性根しょうね)” の例文
ただし、なにか思うところがあってやっているのか、それとも出鱈目でたらめなのか、こんな風来人ふうらいじんのことだから、性根しょうねのほどはわからない。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いえ、単なる文学者と云うものはかすみに酔ってぽうっとしているばかりで、霞をひらいて本体を見つけようとしないから性根しょうねがないよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なあに、そんなことで見えるものか、さあ、こうして頭を真直ぐに、性根しょうねへその上に置いて、もう一ぺん眼を据えて、金の鯱を拝め」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本心とりもどせ。性根しょうね入れ替えると一言申さば、主水之介とて同じお旗本につらなる身、ことを荒立てとうはない! いかがじゃ!
大事にお思いか。……そんな性根しょうねの子が求めてきた茶などを、歓んで飲む母とお思いか。……わたしは腹が立つ。わたしはそれが悲しい
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ(左様ですか)では済まん。様子に寄つてはこれ、きつとわれわれに心得がある。しつかり性根しょうねへて返答せないか。」
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「この子がまた、先生、一番意気地なしで困るんですよ」お袋は念入りに肩を動かして、さも性根しょうねなしとののしるかの様子で女の方を見た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
この娘は見掛けの弱々しい可愛らしさに似ず、性根しょうねしっかりしたものがあるらしく、昨夜の話も整然として筋も乱れません。
「あの子の胸の上にのっておやり。そうすると、あの子にわるい性根しょうねがうつって、そのためくるしいめにあうだろうよ。」
見た目はよくはないが、その面付つらつきから察すれば実に性根しょうねのしっかりした奴らです。これならきっと軍艦でも動かせるよ。
そういう泥棒野郎なのじゃ! だによって捨てろとさとすのじゃ! 今夜こそ口先のあいあいではこの長者様は承知せぬぞ! 性根しょうねを据えて返辞をせい!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半次郎の奴の性根しょうねが悪いからには違いないが、傍にまッとうな人でもいたら、ああもならずに居たろうかと、愚痴だとは思いながら、友達衆がうらめしい。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
眺め「おいとしや親父様、己の性根しょうねが悪い故」にて自分を指し「御相談の相手もなく、前髪まえがみの首を惣髪そうはつにして渡さうたあ、量見ちげえのあぶねえ仕事だ」
六十歳近くなって養子も取らないのは、いつかわが子が帰って来る、性根しょうねが直り、侍らしい人間になって帰るだろう、そう思って待っているのではないか。
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
スリにり取られるのも、性根しょうねが間抜けなせいでなく、おっとりした人柄のせいに違いない。そう僕は思った。そして僕らはウナギを食べ、酒を飲み始めました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
二人とも案外あんがい見られる服装をしてやって来た。この界隈かいわいの人の間には共通の負けん気があった。いざというときは町の小商人にヒケはとらないという性根しょうねであった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日限り親子の緑を切るから勝手にしろ、かねていった通り、足骨をち折ってもやりたいが、今晩だけは勘弁してやる。何処どこでも出て行って、その腐った性根しょうねたたき直せ
「ちえッ。——まあそのうち、改めて来るから、そのときは性根しょうねえて返答をしろ、いいかッ」
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つまり役の性根しょうねは、さると人間が、主人と家来と身分を取りかえたついでに、ばかをりこうと取りかえて、とんだあほうの取りちがえ、これが芝居しばいのおかしいところなのだ
おまえみたいなばかはすくない。ほかの子供こどもがこうしておぼえるのに、それをわすれるというのはたましいくさっているからだ。おまえみたいな子供こどもは、普通ふつうのことでは性根しょうねなおらない。
教師と子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしそれからのち、永年荒っぽい海上生活を続けて来たお蔭で性根しょうねが丸で変ってしまった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雪之丞は、冷たく心に笑って、やがて、専念に、役の性根しょうね渾身こんしんを傾け出すことが出来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女をもてあそぶのは何故だか左程の罪悪とも思って居なかったが、いやしくも男児たる者が女なんぞに惚れて性根しょうねを失うなどと、そんな腐った、そんなやくざな根性で何が出来ると息巻いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あの人がどうなろうとも構わぬが、唯くれぐれも案じらるるはお前のことじゃ。おまえはそもそもお師匠さまが大切か、わたしがいとしいか、それを聞きたい。お前の性根しょうねを確かに知りたい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とおりがかりの御挨拶ごあいさつで、んともおそれいりますが、どうやら、市松いちまつ野郎やろうが、んだ粗相そそうをいたしました様子ようす早速さっそくれてかえりまして、性根しょうねすわるまで、折檻せっかんをいたします。どうかこのまま。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
