もと)” の例文
偽善はよし給え、その力に向って腹の中で舌を出すのはやめ給え、『なんて愚劣だ、なんて時代遅れだ、なんて聖書にもとったことだ!』
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは中世紀の坊主が地動説は神に對する冒涜であると批難し、近世の宗教家が進化論は聖書にもとると批難したのと同斷である。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
この上なき名物を求めん所存しょぞんなり、主命たる以上は、人倫の道にもとり候事は格別、その事柄に立入り候批判がましき儀は無用なりと申候。
何処までも善良なるものと見做みなし、いやしくもこれにもとるものがあれば、ことごとくこれを誤れるものとして一排し去らんとつとむるが如くんば
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
されどげに聖なる寺院の命にもとりて死する者、たとひつひに悔ゆといへども、その僭越なりし間の三十倍の時過ぐるまで 一三六—一三八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
下名ハ下名ノ妻ガ妻タル者ノ行為ニもとルコトナキヨウ責任ヲ持ッテ監督ス、二、下名ハ如何ナル場合ニオイテモ決シテ妻ヲ離縁セズ、三
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分の身にとってすら忍び得なかったことを、衆にたいして罪として問おうというのは法の精神にもとるとなしたものであろう。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一見民衆一般の全体の利益と係わりないように見えても、詮じ詰むれば、全般の利益幸福となるというものならば、そは民本主義にもとらない。
そうしてこれにもとるものは工藝たるの意義を失うであろう。法則なきところにはいかなる世界もあり得ないからである。何が工藝の法則であるか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
西洋人も勿論道を尊んでおり、道は全人類の共通のものであり、古今に通じてあやまらず、中外に施してもとらざるものである。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
そうしてそれは例外なく世界中の誰にでもはまって、ごうもとらないものだと、彼女は最初から信じ切っていたのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爾来予は心を潜めて、満村恭平の行状に注目し、その果して予が一夕の観察にもとらざる痴漢なりや否やを検査したり。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あいやお使者、木曽家のお使者、我らに何んの挨拶もなく何故お立ち退きなさるるな。不思議千万奇怪の至り、武士の作法にももとってござるぞ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この発明は艱苦かんく欠乏に耐えるという精神主義にはもとるが、楽に沢山の精密な観測値を得る点では優れた発明である。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
地上ちじゃうそんするものたるかぎり、如何いかしいしな何等なにらかのえききょうせざるはく、また如何いかいものも用法ようはふたゞしからざればそのせいもとり、はからざるへいしゃうずるならひ。
古代からの神の信仰とさしてもとる所あるものではないと一般に考えられていたことを反映するものであろう。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一層大なる要求を攀援はんえんすべき者があってこそ、小なる要求を抑制する必要が起るのである、徒らに要求を抑制するのはかえって善の本性にもとったものである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
こうやって、家族主義は、家庭から始めて国家に及び遂に天地の広きに施してもとらぬものとなるのである。
子供を教養することの出来ない者は子を設けてはならぬと言われておった垂訓にももとるものであり、またこの容易にして且つ危険のない脱獄を試みないのは、畢竟ひっきょう
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
開港が東照宮の遺志にそむくはおろか、朝廷尊崇の大義にすらもとると歯ぎしりをかむものがある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浜尾先生は徐ろに口を切つて、取締ならびに演技者の学生の本分にもとる行動を誡めて、いやしくも帝国大学の学生が顔に粉黛をほどこして河原者の真似をするとは何事であるか。
浜尾新先生 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
なすは豈にその大理にもとるのはなはだしきものにはあらずや〔大坂戎座えびすざ板垣氏演説筆記〕。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
◯十一節—十九節は、自然界の事象を三度引例して神にもとる者の必滅を主張したのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
三つには罪性の空なる道理を悟って、道理にもとる執着の己れを捨て放つことである。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は候補者の家庭にある婦人たちが選挙運動に花々しく活動する現象を喜ぶものであるけれども、かの婦人たちは自然「わが仏尊し」の偏愛を免れかねて選良の精神にもとる恐れがある。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
