奢侈しゃし)” の例文
どんな無用なまた有害な奢侈しゃしぜいたく品でもどしどし製造されると同時に、もし充分に金を出して買いうる人がおおぜいおらぬ以上
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「その性狂暴、奢侈しゃしに長じ、非分の課役をかけて農民を苦しめ、家士を虐待し、天草の特産なる鯨油げいゆを安値に買上げて暴利をむさぼり」
その時の将軍は十一代徳川家斉いえなりであろう。奢侈しゃしを極めた子福者、子女数十人、娘を大名へさした御守殿ごしゅでんばかりもたいした数だという。
説いたが春琴も道修町どしょうまちの町家の生れであるどうしてその辺にぬかりがあろうや極端に奢侈しゃしを好む一面極端に吝嗇りんしょく慾張よくばりであった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを享楽のためにやっているのは、『オデュッセイア』のなかに奢侈しゃしの国として描かれているあの神話的なプァイエーケスの国である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
南方の奢侈しゃしを、立ち姿や、寝像にまで現して、昼となく、夜となく、おそらく、千年も万年も、不断の進みをつづけているのだ。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
無芸無能、僥倖ぎょうこうによりて官途につき、みだりに給料を貪りて奢侈しゃしの資となし、戯れに天下のことを談ずる者はわが輩の友にあらず
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
娘のほうはごくきれいな子で、一度オリヴィエからアルノー夫人の家に連れて行かれたことがあって、奢侈しゃしに眼がくらんでいた。
次に祝いなどに花美の事を致し互に音物いんぶつに気を張り、壱歩の物をればまた弐歩の物をつかわす、追々の奢侈しゃしつのると申すのだ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
老婦人の多く集る諸種の会合はあっても、それは凡て物見遊山ものみゆさんの変形で、老婦人同志の奢侈しゃしと自慢の競進場たるに過ぎない。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
全く「心の病」である——彼はそこで、放肆ほうしいさめたり、奢侈しゃしを諫めたりするのと同じように、敢然として、修理の神経衰弱を諫めようとした。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
去頃さるころより御老中ごろうじゅう水野越前守様みずのえちぜんのかみさま寛政かんせい御改革の御趣意をそのままに天下奢侈しゃしの悪弊を矯正きょうせいすべき有難き思召おぼしめしによりあまねく江戸町々へ御触おふれがあってから
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つづいて、町人の奢侈しゃし禁止が発布された。だが、窮民共は、このへとへとになっている町人へ、米高の罵声を浴せかけた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
美女を蓄わえておのれ楽しみ、美女を進めて将軍家を眩まし、奢侈しゃしと軟弱と贈収賄と、好色の風潮ばかりを瀰漫びまんさせておる。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは栄玄がぜんに対して奢侈しゃしを戒めたことが数次であったからである。抽斎は遺られた所の海鰱をきょうすることを命じた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんという奢侈しゃし優雅な生活であり、夢のように華麗な世界であったろうか! 世の中にはこんな優美な贅沢な生活も営み得るものであろうか! と
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
たりて徳足るとは真理にはあらざるべけれども確実なる経験なり、奢侈しゃしはもちろん不徳なり、我とみたればとておごらざるべし、しかれども滋養ある食物
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そして暗君、風狂、奢侈しゃし、安逸、あらゆる悪政家の汚名はいま高時の名にかぶせられて来たが、高時にいわせれば、じぶんの知ったことではあるまい。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる黄金崇拝おうごんすうはい物質的の米国などと綽名あだなされてあるこの国民が奢侈しゃし贅沢ぜいたく弊害へいがいおちいる傾向が割合いに少ない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
男はおもむろにへやの四方を看まわした。屏風びょうぶ衝立ついたて御厨子みずし、調度、皆驚くべき奢侈しゃしのものばかりであった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奉仕せぬ着飾る器は、工藝において罪と呼ばれねばならぬ。奢侈しゃしを道徳において罪に数えるのと同じである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
室子の家の商品の鼈甲は始め、玳瑁たいまいと呼ばれていた。徳川、天保の改革に幕府から厳しい奢侈しゃし禁止令が出て女の髪飾りにもいわゆる金銀玳瑁はご法度はっとであった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雪に真珠を食にて、真珠をもって手を暖むとせんか、含玉鳳炭がんぎょくほうたん奢侈しゃしけだし開元天宝の豪華である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奢侈しゃし嫌い、諸事御倹約の殿の事であるから、却って金銀をちりばめたのから見ると本物という事が点頭うなずかれるけれども、これは時として臣下に拝領を許される例もあるので
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
珍味佳肴かこうを供し、華美相競うていたずらに奢侈しゃしの風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、くだって義政公の時代に及び