結婚せねばならぬという理屈でよくは性根しょうねもわからぬ人と人為的に引き寄せられて、そうして自ら機械のごときものになっていねばならぬのが道徳というものならば、道徳は人間を絞め殺す道具だ。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「そこは昔馴染です。お互に性根しょうねが分っています」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
性根しょうねときたら、もっと黄色いですよ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「いいや、わしは気は狂わぬ、この人でなしをここへ連れて来た者が狂っている、ここへ集まった者は性根しょうねが腐っている」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それほど性根しょうねには分っていながら、なんで因業いんごう旦那と有名な曹家そうけの酒なぞ食らやがって、いい気になってしまったのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなに魂がうろついてる時でも呼ばれて見ると性根しょうねがあるのは不思議なものだ。自分は何の気もなく振り向いた。応ずるためと云う意識さえ持たなかったのは事実である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生徒達の一行にさえ頓着なしに泳ぎだした。するうち小初に不思議な性根しょうねすわって来た。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その跡に取り残されて、おろおろしているのは真物ほんものの聟、仲屋の錦太郎でした。二十五六の華奢きゃしゃな男、青い顔をして、激動にふるえておりますが、性根しょうねはなかなかのしっかり者らしくもあります。
「悪いといっても、性根しょうねは善人だよ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やっと、性根しょうねをつけられて
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「そこが兄貴と俺との性根しょうねが違うところなんだ、ケチな野郎ならケチな野郎でいいから、俺は俺の思うようにしてみてえ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木下助右と勘解由かげゆ付人つけびと二人も、見殺しにしながら、池田監物を、家臣にもらいたいなどといっているようでは、まだまだ、性根しょうねがついていないと見える。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも身分がよかったり、金があったりするものに、よくこう云う性根しょうねの悪い奴があるものだ
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後年彼の思想はドイツの民族主義に性根しょうねえ、高度の理想主義に発展したが、若かりし頃のワグナーは、当時の改革思想の影響を受けて、新しきものへと猪突ちょとつしたのはまたやむをないことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「はあ、有難えこんだ、わしも、芸事はすべて役どこの性根しょうねが肝腎だと思いやして、なるべくはらで見せるようにしてえと、こう思っているんでがんす」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伏見中納言とか越後中将とか、あんな連中なら何十人助けてくれたからとて大事はありません。——が、総じて、弓取ゆみとりの子というものは、性根しょうねこわいものです
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑誌なんかで法螺ほらばかり吹き立てていたって始まらない、これから性根しょうねれかえて、もっと着実な世間に害のないような職業をやれ、教師になる気なら心当りを奔走ほんそうしてやろう
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お松は返事に困って、この伯母という人の性根しょうねがどこまでいやしくなったかと、それを悲しむのみであります。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ウム、それほどまでに、しかとした性根しょうねをもちながら、なんで、あのようなあぶない芸をいたすのじゃ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと戦いとは違うが、民の性根しょうねというものは、これ程なものだというには、あかし得て余りがあろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも持って生れた性根しょうねというやつは、なかなか直るもんじゃなく、私が先生について一肌脱ごうということになると、あいつが、いい気になって、浪人たちの方へ廻り
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
逆賊の性根しょうねは幾皮いても逆賊ときまったものだ。尊氏と義貞とは、朝家に誓いたてまつる根本の信念でも、またいかなる点でも、ともに天をいただかざる仇敵あだがたき這奴しゃつ
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもこの時のは、酒に性根しょうねを奪われておりませんでしたから、いわば一時の癇癪かんしゃくです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『五合や一升で、性根しょうねを失ってたまるものか。本性だ。お……おらあ、本性で礼をいうんだぜ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
性根しょうねを据えて考えてみろ、公儀の金や町人の金銭に眼をつけたところで始まらないじゃないか、誰が取ってもさしさわりのない金がこの甲州にはウントあるのだ、言って聞かすまでもなく
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)