悋気りんき)” の例文
旧字:悋氣
少しは邪推の悋気りんききざすも我を忘れられしより子を忘れられし所には起る事、正しき女にも切なきじょうなるに、天道怪しくもこれを恵まず。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
得たり賢しと、悋気りんき深い手合がつまらんことを言い触して歩きます。私は奥様の御噂さを聞くと、口惜くやしいと思うことばかりでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伴藏の女房おみねは込上こみあが悋気りんきの角も奉公人の手前にめんじ我慢はしていましたが、或日あるひのこと馬をいて店先を通る馬子を見付け
本妻の悋気りんき饂飩うどん胡椒こしょうはおさだまり、なんとも存ぜぬ。紫色はおろか、身中みうちが、かば茶色になるとても、君ゆえならば厭わぬ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十年前新妻の愚鈍にあきれてこれを去り七年前には妾の悋気りんき深きに辟易へきえきして手を切ってからこのかたわたしは今にひとりで暮している。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それをきょうここで出会うて、なるほどと思うた。筑前も好いたはずなれとな。……よいか、悋気りんきはすな、仲よく暮らせよ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
チチアネルロ うに、夜明前に——その時君等はまだていたが——そっと門の外へ出て往った。青いひたいへ愛の接吻、その脣へ悋気りんきの言葉……。
のう悲しやと喚くやら秘蔵の子猫を馬ほどに鼠がくわえて駈け出すやら屋根ではいたちが躍るやら神武以来の悋気りんき争い
源兵衛『あきれた悋気りんきおんなだ。そなたと言うれっきとした女房があるのに、何で今更の浮気。つまらぬ云い合いに手間取る暇に、その松明こっちへ貰おう』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たたみ叩いてこちの人、わたしゃ悋気りんきじゃないけれど、一人でさした傘ならば、片袖濡れようはずがない。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「私は悋気りんきで言ふ訳ぢやない、本当に旦那の身を思つて心配を為るのですよ、敵手あひてが悪いからねえ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かかあの悋気りんき、いや、いっち怖いは成吉思汗ジンギスカン様の一睨み——おや! これでもお笑いにならない。
よしや良人が芸者狂ひなさらうとも、囲い者して御置きなさらうともそんな事に悋気りんきする私でもなく、侍婢をんなどもからそんなうわさも聞えまするけれどあれほど働きのある御方なり
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然れども婦人の心正しく行儀よくして妬心ねたみごころなくば、去ずとも同姓の子を養ふべし。或はてかけに子あらば妻に子なくとも去に及ばず。三には淫乱なれば去る。四には悋気りんき深ければ去る。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
悋気りんきはいわぬ、あくどくいったこれまでの厭味、堪忍しておくれよ九十郎さん! ……厭だ厭だ別れるなんて厭だ! ……義理や掻い撫での人情で、何んで妾がお前さんのために
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女房の奴、もう、子供が五人も出来とるとに、まだ、くだらん悋気りんきばかりして困る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「恋も悋気りんきも忘れていたが」という、その一句のなかには、迷いの世界と、悟りの世界が示されています。すなわち恋と悋気の世界は、つまり迷いの世界です。あきらめられぬ世界です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
六十になる、八百屋の、よたよたおやじから、廿歳にしきやならない、髪結の息子まで、およそ出入りと名の付く者で、独身者とある限りは。奥様の悋気りんきから出る、世話焼きの、網に罹つて、誰一人。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
悋気りんきといういまわしい言葉に絶えずおびやかされながら、ひそ/\声でお君をのゝしるのだった。しかも何たる事か、それとなくお君の機嫌をとり、着物など見立てゝ買って来たりするのだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「越後守は婿で、家付きの悋気りんきぶかい奥方がいる」と去定は続けた
亭主が浮気をしたら出刃庖丁でばぼうちょうでも振りまわすくらいの悋気りんきの強い女房ならば、私の生涯しょうがいも安全、この万屋の財産も万歳だろうと思います、という事だったので、あるじはひざを打ちを細くして喜び
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「よっぽど悋気りんきぶかい女だよ」と、妻は僕に陰口を言ったが
