿九年めえに殺そうと思って打棄うっちゃった己が生きて居ちゃア都合が悪いから、また殺そうとするのか、本当の親の為になる事なら命は惜まねえが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分の頭の上でこんな捫着もんちゃくを始められては、市之助ももう打棄うっちゃって置かれなくなった。彼はよんどころなく起き直った。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
アッサリ打棄うっちゃられたが、私のヘボ碁には出来すぎた碁で、黒白童子や覆面子を感心させ、呉氏もほめていたそうだ。
呉清源 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いくら放任教育でも有繋さすがにお客のさかな掠奪りゃくだつするを打棄うっちゃって置けないから、そういう時は自分の膝元へ引寄せておわんふたなり小皿こざらなりに肴を取分けて陪食させた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
然しだけ余計だよ。そんなことは打棄うっちゃってしまうさ。……がまあ、今晩はゆっくり話をしよう。そして、このことは達子には内密ないしょにしといてくれ給い。彼女あれの心を
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
また春が来ますと、大空にはいつの間にか紙鳶たこの揚がっているのが目につき同時に今まで打棄うっちゃってあった野良の田畑にぽつぽつと百姓の姿を認めるようになります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
政吉 ああ痛え——いいよ、何、打棄うっちゃっといてくれ、それよりあ二人共、さあ早く逃げて行きな。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
種をいたのでもなければ、苗を植えたのでもない。畠の隅に桃の木が生えたのを打棄うっちゃって置いたら、いつの間にか花が咲くようになった。「桃栗三年柿八年」という。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「僕のことなんか打棄うっちゃっておいて呉れ。無鉄砲をわらわれる資格は充分に有るのだから……」
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「俺、棄児すてごだからな、物心ものごころを知らねえうちに打棄うっちゃられただから、どこで生れたか知らねえ」
「こうなると主人のかたきだから、打棄うっちゃっては置かれない。宗匠も助太刀に出て下さい」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「今までの儲け溜めさ。金利さえ打棄うっちゃれば宜いんだから、これだけは放さない」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
深い決意の色があらわれているのを見ましたが、打棄うっちゃっておきました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「何だ何だ、蜜柑を遣る。かう死んだ小児がきでも思い出したか、つまらねえ後生気を起しやがるな、打棄うっちゃっておけというに、やい。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きょうはA君と若き哲学者のO君とに誘われるがままに、僕も朝から仕事を打棄うっちゃって、一しょに博物館や東大寺をみてまわった。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ふと自分の内縁の女房にして居るラサ府の婦人を想い出して阿母さんの方を打棄うっちゃって置いてまた跡戻あともどりをして来たという頓馬とんまな兵隊なんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
寧ろ邪魔気で、あってもなくても宜いという虐待気味の、ふだんの扱いようになれて男はみんな打棄うっちゃらかし放題であった。
長くけて置けばばら/\と落ちて来ますから、あゝきたない打棄うっちゃってしまえと、今度は大山蓮華おおやまれんげの白いのを活けこの花の工合ぐあいはまた無いと云ってゝも
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしは子供の時分、なんでもこの街道へ打棄うっちゃられたのを大先生おおせんせいが拾って下すったとなあ。
終には取返しが付かなくなるのがいていながら万に一つ帰朝すれば恢復かいふくする望みがないとも限らないのを打棄うっちゃって置くべきでないと、在留日本人の某々等は寄ってたかって帰朝を勧告した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
打棄うっちゃっておくと警官の一人や二人絞め倒おしかねないんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「この間から警察から頻りに呼び出しが参るのでございますよ。忙しいので打棄うっちゃり放しにして置きましたが、昨日又巡査が見えて、今朝九時過ぎに是非とも出頭するようにと呉れ/″\も申して行きました。何でございましょうかね?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
