家中かちゅう)” の例文
されば、まだことの虚実きょじつは明確に申しあげられませぬが、東海道——ことに徳川家とくがわけ家中かちゅうにおいてはもっぱら評判ひょうばんいたしております。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それも本当に平静をとりもどしたのは、丹後さまの亡くなった去年からだ、そこをよく考えて、家中かちゅうぜんたいのために堪忍してくれ」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜陰に呼びにやったのに、皆よう来てくれた。家中かちゅう一般の噂じゃというから、おぬしたちも聞いたに違いない。この弥一右衛門が腹は瓢箪に油を
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これはほとんど病苦と云うものの経験のない、あから顔の大男で、文武の両道にひいでている点では、家中かちゅうの侍で、彼の右に出るものは、幾人もない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
所が大藏如才ない人で、品格があって弁舌愛敬がありまして、一寸ちょっという一言ひとことに人を感心させるのが得意でございますから、家中かちゅう一般の評判が宜しく
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのほかにもいろいろの額がある。たいていは家中かちゅうのものの射抜いた金的きんてきを、射抜いたものの名前に添えたのが多い。たまには太刀たちを納めたのもある。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
濃紅こべに姫や、家中かちゅうの人々をみなごろしにして、只自分独り生き残って、そうしてこの国の女王となって、勝手気儘な事をしようと思っておられるので御座いますぞ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「お父さんも私もやっぱりご家中かちゅうの人でなければいけないと思っていますから、おやしきへあがってちょうどいいお婿むこさんをご詮議せんぎしていただきますわ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
能登守の家中かちゅうは、この催しの世話役に当って力を入れているばかりでなく、士分の者から選手を出す時に、ぜひとも自分の家中から誰をか出さねばならぬ
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家中かちゅうの者は飛び起きて拳銃の音のした方角へ馳せ集まったのでございます。其処は何処かと申しますに兄の室なのでございます。私も駈けつけて行きました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
娘のころ江戸のお屋敷で長刀なぎなたのひと手、柔術やわらから小太刀こだちまで教わり、家中かちゅうでも評判の腕前だったってね。
そうやって死んでも阿部一族への家中かちゅうの侮蔑は深まるばかりで、その重圧に鬱屈した当主の権兵衛が先代の一周忌の焼香の席で、もとどりを我から押し切って、先君の位牌に供え
家中かちゅう一同年も越せぬというありさま故、満右衛門はほとほと困って、平野屋の手代へ、品々追従賄賂して、頼み込んだが、聞き入れようともせず、挙句に何を言うかときけば
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
で、家中かちゅうが寝静まると、何処どこか一ケ所、小屏風こびょうぶが、鶴の羽に桃を敷いて、すッと廻ろうも知れぬ。……御睦おんむつましさにつけても、壇に、余り人形の数の多いのは風情ふぜいがなかろう。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道ならぬ恋に迷ひ家中かちゅうの者と手に手を取り駈落致したりとのうわさ、世に立ち候時は、師匠の御身分にもかゝはり申べく候。今のうちなれば拙者せっしゃの外は誰一人知るものなきこそさいわいなれ。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
加藤式部少輔明成は、父嘉明よしあきしゅつ家督かとくをついでから九年目になる、評判のよろしくないこの人は、四十万石の家中かちゅう河村権七かわむらごんしち堀主水ほりもんどかといわれたほどの名臣、主水を憎んでいた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
無反むぞり長物ながものを落差しにし、右を懐手にして、左手で竿をのべている。月代さかやきは蒼みわたり、身なりがきっぱりとしているから浪人者ではあるまい、相当の家中かちゅうと見わけられるのである。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其の伊右衛門は同じ家中かちゅう四谷左門よつやさもんの娘のおいわとなれあいで同棲いっしょになっていたが、主家の金を横領したので、お岩が妊娠しているにもかかわらず、左門のために二人の仲をさかれていた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし八沢やさわの長坂の路傍みちばたにあたるところで口論の末から土佐とさ家中かちゅうの一人を殺害し、その仲裁にはいった一人の親指を切り落とし、この街道で刃傷にんじょうの手本を示したのも小池こいけ伊勢いせの家中であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家中かちゅうの若い者どものはげみにもなります、と強く言い切って、まごつく金内をせき立て、共に殿の御前にまかり出ると、折よく御前には家中の重役の面々も居合せ、野田武蔵は大いに勢い附いて
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なに! 島津の家中かちゅうじゃと申すか」
二人がどういう反応を見せたかは疑うまでもない、除村久良馬は練志館の師範で、崇拝する門人も多いし、家中かちゅうぜんたいの信望もあつい。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「わかる、わかる、おばばの気持はよくわかる。さすがは、新免宗貫しんめんむねつら家中かちゅうで重きをなした本位田家の後家ごけ殿だけのものはある」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつまた家中かちゅうを陽気にしたのもそれ自身甚だ愉快である。保吉はたちまち父と一しょに出来るだけ大声に笑い出した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の父は十七のとき、家中かちゅうの一人を斬り殺して、それがめ切腹をする覚悟をしたと自分で常に人に語っている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思い切って区々まちまちであったところから、昔、信玄公が勝千代時分に、畳に二畳敷ばかりもはまぐりを積み上げて、さて家中かちゅうの諸士に向い、この数は何程あらん当ててみよと