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
これがなかなか悋気りんきぶかい男。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
他に妾ぐるいをなさるまいものでもないが、たといんな事が有っても悋気りんきをして離れるような事があれば、二度と再び顔を見ない
加ふるに悋気りんきつつしまば妓となるとも人に愛され立てられて身を全うし得べし。いはんや正路せいろの妻となるにおいてをや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
されば悋気りんき深い女房に折檻せっかんされたあげくの果てに、去勢を要求された場合には、委細承知はつかまつれど、鰻やスッポンと事異なり、婦人方の見るべき料理でない。
「それがなんの為になるんですか。他家の奥さんを悋気りんきさせることが」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな顔になり其の顔で私の胸倉を取って悋気りんきをしますからられませんので、私が豊志賀のうちを駈出した跡で師匠が狂いじにに死にましたので、死ぬ時の書置かきおき
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女子の悋気りんきはなほゆるすべし。男子が嫉妬しっとこそ哀れにも浅間あさましき限りなれ。そもそも嫉妬は私欲の迷にして羨怨せんえんの心憤怒ふんぬと化して復讐の悪意をかもす。野暮やぼ骨頂こっちょうなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その鼻と上唇をった裁判あった時、妻の母いわく、この男は悋気りんき甚だしいから、妾それを止めんとて、高名な道士に蛇の頭を麻の葉につつんでもらい、婿の頭巾のひだの中へ入れるつもりでしたと言い
「ただ、悋気りんきはすなよ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何でも屹度きっと新吉さんと訳が有るだろう、なんにも訳がなくって、お師匠さんが彼様あんな悋気りんきらしい事を云って死ぬ気遣いは無い、屹度訳があるのだろうから云えと云うから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一ツ寝の床に寐相ねぞうをかまはず寐言ねごと歯ぎしりに愛想をつかさるるとは知らで、たまたま小言の一も言はるれば、一図いちずに薄情とわるく気を廻して、これよりいよいよ何かにつけて悋気りんきの角を現す。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それに以前もと吉原よしはら一遍いつぺんでもあなたの所へ出たことがあるんですから、良人うちのひとに知れると悋気りんきではありませんが、いやな顔でもされるとあなたも御迷惑ごめいわくでございませうから内々ない/\で。
〽三ツの車にのりの道ソウラ出た……悋気りんき金貸かねかしや罪なもの
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ところが己がわきの女に掛り合った所から、かゝアが悋気りんきを起し、以前の悪事をがア/\と呶鳴どなり立てられ仕方なく、旨くだまして土手下へ連出して、己が手に掛け殺して置いて
うちに居ると継母に捻られるから、おっかさんよりはお師匠さんの方が数が少いと思って近く来ると、なお師匠は修羅をもやして、わく/\悋気りんきほむらは絶える間は無く、益々逆上して
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女「はい……まだ私は参った事はありませんから一度見物したいと思って居りますが、お寄申して万一ひょっと奥さんか又権妻さんでもいらしって、お悋気りんきでもあるとお気の毒だと存じまして」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うも女の声のようだからおかしい事だと、嫉妬やきもちの虫がグッと胸へ込み上げたが、年若とは違い、もう三十五にもなる事ゆえ、表向おもてむき悋気りんきもしかねるゆえ、あんまりな人だと思っているうちに
まさか打明けてうだとお話も出来ないから、其の御婦人のかたへお逢い遊ばしに夜分お出向でむきになる事ではないかと、わたくし悋気りんきではございませんけれども、貴方のお身をお案じ申しますから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
悋気りんきでいうが、世間へ漏れては成りませんから、又市は種々いろ/\なだめて、その晩は共にふせりましたことで、ず機嫌も直りましたが、翌朝よくあさになり、又市は此処に長く居ては都合が悪いと心得
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文「手前が来てくれゝば己は有難いが、心中する程思い込んだ同士が夫婦になり、女房が無闇に一人で出歩けば亭主の心持は余りよくあるまい、己は独り者でいる所へ手前が毎日来て、ひょっと悋気りんきでも起しはしないかと思って、それが心配だ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)