引越ひきこ)” の例文
大杉氏は是非ともどこかへ引越ひきこさなければならなかつた。さう思つた一刹那、この社会主義者は初めて大家の爺さんの約束に気がついた。
肉体にくたいててこちらの世界せかい引越ひきこしたものになりますと、ほとんどすべての仕事しごとはこの仕掛しかけのみによりておこなわれるのでございます。
もっと彼処あすこへは、去年の秋、細君だけが引越ひきこして参ったので。ちょうわたくしがお宿を致したその御仁ごじんが……お名は申しますまい。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金は入りません難儀を救うは人間の当然あたりまえで、私は何も欲しい物は有りませんが、富川町へ引越ひきこしてから家内が干物ほしものをする処が無いに困ってる
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
藩で云う元締役もとじめやくを勤めて大阪にある中津藩の倉屋敷くらやしきに長く勤番して居ました。れゆえ家内残らず大阪に引越ひきこして居て、私共わたしどもは皆大阪で生れたのです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
段々だん/\べへらして天秤てんびんまで仕義しぎになれば、表店おもてだな活計くらしたちがたく、つき五十せん裏屋うらや人目ひとめはぢいとふべきならず、また時節じせつらばとて引越ひきこしも無慘むざんくるまするは病人びやうほんばかり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きはめて名も新藤市之丞にては不似合ふにあひなれば長兵衞は自身の名の頭字をやつて長八と改めさせおのれは親分になり同町の家主いへぬし治兵衞のたなかり引越ひきこさせ其外萬事長屋の振合迄ふりあひまで巨細こまかに教へつゝまづ世帶を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「幾らお金になるか知りませんが、私神戸なぞの田舎に引越ひきこすのはいやです。」俳人の夫人は、神戸なぞ田舎の漁師町か何ぞのやうに言ひけなした。
まことや、ひとんでけむりかべるで、……たれないとると、南向みなみむきながら、ざしもうすい。が、引越ひきこすとすればなんにはらぬ。……をりからいへさがしてた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうかんじましたので、おじいさまにおたずねしてますと、はたしてこちらの世界せかい引越ひきこしてるとのことに、わたくし是非ぜひむかし愛馬あいばってたくてたまらなくなりました。
私が中津なかつの学校を視察に行き、その時旧藩主に勧めて一家こぞって東京に引越ひきこし、私が供をして参るとうことになった。ところで藩主が藩地を去るはもとより士族のよろこぶことでない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今日けふよりすぐにおまをしまする、敷金しきゝん唯今たゞいまいてまゐりまして、引越ひきこしはこの夕暮ゆふぐれ、いかにも急速きふそくでは御座ござりますが直樣すぐさま掃除さうぢにかゝりたう御座ござりますとて、なん仔細しさいなく約束やくそくはとゝのひぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
浪人してしばら六間堀ろっけんぼり辺に居りました其のうちは、蓄えもあったからうやら其の日を送って居りましたが、き詰って文治の裏長屋へ引越ひきこし、毎日弁当をさげては浅草の田原町たわらまちへ内職に参ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「よし、それぢや二三日うちに引越ひきこしてやらう。忘れるんぢやないぞ、お前さんの顔を立てるといふ事を。」
散々さんざん苦労くろうばかりかけて、んのむくゆるところもなく、わか身上みそらで、先立さきだってこちらへ引越ひきこしてしまった親不孝おやふこうつみ、こればかりはまったられるようなおもいがするのでした。
敬礼を止める引越ひきこして見れば誠に広々とした屋敷で申分もうしぶんなし。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
銀座三丁目へ引越ひきこしたのは二月の二十一日でございます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おや、また引越ひきこすのかえ。」