くち)” の例文
そこいらの墓では、まだ火のともれた、蝋燭ろうそくを、真黒まっくろくちくわえて風のように飛ぶと、中途で、青い煙になって消えたんですのに。
鷲郎は黒衣が首級くびを咬ひ断離ちぎり、血祭よしと喜びて、これをくちひっさげつつ、なほ奥深く辿たどり行くに。忽ち路きわまり山そびえて、進むべき岨道そばみちだになし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
何も妾がさえぎって女の癖に要らざるくちを出すではなけれど、つい気にかかる仕事の話しゆえ思わず様子の聞きたくて、よけいなことも胸の狭いだけに饒舌しゃべったわけ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちいさいくちが一せいにこたへました。母燕おやつばめはたまらなくなつて、みんな一しよにきしめながら
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
人に接吻を求めるような姿態しなである。そのを顔へ近づけてやると、雀は、兼好の歯ぐきにはさまっていた今朝の汁の実の菜ッ葉を見て、ツイとくちるやいな喰べてしまった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くちで鼻の頭をつツ突かれて、あとすざりをしてゐますよ。可愛いゝもんです。わたしもね、年に三度は引越をする男ですが、何処へ行つても、近所といふものが五月蠅くていけない。
犬は鎖に繋ぐべからず (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あーんと口開かして、薬入れてしまいなさると、今度はあの、病人の水飲ますくちの長アいガラスのれもんありますやろ? あれ二つ両手に持って、そろそろと、孰方どっちが先にもならんように
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、相当なる理由を発見して頌徳表しようとくへうを呈したる時、春山と呼ばれたる陸軍中尉の妻女「あら、麦沢先生、山木様はくに御約束で、最早もう近々に御輿入おこしいれになるんですよ」と、黄色な声してくちれぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たましひを洗はるる如く見てをりぬひなをやしなふくちうつすさま
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
緋に燃ゆる胸毛にくちを挿入れて鸚鵡うつ/\眠りてゐるも
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
八五郎が横合からくちを入れました。
ほねからくちから、すッかりそろた——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
黄色いくちからでゝおいで
雀の歌 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
琥珀のはいくちにふくみて
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
かごける、と飜然ひらりと来た、が、此は純白ゆきの如きが、嬉しさに、さっ揚羽あげはの、羽裏はうらの色は淡く黄に、くち珊瑚さんご薄紅うすくれない
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
南無三なむさんしてやられしと思ひしかども今更追ふても及びもせずと、雉子を咬へて磚𤗼ついじをば、越え行く猫の後姿、打ち見やりつつ茫然ぼうぜんと、噬み合ふくちいたままなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
連添ふものに心の奥を語り明して相談かけざる夫を恨めしくはおもひながら、其所は怜悧りこうの女の分別早く、何も妾が遮つて女の癖に要らざるくちを出すではなけれど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
夫婦ふうふこまつてしまひました。そして、鳥屋とりやへもつてつてりました、けれどそれがうんきでした。そのくちからの言葉ことばで、とうとう二人ふたりつかまつて、くらくら牢獄ろうごくのなかへげこまれました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
と雀はくちを鳴らした。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くちで汲むから
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
かごける、と飜然ひらりた、が、これ純白じゆんぱくゆきごときが、うれしさに、さつ揚羽あげはの、羽裏はうらいろあはに、くち珊瑚さんご薄紅うすくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
畢竟ひっきょう村童們さとのこら悪戯いたずらならんと、その矢をくちひ止めつつ、矢の来しかたを打見やれば。こは人間と思ひのほか、おおいなる猿なりければ。にっくき奴めとにらまへしに、そのまま這奴しゃつは逃げせぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
くちにくはへて
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
総六親仁は、最初、この茄子の種をもたらして、背戸へこぼして行ったのは、烏にて翼違い、雉子きじのようでやや小さく、山鳥かと思うとくちの白い、名を知らぬ、一羽の鳥であったという。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひわくちがちょっと触ってもかすか菫色すみれいろあざになりそうな白玉椿の清らかに優しい片頬を、水紅色ときいろの絹半帕ハンケチでおさえたが、かつ桔梗ききょう紫に雁金かりがねを銀で刺繍ぬいとりした半襟で、妙齢としごろの髪のつやに月の影の冴えを見せ
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)