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
は、奢侈しゃしの余り多くの騾に金くつ穿かせ、また化粧に腐心して新たに駒産める牝驢ひんろ五百をい、毎日その乳に浴し、少し日たったものを新乳のものと取り替うる事絶えず。
通俗の言葉で云えば人間が贅沢ぜいたくになる。道学者は倫理的の立場から始終しじゅう奢侈しゃしいましめている。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして見たところ陰気なくらい単調な学校生活は、私が青年時代に奢侈しゃしによって得たよりも、あるいは壮年時代に罪悪によって得たよりも、もっと強烈な刺激に満ちていたのであった。
されど現時げんじ一般女学校の有様を見るに、その学科はいたずらに高尚に走り、そのいわゆる工芸科なる者もまた優美をむねとし以て奢侈しゃし贅沢ぜいたくの用に供せらるるも、実際生計の助けとなる者あらず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
奢侈しゃしを矯正する趣意から武家町人らの百姓地に住むことが禁止された。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支那に於ける税の費途如何いかんというに、王者はこれを以て土木を興し、宮殿を営み、奢侈しゃしを尽せば、その身辺を囲繞いじょうする官僚はまたこれを以て土地を買い、貨殖を謀り、子孫のために身後の計をする。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼は学生に向っても、常に奢侈しゃしいましめて質素を説き、生活を簡易化することの利得を説いた。贅沢ぜいたくくらしをするほど、生活が煩瑣はんさに複雑化して来て、仕事に専念することができなくなるからである。
此風慶長頃特に盛んにしてあるいは奢侈しゃしの傾あり、支配掘家しはいほりけより四月八日山入厳禁の命あり、追々衰えたりしも、今も村田辺(三島郡島田村大字村田?)にこの遺風あり、名づけて藤の花立はなたてというと。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奢侈しゃしの増加のためでなければ、内在的な不備のためにね。
今日の世の中の一方には贅沢ぜいたく奢侈しゃしと栄達とがある。
奢侈しゃしなる周囲の装飾。
貪吝たんりん奢侈しゃし誹謗ひぼうの類はいずれも不徳のいちじるしきものなれども、よくこれを吟味すれば、その働きの素質において不善なるにあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは時にあるいは有閑階級にのみ可能な非実践の実践として、すなわち搾取者の奢侈しゃしとして特性づけられ得るであろう。
『青丘雑記』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その代わりかかる信念を有する人々は、いくら金をもうけ、いくら財産をこしらえても、これを一身一家の奢侈しゃしぜいたくには使わないはずである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
追々触出し候おもむきを相守り、正路にして質素倹約を致すべく候処、だんだん御国恩を忘れ奢侈しゃしに移り衣食の分限ぶんげんわきまえず、三百目、五百目の品を相用い
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もっと矛盾むじゅんしたものは、寛永以後、前代にも、綱吉の代にも、たびたび発しられている奢侈しゃし禁止令が、桂昌院を中心とする大奥や、綱吉自身のまわりから
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するものあれば頬辺ほっぺたをつねって懲し或は芸者の顕官に寵せられて心おごるもの或は芸人俳優者の徒にして奢侈しゃし飽く事なきものあらば随所に事をかまえて其の胆を
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの使役せらるる運命に美が輝くとはいかなる備えであるか。そうしてあの美の奢侈しゃしにではなく、美の遠慮に、美がいよいよ冴えるとはいかなる意義であるか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この第二種の女には労働を避けて物質的の奢侈しゃしを得ようとする遊惰性と虚栄心に富んだ女が多く当った。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
奢侈しゃし下剋上げこくじょうの風習が、勤倹質素尚武となり、幕府瓦壊の運命を、その後も長く持ちこたえたのであった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もっともお召縮緬を着たのは、あなが奢侈しゃしと見るべきではあるまい。一たん一朱か二分二朱であったというから、着ようと思えば着られたのであろうと、保さんがいう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
奢侈しゃしな生活をしたがっていたし、旗本は、家重代の鎧までを入質して、生活費に当てているし、大名は、各々己の家を支えるだけに、全力を挙げなくてはならなかった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この皇帝は外征を好んだ父のアウレル皇帝とは性格がまったく違って、戦争が大嫌いで、奢侈しゃし遊楽のみにふけり、まことに懦弱だじゃく怯懦きょうだで、非常に我儘わがまま勝手な皇帝でありました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
きらった春琴に奢侈しゃしを許したのはほかに楽しみのない不具の身を憐れんだ親の情であったのだが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世間はようやく苦しい世間になって、一面には文化の華の咲乱れ、奢侈しゃしの風の蒸暑くなってくる、他の一面には人民の生活は行詰まり、永祚えいその暴風、正暦しょうりゃくの疫病、諸国の盗賊の起る如き
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)