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亀裂
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ひび
ふりがな文庫
“
亀裂
(
ひび
)” の例文
旧字:
龜裂
お岩は苦しい体をひきずるようにして、台所から
亀裂
(
ひび
)
の入った火鉢を出して来た。そして、それに蚊遣りをしかけながら宅悦を見た。
南北の東海道四谷怪談
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
ある冬の日の暮、
保吉
(
やすきち
)
は
薄汚
(
うすぎたな
)
いレストランの二階に
脂臭
(
あぶらくさ
)
い焼パンを
齧
(
かじ
)
っていた。彼のテエブルの前にあるのは
亀裂
(
ひび
)
の入った
白壁
(
しらかべ
)
だった。
保吉の手帳から
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
……やどかりも、うようよいる。が、真夏などは
暫時
(
しばらく
)
の汐の
絶間
(
たえま
)
にも乾き果てる、壁のように
固
(
かた
)
まり着いて、
稲妻
(
いなずま
)
の
亀裂
(
ひび
)
が
入
(
はい
)
る。
海の使者
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
窓ガラスの
亀裂
(
ひび
)
のはいった片隅には、水の
滴
(
したた
)
りが流れている。昼間の黄ばんだ明るみが消えていって、室内はなま温くどんよりとしている。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ちょうど
亀裂
(
ひび
)
だらけになって、今にもこわれそうな石地蔵が、外側に絡みついた蔦の力でばかり、やっと
保
(
も
)
っているのを見るような心持がした。
日は輝けり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
どこがどう押されてか、てかてかの軽い
鋳型
(
いがた
)
に、ところどころ凸凹ができ、
亀裂
(
ひび
)
がはいり、ぱくりと口をあくのである。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
新吉が心配しぬいている通り、こんどのことが悪く発覚すると、店の土台へ
亀裂
(
ひび
)
の入るような破滅になるかもしれない。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
墓のなかで脹れあがった唇の皮はところどころに薄い赤い
亀裂
(
ひび
)
が出来て、透明な雲母のようにぎらぎらしていた。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
パンセイの頭には
亀裂
(
ひび
)
が入って、そこから暗黒世界がほんのわずかばかり沁み込んだために、彼を死に至らしめたのだという私の説を一笑に
付
(
ふ
)
している。
世界怪談名作集:12 幻の人力車
(新字新仮名)
/
ラデャード・キプリング
(著)
雨の
汚点
(
しみ
)
が、壁に異様な模様を
描
(
か
)
いている。化粧台の鏡には大きな
亀裂
(
ひび
)
がはいり、縁の欠けた白い陶器の洗面器の中に、死んだ蠅が一匹ころがっていた。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
夕方少し涼しくなるのを待ち、燈下の机に向おうとすると、丁度その頃から
亀裂
(
ひび
)
の
入
(
い
)
ったような鋭い物音が
湧起
(
わきおこ
)
って、九時過ぎてからでなくては歇まない。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
太陽の光で、例の白壁の表面を調べて見たが、別に怪しい影もなく、それと見まがう
亀裂
(
ひび
)
がある訳でもない。
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
みんなで飯を食っていると、しきりに、石油の
臭
(
におい
)
がした。父がやっと発見したら、ランプの油壺に
亀裂
(
ひび
)
が入って、そこから石油が、しずくになって
洩
(
も
)
れていたのだった。
あまり者
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
亀裂
(
ひび
)
のはいった長生きではなかった。この元気な老人は常に健康だった。彼は浅薄で、気が早く、すぐに腹を立てた。何事にも、多くは条理もたたないのに、煮えくり返った。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている
見窄
(
みすぼ
)
らしい
家並
(
やなみ
)
のつゞいた町であった。玄関の
円柱
(
はしら
)
に塗った
漆喰
(
しっくい
)
が醜く
剥
(
はが
)
れている家や、壁に大きな
亀裂
(
ひび
)
のいっている家もあった。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
満員電車のつり皮にすがって、押され突かれ、もまれ、踏まれるのは、多少でも
亀裂
(
ひび
)
の入った肉体と、そのために薄弱になっている神経との所有者にとっては、ほとんど堪え難い
苛責
(
かしゃく
)
である。
電車の混雑について
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
しとやかなるは
踵
(
かかと
)
に
亀裂
(
ひび
)
きらせしさき程の下女にあらず。
