たふ)” の例文
これをしも薄命と呼ばないとすれば、何ごとを薄命と呼ぶであらう? 僕は少くとも中道にたふれた先達の薄命を弔はなければならぬ。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かれそのみねしたまへりし大神、聞き驚かして、その室を引きたふしたまひき。然れども椽に結へる髮を解かす間に遠く逃げたまひき。
引寄せられし宮はほとほとたふれんとして椅子に支へられたるを、唯継は鼻もるばかりにその顔を差覗さしのぞきて余念も無く見入りつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
賊は火のついた蝋燭らふそくを手にもつて、戸口を一歩踏み出すと、たちまち、何者にか足をさらはれて、バツタリとそこにたふれました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
倒崖のたふれかゝらんとする時、猛虎の躍りまんとする時、巨鱷きよがくの来り呑まんとする時、泰然として神色自若たるを得るは、即ちこの境にあるの人なり。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あゝ、生きて、働いて、たふれるまで鞭撻むちうたれるのは、馬車馬の末路だ——丁度我輩は其馬車馬さ。はゝゝゝゝ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
太い杉の樹をたふして、美しく皮をいたのがあつたので、二人は其の上に並んで腰をかけた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
穰苴じやうしよすなはへうたふ(一二)ろうけつし、りてぐんめぐへい(一三)ろくし、約束やくそく(一四)申明しんめいす。約束やくそくすでさだまる。夕時せきじ莊賈さうかすなはいたる。穰苴じやうしよいはく、『なんすれぞおくるる』
側には母上地によこたはり居給ふ。これを圍みたるは、見もしらぬ人々なり。馬は車を引きたるまゝにて、たふれたる母上の上を過ぎ、わだちは胸を碎きしなり。母上の口よりは血流れたり。
思はざりき、主家しゆかたふ城地じやうちほろびて、而かも一騎のかばねを其の燒跡やけあとに留むるものなからんとは。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
鋭い利鎌とかまで草でもぐやうにたふされ、皮を剥がれ、傷つけられ、それから胴切にされてしまふ、今までは私の宅の周囲も、森林で厚肉の蒼黯あをぐろ染色硝子ステインドグラスを立てゝゐたが、一角だけを残して
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
たのしみは、すびつのもとにうちたふれ、ゆすりおこすも知らでねしとき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
負けて勝つ心を知れや首引くびひきのかちたる人のたふるゝを見よ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やられて、材木のやうにたふれました
かくてたふれぬ、禮拜らいはいの事了りて。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
六月十二日、予は独り新富座におもむけり。去年今月今日、予が手にたふれたる犠牲を思へば、予は観劇中もおのづから会心の微笑を禁ぜざりき。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かれその横刀たちを受け取りたまふ時に、その熊野の山のあらぶる神おのづからみな切りたふさえき。ここにそのをえ伏せる御軍悉に寤め起ちき。
チャラピタはろくに狙ひをつけるひまもなく、ドーンと一発はなすと、うまく熊の背骨にあたりましたから、ひとつたまりもなく、熊はその場にたふれました。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
百万人の敵を学びたる(仮定して)漢王も、亦た「死朽」といふ不可算の敵の前には、無言にしてたふれたり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
貫一ははや幾間を急行いそぎゆきたり。宮は見るより必死と起上りて、脚のいたみ幾度いくたびたふれんとしつつも後を慕ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
丁度収穫とりいれの頃で、堆高うづだかく積上げた穀物の傍にたふれて居ると、農夫の打つつちは誤つての求道者を絶息させた。夜露が口に入る、目が覚める、蘇生いきかへると同時に、白隠は悟つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
逸したる馬の母上を踏たふしゝとき、車の中に居たるは、こゝの主人の君にぞありける。
かくてたふれぬ、礼拝らいはいの事了りて。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
老人はのけざまにたふれたぎり、二度と起き上る気色は見えない。白衣の聖母は石垣の上から、黙黙とその姿を見下してゐる。おごそかに、悠悠と。
商賈聖母 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ちがふ、僕の弾丸は、たしかに心臓に命中した。だから、熊はよろめいてたふれるところだつたではないか、君の弾丸なんかろくなところに中つてゐやしない」
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
之を以て三百年の政権はほとんど王室の尊厳をさへ奪はんとするばかりなりし、然るに彼の如くもろくたふれたるものは、し腐敗の大に中に生じたるものあるにもせよ
呼べどさけべど、宮は返らず、老婢は居らず、貫一は阿修羅あしゆらの如くいかりて起ちしが、又たふれぬ。仆れしを漸く起回おきかへりて、忙々いそがはし四下あたりみまはせど、はや宮の影は在らず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
急に烈しい眩暈めまひおそはれて、丑松は其処へたふれかゝりさうに成つた。其時、誰か背後うしろから追迫つて来て、自分をつかまへようとして、突然だしぬけに『やい、調里坊てうりツぱう』とでも言ふかのやうに思はれた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たふれてつかむあしよ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ジウラ王子はフラ/\とたふれさうな足取りで、高くしげつた夏草の中を、がさ/\と分けて行きました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
しかし一度用ひたが最後、大義の仮面は永久に脱することを得ないものである。もし又強いて脱さうとすれば、如何なる政治的天才も忽ち非命にたふれる外はない。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
至善の至悪をたふしたるもこのあしたなり、無漏の有漏に勝ちたるも、光明の無明を破りたるも、神性人性を撃砕したるも、皆この時に於てありしなり、而して其時間は一閃電の間に過ぎず
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たふるれば、魔力まりきたちま
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
死してたふるゝ人のごと
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれども巨人の方では奥に二人が入るにつれて、こそばゆくなつて、くさみをしさうになりますのをこらへ/\致しますので、中の二人は時々その強い息に吹きたふされました。
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
耶蘇教の文明(外部の)を以て仏教の文明をたふさんとするにあらず、耶蘇教の智識を以て仏教の智識を破らんとするにあらず、吾人は生命思想を以て不生命思想を滅せんとするものなり
内部生命論 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あなたふれけん声高し
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おしつぶし、つかみ殺してやらうと思つて、まるで大木でもたふれるやうに、のしかゝつて来ました。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
戦ひに死してはいを敵に向けず、其勇は実によみすべし。然れども戦ふ為にうまれ、戦ふ為にたふる可きは、夫れ仏国か。一大魔ありて人間界を支配するとせば、彼は仏国を以て一闘犬となしつゝあるなり。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たふれかなしむ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、その頭の中に、海底で鱶に襲はれたときには、すばやく仰向けにどろの中にたふれ、手足をばた/\させて、そこらを濁してしまへばのがれることが出来るといふ話を思ひ出しました。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
ニナール姫は心配で、もうぢつとしてゐられなくなりました。で、自分も、ラマ塔をめざして行きました。一足々々、ジウラ王子が、そこにたふれてはゐないかと、危ぶみながら進みました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)