剥出むきだ)” の例文
此返事このへんじいて、むつとはらつた。頭巾づきんした剥出むきだして、血色けつしよく頸元えりもとかゝるとむかう後退あとすざりもしない。またいてた。
と云いさして源次は、眼を真白く剥出むきだしたまま、ユックリと唇を噛んで、けもののようにみっともなく流れ出るよだれをゴックリと飲み込んだ。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
剥出むきだし是サ此子はこはい事はない此伯父と一所に歩行々々あゆめ/\引摺ひきずり行を娘はアレ/\勘忍かんにんして下されませ母樣かゝさまが待て居ますと泣詫なきわびるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こんな所へ来てまでも、野侍を剥出むきだしに物をいう久米之丞の身ごなしが、一緒に来た月江には、ひどく不快に感じられます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渋沢は、眼球を剥出むきだして、顔中を痙攣けいれんさせながら、ひざを突いて、土方へ倒れかかった。土方が避けたので、打伏しにころがると、動かなくなった。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ある学生さんが買物をするとて、お札を剥出むきだしにつかんで、そこの窓の方を見ぬようにして通り過ぎたのですが、気が附いたらその札がありません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
茂吉は胸を大きく波打たせ、剥出むきだされた眼で相手を鋭くにらみつけていたが、やがてくるりときびすをかえし、逃げるように裏手へ出て行ってしまった。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
立会いに相手を傲慢ごうまんんでかかってから軽蔑けいべつの歯を剥出むきだして、意見をみ合わす無遠慮な談敵を得て、彼等は渾身こんしんの力が出し切れるように思った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
遊牧民は非常に粗野で人と物をいうにも剥出むきだしで実に荒々しい風ですが、もうこの地方の住民は遊牧民とはすっかり違って言葉の使い方も幾分か都風になって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だが、そのかわり今度は更に錯綜さくそうした視線の下に彼は剥出むきだしでさらされるのであった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
一男の鳥打帽子とりうちぼうしがさっと風にきあげられて、いがぐり頭が剥出むきだしになった時には、熱心な見物人たちは我しらずうめいた。帽子は鉄骨にぶつかりぶつかり長くかかって落ちて行った。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
余り飲まない三造に、そう無理に勧めるでもなく、一人で盃を重ねる中に、M氏はその赤い鼻をますます赤くして脂を浮出させ、しかも絶えず黄色い歯を剥出むきだしてニヤニヤし続けている。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
御意ぎょいかなわぬとなると瑣細ささいの事にまで眼を剥出むきだして御立腹遊ばす、言わば自由主義の圧制家という御方だから、哀れや属官の人々は御機嫌ごきげんの取様にまごついてウロウロする中に、独り昇はまごつかぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
道々みち/\も一ぷん絶間たえまもなくしやべつゞけて、カフカズ、ポーランドを旅行りよかうしたことなどをはなす。さうして大聲おほごゑ剥出むきだし、夢中むちゆうになつてドクトルのかほへはふツ/\といき吐掛ふつかける、耳許みゝもと高笑たかわらひする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
牙と舌を剥出むきだして、犬ですね、ちんつらの長い洋犬などならまだしも、尻尾を捲上まきあげて、耳の押立おったった、痩せて赤剥あかはげだらけなのがあえぎながら掻食かっくらう、と云っただけでも浅ましさが——ああ、そうだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剥出むきだしの曲りくねった垂木には一寸程も埃が積もっていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
剥出むきだしかり付ればヘイ如何樣に申上ましても御取あげ御座らず九助儀は無實むじつ災難さいなんに陷ります事見るに堪兼候と云を理左衞門大音上げ默止だまれ此方は善惡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大助の手を振るようすが可笑しいといって、女中は歯を剥出むきだしにして笑いこけた。……食事が終ってから、どちらが云いだすともなく泊ることになった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
義歯をクワット剥出むきだした正木博士の笑い顔が、五寸四方位の大きさに目の荒いあらい写真版で刷り出してあった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生々しい木肌を剥出むきだして、裂かれた琵琶の胴は胴の中の構造を、明らさまにの下にさらしている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曾川の従者が、左右から、縁側から首を伸ばして、眺めていた。右源太は、油紙を一枚一枚いで、布をとり、綿をとって、蒼白あおじろくふくれて、変色している首を剥出むきだした。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
道々みちみちも一ぷん絶間たえまもなくしゃべつづけて、カフカズ、ポーランドを旅行りょこうしたことなどをはなす。そうして大声おおごえ剥出むきだし、夢中むちゅうになってドクトルのかおへはふッはふッといき吐掛ふっかける、耳許みみもと高笑たかわらいする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
叔母がつらふくらしても眼を剥出むきだしても、それしきの事なら忍びもなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
下廊下を、元気よく玄関へ出ると、女連の手は早い、二人で歩行板あゆみいたと渡って、自分たちで下駄を揃えたから、番頭は吃驚びっくりして、長靴をつかんだなりで、金歯を剥出むきだしに、世辞笑いで、お叩頭じぎをした。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぞと挨拶にでも云う者が居るとオナリ婆さんは、きまり切って乱杙歯らんぐいば剥出むきだしてイヤな笑い方をした。片足を敷居の外に出しながら、すこし勢込んで振返った。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして船長が急いで抱き起すと、——彼は恐怖で剥出むきだされた眼を海の方へ向けながら
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と詫びようとした時、相手の男はすさまじく歯を剥出むきだしたと思うと、いきなり扉口ドアぐちへ飛鳥のようにとびついた。そしてスイッチの音がしたとみる刹那、部屋中の電灯がぱっと消えて四辺あたりは真暗闇になった。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鬚男は黄色い健康な歯を剥出むきだしながら、工場こうばの上の青空を凝視した。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三好が白い歯を剥出むきだして笑い笑い又野の前に立塞たちふさがった。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)