でも何もそんなむずかしい御山おやまではありません。ただ此処ここ霊山れいざんとか申す事、酒をこぼしたり、竹の皮を打棄うっちゃったりするところではないのでございます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうだ、おれは随分長いことおれの仕事を打棄うっちゃらかしていたなあ。なんとかして今のうちに仕事もし出さなけれあいけない」
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
要らなければ何もやる訳はないと思って打棄うっちゃって置きますと、今度また手紙をよこしてさきにいっただけ入用だからぜひ貸してくれろという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこでわしがいた蓮光寺へ葬りました、他に誰も寺参りをするものがないから、主人が七日までは墓参りに来たが、七日後は打棄うっちゃりぱなしで、花一本げず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貝ノ馬介はもうどうにも自制の利かない、先々の考えを打棄うっちゃる時にかかっていた。彼はすての肩を上から圧して、坐れといった。すては素直にぺたんと坐った。
「人形食い結構、あんな方に好かれたら、ほんとにわたしは、三年連れ添う御亭主を打棄うっちゃっても行きますわ、けれどもお気の毒さま、あちら様で、わたしなんぞは眼中にないのですからね」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
打棄うっちゃっておけ、もう、食いに出て来る。」私はそばの男たちの、しか言うのさえ聞える近まにかくれたのである。草をんだ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
結局つまらない物でも彼はいつもいい加減には打棄うっちゃらないで、熱心にしんせつに取っ組んでいたのである。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
竹「私は少しも知らないので、何か無駄書むだがき流行唄はやりうたかと思いましたから、丸めて打棄うっちゃってしまいました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時からすでに経過してしまった数年の間、しそれがそのままに打棄うっちゃられてあったならば、恐らくはこんな具合ぐあいにもなっているであろうに……という私の感じの方が
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「はぐりをうっちゃれよ、打棄うっちゃれよ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
串戯じょうだんじゃない。」と余りその見透みえすいた世辞の苦々にがにがしさに、織次は我知らず打棄うっちゃるように言った。とそのことばが激しかったか
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりもくだり掛った時は構わないで打棄うっちゃって置いて其の車が爼橋まないたばしまで下ってから、一旦いったん空車からぐるまにして、あとで少しばかりの荷を付けて上げた方がよろしいようなもので
私はてんでもうそんなものを取り上げてみようという気持すらなくなってしまったのだ。で、私は仕事の方はそのまま打棄うっちゃらかして、毎日のように散歩ばかりしていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お妙さんの相談をしようと云うんなら、先ず貴女から、名誉も家も打棄うっちゃって、誰なりとも好いた男と一所になるという実証をお挙げなさい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と又騒動が大きくなりましたから、流石さすがの渡邊も弱って何うする事も出来ません。打棄うっちゃってそっと逃げるなどというは武家の法にないから、困却を致して居りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、それを言いかけたなり、すこし躊躇ためらっていたようだったが、それから急にいままでとは異った打棄うっちゃるような調子で、「そんなにいつまでも生きて居られたらいいわね」
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「隠さず、白状をなすったから、私がつかまってくのは堪忍して上げます。……打棄うっちゃった清葉さんもえらいけれども。……」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又小兼も足掛二年の野郎をたてすごしにしたというは、芸者に似合わねえ感心な親切者と思って居ると、とう/\女は江戸のうち打棄うっちゃって、態々わざ/\んな田舎まで尋ねて来て
私の留守の間、すっかり打棄うっちゃらかしてあったので、草も木も茂るがままに茂っていたところへ、程もなく長雨ながさめになってしまったものだから、前よりも私の家は一そう鬱陶うっとうしい位であった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「お客だい、誰も来やしないよ、おまい。」と斜めに肩ごしに見遣みやったまま打棄うっちゃったようにもののすッきり。かえすことばもなく
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前さんの云う事は何んだか薩張さっぱり分りませんが、男女なんにょとも此の儘何うも捨置く事は出来ません、御意見に背くようですが親父の前へ対しても打棄うっちゃっちゃア置かれませんから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)