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はかまぐらいの仕立が出来るのでお家中かちゅうへお出入りをいたしている、独り暮しの女で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
乳母の懐に抱かれて寝る大寒のな、私は夜廻の拍子木ひょうしぎの、如何に鋭く、如何に冴えて、寝静った家中かちゅうに遠く、響き渡るのを聞いたであろう。ああ、よるほど恐いもの、厭なものは無い。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
みんな旧藩きゅうはん関係だからご家来けらいだ。ご家来でなければ先生になれない。そのうち安斉あんざいさんという老人が指導主事として采配さいはいをふるっている。この先生はご家中かちゅうずい一の漢学者で、評判ひょうばんのやかまし屋だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
家中かちゅう一同は彼らを死ぬべきときに死なぬものとし、恩知らずとし、卑怯者ひきょうものとしてともによわいせぬであろう。それだけならば、彼らもあるいは忍んで命を光尚に捧げるときの来るのを待つかも知れない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いまでも正月の「水垢離ごり」と、長男が十五歳になったときの「みちあけの式」というのが残っていて、家中かちゅうでは筋目の家といわれている。
屏風はたたまれた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お出合であいなさい! お出合いなされ! 大久保家おおくぼけのご家中かちゅう方々かたがた、あやしいものがげまするぞ、早く、早く、早くここへ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが寛文かんぶん七年の春、家中かちゅうの武芸の仕合しあいがあった時、彼は表芸おもてげい槍術そうじゅつで、相手になった侍を六人まで突き倒した。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
諸大名の家中かちゅうにも、上品に遊ぶ者や活溌に遊ぶものもずいぶん無いではありませんでしたが、どうしても江戸の旗本あたりのように綺麗にゆかなかったそうであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家中かちゅうの者皆障子を蹴倒けたおして縁側へけ出た。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
家中かちゅうの人たちはむしろ好感をもって二人を見ていたばかりでなく、長島藩の「名物」というふうに考えていたようである。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
菊村宮内は、もと柴田勝家しばたかついえ家中かちゅうでも、重きをなしていた武将であったが、そういう世のありさまをながめると、まことに心がかなしくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから三四日経ったある雨の加納平太郎かのうへいたろうと云う同家中かちゅうの侍が、西岸寺さいがんじ塀外へいそとで暗打ちにった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここでもまた、お城の屋根の上の提灯を問題にして、家中かちゅうの侍や足軽などが立って見ていました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
騒ぎはおさまり、家中かちゅうは平穏になった。見廻りに来る与力の話によると、萩岡左内一派によって処罰された者は許され、放国された者は帰藩した。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『知っている筈だ。この二月ふたつき程は、赤穂の町中でも、よくぶつかっているし、家中かちゅうやしきへも、道具買に入っているから』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うむ、水戸はいったいけちなところじゃ、家中かちゅうを廻り歩いてもトンと祝儀しゅうぎが出まい」
「甚太夫は戦場へ出て、槍の柄を切り折られたら何とする。可哀かわいや剣術は竹刀しないさえ、一人前には使えないそうな。」——こんなうわさが誰云うとなく、たちまち家中かちゅうに広まったのであった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何分、家中かちゅうの家族ばかりでなく、九条家の諸太夫しょだいぶや、親戚の諸大名や、老中たちの二、三へも案内を出してあり、未曾有の雑鬧ざっとうが予想されるので
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘右衛門が正篤のうしろ楯になったらしい、かなり広い範囲にわたる交替で、いちじは家中かちゅうぜんたいが騒然となった。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お君は、我から喜んで美しい眉を落してしまいました——家中かちゅうの者は皆この新たなるお部屋様のために喜びました。能登守のお君に対する愛情は、無条件にこまやかなものでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
廊下ろうかを通る人の足音とか、家中かちゅうの者の話声とかが聞えただけで、すぐ注意がみだされてしまう。それがだんだんこうじて来ると、今度はごく些細ささいな刺戟からも、絶えず神経をさいなまれるような姿になった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「城代の朝倉さんに相談するんだな、御定法も曲げず、藩や家中かちゅうの名聞もきずつけずに裁きをつける、おれならそれができる、そう云えばいいだろう」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「分っている。しかし有村殿、家中かちゅうの者一統の生殺をあずかる阿波守じゃ。要意に要意をいたさねばならぬ。で、自然に、そこもとなどにはお分りのない心遣こころづかいがある」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしたからとて、誰もお前に非をうつものはないけれど、わたしはそうはゆかない、わたしに代って敵を討つ身寄りがない限り、わたしというものはこうしなければ、家中かちゅう面向かおむけがなりませぬ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)