わらは)” の例文
わらははな、近ごろいかい苦労をしておぢやつた。それ、お前も存じよりの黒谷の加門様の妹娘のことぢやが、あの娘が気がふれてな。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
そのあくる朝早く、父上は吾が身の行末を頼む由仰せ残されて四国へ旅立ち給ひぬとて、ひたすらに打泣くわらはをいたはり止めつ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のう、瀧口殿、葉末はずゑの露とも消えずして今まで立ちつくせるも、わらは赤心まごゝろ打明けて、許すとの御身が一言ひとこと聞かんが爲め、夢と見給ふ昔ならば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
引からげ堪忍かんにんしろとうしろからあびせ掛たるこほりやいば肩先かたさきふかく切込れアツとたまきる聲の下ヤア情けなや三次どの何でわらは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こころざしの末通りけるか、万里の外なる蘇武が旅寝に故郷の砧きこえしとなり。わらはも思ひ慰むと、とてもさみしきくれはとり、綾の衣を砧にうちて心慰まばやと思ひ候
謡曲と画題 (新字新仮名) / 上村松園(著)
いかなればわらはは初め君を知る明なくして、空想に耽り實世じつせうとき、偏僻へんぺきなる人とは看做みなしたりけん。おん身は機微を知り給へり。機微を知るものは必ず能く勝を制す。
「殿、覚えておはせ、御身おんみが命を取らむまで、わらはは死なじ」と謂はせも果てず、はたとかうべ討落うちおとせば、むくろは中心を失ひて、真逆様まつさかさまになりけるにぞ、かゝとを天井に着けたりしが
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我が同級のもつとも仲かりし某姉ぼうしも、まだ独身であるものを、誰某なにがしもまた今は学校に奉職せられしと聞くに、わらはのみはなど心弱くも嫁入りして、かかる憂き目を受くる事かと
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
北の方初めの程は兎角のおんいらへもなく打沈みておはせしが、度々の御尋ねにやうやく面を上げ給而たまいて、さんざふらふわらはが父祖の家は逆臣がために亡ぼされ、唯一人の兄さへ行衛も不知しらずなり侍りしに
再三再四問ひたるのちに、答へてふやう、わらはは今宵この山のうしろまで行かねばならずと。何用あつて行くやと問ひければ、そこにて児を殺したる事あれば、こよひは我も共に死なむと思ひてなり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
覺束おぼつかなし、わらは夜叉神やしやじん一命いちめいさゝげて、桃太郎も〻たらう
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
アントニオよ、わらはを殺せ、妾を殺せ、只だ妾を棄てゝな去りそと、夫人は叫べり。其かほ、其まなじり、其瞻視せんし、其形相ぎやうさう、一として情慾に非ざるものく、しかも猶美しかりき。
わらはが隣の祖母様ばばさまは、きつい朝起きぢやが、この三月みつきヶ程は、毎朝毎朝、一番鶏も啼かぬあひだけしい鳥の啼声を空に聞くといふし、また人の噂では、先頃さきごろ摂津住吉の地震なゐ強く
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
くちはなまゆ如何いかで見分けむ、たゞ、丸顔の真白ましろき輪郭ぬつとでしと覚えしまで、予が絶叫せる声はきこえで婦人がことばは耳に入りぬ、「こや人になかれ、わらは此処こゝにあることを」
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五月雨さみだれの生暖かき夜なんどは彼方の峯、此方こなた山峡やまかひより人魂の尾を引きてこの寺の方へ漂ひ寄り来るを物ともせぬ強気者したゝかものに候ひしが、わらはを見てしより如何様にか思ひ定めけむ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かくされ給ふよし然樣さやうにては跡々あと/\仕樣しやうも御座なく母樣はゝさま御一人にておこまり成るゝは申迄もなく元はわらは姉妹はらから二人を斯樣に御育下おそだてくだされ候よりお物入ものいり多く夫ゆゑ御難儀にも相成し事なればかずならねども私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ああわらはと共にあわれなる指環よと、不覚の涙に暮るる事もあるのです。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
わらはこそは中宮の曹司横笛と申すもの、隨意まゝならぬ世の義理に隔てられ、世にも厚き御情おんなさけに心にもなきつれなき事の數々かず/\、只今の御身の上と聞きはべりては、悲しさくるしさ、女子をなごの狹き胸一つには納め得ず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いかに申し解き侍らんか。おん身はわらはが心を解き誤り給ひしにはあらずやと思はれ侍りといふ。
われ胸を轟かしつゝ、今宵の婿がね、此の片面鬼三郎なりし事、兼ねてより御承知なりしやと尋ねしに、奈美殿、涙ながらに頭を打振り給ひて、否とよ。何事もわらはは承り侍らず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かけしかども心に染まねば強面くも返事へんじなさざりしに不※ふとした事よりはづかしながら友次郎樣と互に思ひ思はれて終に割なき中となりしを吾助はとくしりしとおぼしく是を口惜くちをしき事に思ひけんわらは一日友次郎樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
菊枝 わらは一人が此処にかえ?
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)