彼所あすこ)” の例文
助「馬喰町ばくろちょうにも知った者は有るが、うちを忘れたから、春見様が丁度彼所あすこに宿屋を出して居るから、今着いて荷を預けて湯にいりに来た」
「さア、チヨンよ、彼所あすこにお前のお父さんが居る! お前は——もう、お父さんの所へおで! さア早くあつちへお出で!」
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
あついからです。あの日は始めて野々宮さんに逢つて、それから、彼所あすこてぼんやりして居たのです。何だか心細くなつて」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
常に此筋向うの酒屋へは能く行きますが目「好し、彼所あすこで問うたら分るだろう」と云い大足に向うの酒店さかみせせて入る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
見るより夥多おほぜい和女おまへとなりの事といひ常から親しくなさるゝゆゑ彼所あすこの事は御存じだらうが今日けふ是々と結納を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かはしつたな煮付て晩飯の代りに喰ふかよと鶴的莞爾くわんじとしイヤ喰て仕舞しまはぬ爲に買た今日馬を追て十八錢取つたが彼所あすこばゝの茶屋で強飯こはめしを二盆やつたから跡が五錢ほきやない是を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
人足軽子其他種〻さま/″\の入目を幾晩かかゝつて漸く調べあげた積り書、又一ツは彼所あすこを何して此所こゝを斯してと工夫に工夫した下絵図、腰屋根の地割だけなもあり、平地割だけなのもあり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
田圃の中へ入らなければならんが、彼所あすこにも柵があるから、其の柵矢来の裏手から入って、藪の中にうん/\うなっていろ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「しかしわざわざ彼所あすこいらを通って、私のうちでも探しているんだか、また用があって通りがかりに偶然出ッくわしたんだか、それが分らないんでね」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人「厭ですとて、最うソレ、返事の遅いのを待兼ねて彼所あすこへ遣って来ました」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
内儀「はい/\、あの鳶頭、奥の六畳へ連れて行ったらよかろう、離れてゝ彼所あすこが一番しずかでもあり人が行かないから」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「健ちゃんはたしか京都へ行った事がありますね。彼所あすこに、ちんちらでんき皿てこ汁飲ましょって鳴く鳥がいるのを御存じですか」などといた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ、そりゃ借手はいくらでもあるんでしょう。現にもう一口ばかり貸したんですって。彼所あすこいらの待合まちあいか何かへ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長「へえおいでなせえ、なんです長屋なら一番奥の方が一軒明いている、彼所あすこ借手かりてがねえようだが、それから四軒目のうちが明いているが、ちっとばかり造作があるよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるければ、もうすこし御あるきなさい。此所こゝきたない。彼所あすこ迄行くと丁度休むにい場所があるから」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
正「エヽ彼所あすこに変な訳の分からねえ侍が居るんでげすが、祝儀のくれッぷりわりいもんでげすから、何処の茶屋でもいやがられる山田さんてえ人が持って来ているんでげす」
なにべつこれといふ理由わけもなかつたのだけれども、——つい彼所あすこいらでぎうひたくなつただけことさ」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此様こんなにお早くらつしやるてえのはぽどすきでなければ出来できない事でエヘヽヽ先達せんだつて番附ばんづけの時にあがりましたが、うも彼所あすこかららしつたかと思ふとじつびつくりするくらゐなもので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼所あすこがもうすこひろいといけれども」と危險あぶながるので、よく宗助そうすけからわらはれたことがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
っかさんに知れて悪くば知れないように何うでも出来ます、奥の六畳は狭いけれども、へだって宜うございます、彼所あすこなれば知れませんから、お泊りなすっても宜うございます
彼所あすこ此所こゝに席を立つものがある。花道はなみちから出口でぐちへ掛けて、ひとかげすこぶいそがしい。三四郎は中腰ちうごしになつて、四方しほうをぐるりと見廻みまはした。てゐるはづひと何処どこにも見えない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はい此方こつちへおいでなさい、こつれる物をもつておいでなすつたか。金「イエ、なにはうとおもつたが大分だいぶたけえやうですから、彼所あすこに二しようどつこりの口のかけたのがあつたからあれもつました。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
の時私が彼所あすこを通り掛り麦藁細工の有ったのが目に付いて居ります、葮簀張よしずっぱりでねえ
それを彼所あすこまで押して行くには、全く情愛の力でなくっちゃ出来るはずのものでない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はア…うしたんだろう、心の迷いじゃアないか知ら、先刻さっき彼所あすこを通り掛ったのは武士さむらいと思ったのが狐か何かで私をばかしたのじゃアないか知らん、私がお鳥目を欲しいと思う其の気を
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれは、彼所あすこで切りげても、五分十分の後切り上げても、必竟は同じ事であつたと思ひ出した。自分と三千代との現在の関係は、此前このまへ逢つた時、既に発展してゐたのだと思ひ出した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
定「あら………仕様がないな、彼所あすこに持っているのだもの、道理で無いと思った」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は、彼所あすこで切り上げても、五分十分の後切り上げても、必竟ひっきょうは同じ事であったと思い出した。自分と三千代との現在の関係は、この前逢った時、既に発展していたのだと思い出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしはお隣座敷に相宿に成りました者で、只今彼所あすこにて承われば重々貴方様の御尤もで、実に此の者共はしからん奴で、先刻より様々の不礼ぶれいを申し上げ何とも申し様もございませんが
彼所あすこ老師らうしんでゐられるところです」と宜道ぎだう比較的ひかくてきあたらしいその建物たてものゆびさした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わし毎日々々炭車すみイくるまに積んで青山へきやんすが、押原横町おしはらよこちょうのお組屋敷へは車を曳込ひきこむ事が出来やしねえから、横町へ車を待たして置いて、彼所あすこから七八町のなげい間すみイ担いできやんすのだが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼所あすこいらはみんな掛茶屋ばかりで大変賑やかになりました」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)