手水鉢てうづばち)” の例文
この手水鉢てうづばちの下の植込みと、白い砂利が血に洗はれて居ります。これは曲者が主人を斬つた後で脇差わきざしの刄を洗つたのでございます。
「くみちやん、あとでお手水鉢てうづばちへ水を入れといて下さいな。すつかり片附いたらこちらへ入らつしやい。まあほんとにいゝ画だわね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
うかするといし手水鉢てうづばちが、やなぎかげあをいのに、きよらかな掛手拭かけてぬぐひ眞白まつしろにほのめくばかり、廊下らうかづたひの氣勢けはひはしても、人目ひとめにはたゞのきしのぶ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くら便所べんじよからて、手水鉢てうづばちみづけながら、不圖ふとひさしそと見上みあげたときはじめてたけことおもした。みきいたゞきこまかなあつまつて、まる坊主頭ばうずあたまやうえる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
苔で青くなつた石の手水鉢てうづばち家形やかたの置いてあるのがある庭も、奥のも、静かな静かなものでしたが、店の方には若いお針子はりこが大勢来て居ましたから、絶えず笑ひ声がするのでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひのきの木口数寄すきらし、犬黄楊いぬつげまがきうち、自然石の手水鉢てうづばちあり。かけひの水に苔したるとほり新しき手拭を吊したるなぞ、かゝる山中の風情とも覚えず。又、方丈の側面の小庭に古木の梅あり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こつちの手水鉢てうづばちの側にある芙蓉ふようは、もう花がまばらになつたが、向うの袖垣の外に植ゑた木犀もくせいは、まだその甘い匂が衰へない。そこへ例のとびの声がはるかな青空の向うから、時々笛を吹くやうに落ちて来た。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
手水鉢てうづばちで手を洗つてから、廊下で
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
さすがの悧巧な娘も手水鉢てうづばちの上の手拭に、ほんの少し血が附いたことと、梯子段に眼に見えない血がこぼれたことだけは氣が付かなかつたらしい
さうして、まあところへ、しかるべきうちむで、にはには燈籠とうろうなり、手水鉢てうづばちも、一寸ちよつとしたものがあらうといふ、一寸ちよつと氣取きどつた鳥屋とりやといふことはなしきまつた。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手水鉢てうづばちのそばの南天の木に、白い花がさいてゐる。一つ/\拵へたやうにあざやかな葉の蔭に、絹糸のやうな蜘蛛くもの巣がかゝつたのへ、夜露のしめりが小さい粒になつてゐるのも早い朝らしかつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
それから鞘についた血を洗つて拭いて——手水鉢てうづばちの上の手拭に少し血がにじんでゐるだらう、恐ろしく氣のつく曲者だ。
やが小用こようした様子やうす雨戸あまどをばたりとけるのがきこえた、手水鉢てうづばち干杓ひしやくひゞき
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いや、屏風がひどく濡れてゐたところを見ると、曲者は水で濡らして、器用に剥がしたものらしいな。縁側には手水鉢てうづばちに水を張つたのと、古手拭が置いてあつたよ」
いへのかゝり料理れうり鹽梅あんばいさけあぢ、すべて、田紳的でんしんてきにて北八きたはち大不平だいふへいしかれども温泉をんせんはいふにおよばず、谿川たにがはより吹上ふきあげの手水鉢てうづばち南天なんてん一把いちは水仙すゐせんまじへさしたるなど、風情ふぜいいふべからず。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「椽側の外の手水鉢てうづばちの前へしやがんで、柄杓ひしやくを取つたところを、下から突き上げられたのだ」
それからまたべつとき手水鉢てうづばちわきく、手拭入てぬぐひいれをひにつて、それをまた十錢じつせん値切ねぎつたといふはなしがありますが、それはまあ節略せつりやくして——なんでも値切ねぎるのは十錢じつせんづゝ値切ねぎるものだと女房かみさんおもつてる。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手水鉢てうづばちの下の血潮も、大方乾いてしまつて、何んの暗示も殘つては居なかつたのです。