かえって儂らの真意にもとり、あまつさえ日清談判の如く、国辱こくじょくを受くる等の事ある上は、もはや当路者をかえりみるのいとまなし、我が国の危急を如何いかんせんと、益〻政府の改良に熱心したる所以ゆえんなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いづれにしても、こんな奴が飛出したことは、何か自然にもとる不吉なことだと。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
御返金がならなければむを得んから、旧来御懇意の君でも勧解かんかいへ持出さなければならぬが、どうも君を被告にして僕が願立ねがいたてるというのははなはだ旧友のよしみにもとるから、したくはないが
城地を求めて家格かかくをひきさげるとは、そもそも、いかなる思い付……酒井の家風をご存じなら、権現さまとのお約束にももとり、藩祖のお名を軽しめるがごとき愚かな所替ところがえは望まれぬはず。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
強を以て弱を凌ぎ、富をたのみ貧を欺く、上は君親に孝ならず。下は宗党に睦しからず。財を貪り義にもとり、利を見て恩を忘る。天門高くして九重知ることなく、地府深くして十殿是れ列れり。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それ、武は覇者はじゃの道にして、心、王者の心を以て旨となす。明皎々として一点の邪心じゃしんあるべからず。されば賭仕合かけじあいい、賭勝負、およそ武道の本義にもとるべき所業は夢断じて致すべからず、とな。
古今に通じてあやまらず、中外に施してもとらざる、ものの道理、それが、とりも直さず真理です。西洋のことわざに、「真理は時代の娘」という言葉がありますが、真理こそ、永遠の若さをもったものです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
一言にしていえば、媚態のための媚態である。恋の真剣と妄執とは、その現実性とその非可能性によって「いき」の存在にもとる。「いき」は恋の束縛に超越した自由なる浮気心でなければならぬ。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
教育勅語の末尾には、「これを中外にほどこしてもとらず。」と書いてある。
近代文明国の刑法原理にもとる立派な不法行為だからだ。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
重臣は、人倫の道にもとる所業として忠直卿を強諫きょうかんした。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
道は もとる可からず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほところから出して見せて、「そら、この通り書いたあるやろ、——下名ハ下名ノ妻ガ妻タル者ノ行為ニもとルコトナキヨウ——」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
横田いよいよ嘲笑あざわらいて、お手前とてもその通り道にもとりたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金にうとも惜しからじ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大勢の人に届ける実用品でありますから、民藝は当然産業として発展されねばなりません。仕事を個人に留めるなら、民藝の性質にもとるでしょう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
是においてか彼これを信じ、其後異教の惡臭をしうを忍ばず、かつその事にて多くのもとれる人々を責めたり 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「あんたが殺すつもりでいるように見えたんですよ」と彼は呟いた、「あれはじつに人間の本然にもとったことですね。じつに不自然きわまることですね。」
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ならば、鎌倉どののために、寄手の陣中へのぞんで、秘策をおさずけ下されても、じょうもとることはないでしょう。今日は足立源五、主命にちかって参ったのです。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一つは民本主義と民主主義とを混合し、少なくともその間の区別を明白に認識せずして、これを以て恰も主権在君の大義にもとる説なるが如く考うるものである。
そのためにただ自分一身を犠牲にするという話ならばよろしいが、しかしながらそのために自分の一家族の幸福を犠牲とすることは全体これは第一道理にもとったことである。
女子教育の目的 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ズーデルマンのマグダと云う脚本をつい近頃になって読みましたが、これはマグダという女が、父の意にもとって、押しつけられた御聟おむこさんをきらって、家を出奔しゅっぽんした話であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかして十三節に「神を忘るる者の道はすべてかくの如く、もとる者ののぞみは空しくなる」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
もし単に快楽のみを目的とする人があったならばかえって人性にもとった人である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
いずれにしても、こんなやつが飛出したことは、何か自然にもとる不吉なことだと。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「君のような理想家が、昔は人体解剖かいぼうを人道にもとると云って攻撃したんだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)