とが)” の例文
「三十而立塩田子。言行寡尤徳惟馨。」〔三十ニシテ立ツ塩田子/言行とがすくなク徳かおル〕随斎はその時二十八歳であったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
遺言してこの百金を尊者に奉ったと取り出して捧げると、その金に眼がくれて一切とがめず、犬に人間同様の墓を設くるを許したと。
主謀たる自分は天をもうらまず、人をもとがめない。たゞ気の毒に堪へぬのは、親戚故旧友人徒弟たるお前方まへがたである。自分はお前方に罪を謝する。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
汝らのうち、心とがめされぬ者まずハムレットを石にて搏つべしと言ったらばはたして誰が石を取って手をげうるであろう。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
野獣か、鬼母か、われこれを知らず。西人せいじんあるいは帝胡人こじんの殺すところとなると為す。しからばすなわち帝丘福きゅうふくとがめて、而して福とその死を同じゅうする也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
諸友の因循いんじゅんなるをとがめ、曰く、「彼らあるいはまた背き去るといえども、けだし村塾爐を囲み、徹宵の談を忘れざるべし」と。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こうなると、人間というものは妙に引け身になるもので、いつまでも一所にいると、何だか人に怪まれそうで気がとがめる。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
ながらへ御とがめの身分をはゞからずおして此段御屋形樣へ言上ごんじやう仕り候此儀御用ひなき時は是非に及ばず私し儀は含状ふくみじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此に至りしことあながちにとがむべからずと雖も、吾人にして若し唯基督教の国家社会を利する所以ゆゑんをのみ論じて
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
「そなたの下らぬ言葉が、此の少年を堕落させたわ——この哀れな有様を見ても気がとがめはせなんだか——」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「待て、こら!」とかつする声に、行く人の始て事有りとさとれるも多く、はや車夫の不情をとがむることばも聞ゆるに、たまりかねたる夫人はしひ其処そこに下車して返りきたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「だつて、そのくれゐあためへだア。お前さアばか、勝手な真似して、うらとがめられるせきはねえだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
子貢曰く、何為なんすれぞそれ子を知るなからん。子曰く、(我は)天をもうらみず、人をもとがめず。下(人事を)学びて上(天命に)達す。我を知るものはそれ天のみか。(憲問、三七)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
思い懸けなくも其処そこに主人の声がして梅の花を折ってはいかんととがめられたので、吃驚びっくりして手をめたのであるが、其処の主人もまた、それを尤めたばかりで無下むげに追い払うのも
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しお勢を深くとがき者なら、くらべて云えば、稍々やや学問あり智識ありながら、尚お軽躁けいそうを免がれぬ、たとえば、文三の如き者は(はれやれ、文三の如き者は?)何としたもので有ろう?
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
とがめようとも思わぬ。わしはただ自分の信ずるところに従って、丁度この泰山の麓から、頂上に上るように、低いところから、一歩々々と高いところに上って来たのじゃ。わしの心は天のみが知っている。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかしその樗とその一名なる臭椿とはその字面は正しいけれどそのフリガナはとても滑稽でそれがオドケ話ならば別にとがむべきものでもないが史実上の問題としてであって見れば実はこんな間違ったフリガナを
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いまた誰れをかとがめ、かつ怨まんや。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
そこには彼の踏み進むべき道路はない。又掠奪りゃくだつすべき作物はない。誰がその時彼の踏み出したあしの一歩についてとがめだてをする事が出来るか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
発狂してからに馬鹿な事を為居しをる奴はとがむるに足らんけれど、一婦人いつぷじんの為に発狂したその根性を、彼のフレンドとして僕がぢざるを得んのじや。間、君は盗人ぬすとと言れたぞ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吾人は世の詩人がかくの如くなるをとがむる者に非ず、然れども若し是を以て一種の哲学となし、よつて以て人事を律せんとするに至つては即ち大声叱呼して其非を鳴さゞるを得ず
凡神的唯心的傾向に就て (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
から、何事につけても、おのれ一人いちにんをのみ責めてあえみだりにお勢をとがめなかッた。が、如何に贔負眼ひいきめにみても、文三の既に得た所謂いわゆる識認というものをお勢が得ているとはどうしても見えない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかれども諸国いまだ同意せずして、我独り同意せざるをとがむ、これ曲、汝にあり
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もすこしで大事の青春を縛られてしまうところを、よくもまア我乍ら思い切ったものだなどと考えもしながら、半ばは気がとがめるような、半ばは重荷を下したような気持で四辺あたりを眺めていると
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は言葉の堕落をもとがめまい。かすかな暗示的表出をたよりにしてとにかく私は私自身を言い現わして見よう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今日はことして来にけるを、得堪えたへず心のとがむらん風情ふぜいにてたたずめる姿すがた限無かぎりななまめきて見ゆ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
し国家を以て個人の特性、天職、権利を殺さんとせば人は必らず其不可をとがめん。然れども人をして己を捨てゝ自然の流行に一任せしめんとするに至つては之を不可とせざる
しかしてたといかくのごとくその懸隔あるももって天をとがむべからず。もって人を恨むべからず。なんとなれば自家自得みずから種を下してみずからその実を収穫するはこれ自然の約束なればなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ここまで重いながら言葉を運んでくると、園はまた言わないでもいいことを言い続けているような気とがめがした。園は今日は自分ながらどうかしていると思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すべての人を感服せしむることは基督キリストいへども能はざりしなり。故に信条を掲げて以て来る者を歓迎し、往く者はとがめざる也。横井時雄氏かつて信仰を告白し、内村鑑三氏亦信仰を告白す。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
松島まつしまにあそぶきであつたか鴻斎翁こうさいおうはじめかれの文章を見た時、年の若いに似合にあはぬふでつきをあやしんで、剽窃へうせつしたのであらうととがめたとふ話を聞きましたが、漢文かんぶんく書いたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はただれをかとがめかつうらまんや〔これ哲人の心地〕。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
且曰く魚は琵琶の鮮に非れば喫する能はず、酒は伊丹の醸に非れば飲む能はずと。而して日野氏は善く之を容れて其無礼をとがめざりき。彼が詩に所謂吾骨天賦予なるものは空言に非る也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
もう一言ひとことおじさんにおっしゃってくださいまし、七度を七十倍はなさらずとも、せめて三度ぐらいは人のとがも許して上げてくださいましって。……もっともこれは、あなたのおために申しますの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)