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
亀裂
(
ひび
)
の
入
(
はい
)
つたこれらの頭に、烏は似合ひのよい羽飾り。
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
亀裂
(
ひび
)
が入って、ほぐれた石灰や土が
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
そこ、かしこ、
硝子
(
ガラス
)
に
亀裂
(
ひび
)
入り
晶子詩篇全集拾遺
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
入交
(
いりまじ
)
りに波に浮んでいると、
赫
(
かっ
)
とただ金銀銅鉄、
真白
(
まっしろ
)
に溶けた
霄
(
おおぞら
)
の、どこに
亀裂
(
ひび
)
が入ったか、
破鐘
(
われがね
)
のようなる声して
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
けれど今日ばかりは、彼女のそうして持ち堪えてきた心も
亡
(
ほろ
)
んでしまいそうだった。今までの純真な心へ、ま二つの
亀裂
(
ひび
)
が走ったかと自分ですら悲しまれた。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
頭の往った方は
床
(
とこ
)
になっているが、そこも
亀裂
(
ひび
)
の入った
黄
(
きい
)
ろな
壁土
(
かべつち
)
が
侘
(
わび
)
しそうに見えるばかりで、軸らしい物もない。見た処どうしても空家としか思われない。
指環
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
(僕は
木目
(
もくめ
)
や珈琲茶碗の
亀裂
(
ひび
)
に度たび神話的動物を発見していた)一角獣は
麒麟
(
きりん
)
に違いなかった。
歯車
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
親類外の人々が、戦死した報を聞いても、そうビクビクしていなかった母たちは、
貞助
(
さだすけ
)
が、ウチジニしてからは、
足許
(
あしもと
)
に
亀裂
(
ひび
)
が入ったように、
何時
(
いつ
)
もキョトキョトしていた。
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
彼は
亀裂
(
ひび
)
のはいった地面の上に、
日向
(
ひなた
)
に寝そべった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
肉は
干
(
ひから
)
び、皮
萎
(
しな
)
びて見るかげもないが、手、胸などの
巌乗
(
がんじょう
)
さ、
渋色
(
しぶいろ
)
に
亀裂
(
ひび
)
が入つて
下塗
(
したぬり
)
の
漆
(
うるし
)
で固めたやう、
未
(
ま
)
だ/\目立つのは鼻筋の
判然
(
きっぱり
)
と通つて居る
顔備
(
かおぞなえ
)
と。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
だが——一党四十幾名の生命を
負
(
にな
)
って、
薄氷
(
うすらい
)
を踏んでいるのだ。
亀裂
(
ひび
)
を見たら、もう全部の
潰滅
(
かいめつ
)
である。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
のみならず彼の勧めた
林檎
(
りんご
)
はいつか黄ばんだ皮の上へ一角獣の姿を現してゐた。(僕は
木目
(
もくめ
)
や
珈琲
(
コオヒイ
)
茶碗の
亀裂
(
ひび
)
に度たび神話的動物を発見してゐた。)一角獣は
麒麟
(
きりん
)
に違ひなかつた。
歯車
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
四方の
静寂
(
しじま
)
を
劈
(
つんざ
)
いて「ア——ああっッ」と、
亀裂
(
ひび
)
のはいった声だった。伝七郎の口からである。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
燈火
(
ともしび
)
の赤黒い、
火屋
(
ほや
)
の
亀裂
(
ひび
)
に紙を貼った、笠の
煤
(
すす
)
けた
洋燈
(
ランプ
)
の
下
(
もと
)
に、膳を引いた跡を、直ぐ長火鉢の向うの
細工場
(
さいくば
)
に立ちもせず、
袖
(
そで
)
に
継
(
つぎ
)
のあたった、黒のごろの
半襟
(
はんえり
)
の破れた
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
暗い中から白い
服装
(
なり
)
、麻の葉いろの巻つけ帯で、草履の音、ひた——ひた、と客を見て早や用意をしたか、
蟋蟀
(
きりぎりす
)
の
噛
(
かじ
)
った
塗盆
(
ぬりぼん
)
に、朝顔茶碗の
亀裂
(
ひび
)
だらけ、茶渋で
錆
(
さ
)
びたのを二つのせて
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
問「朝廷の両立ならば、その
亀裂
(
ひび
)
は昔からの古傷で、いま始まったことではない」
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
又何か、両親同士で、
争論
(
いさかい
)
をしているらしいのである。左兵衛佐は、父にあの事変があって以来、六十歳にもなるこの両親の間に迄、一つの大きな
亀裂
(
ひび
)
が入ったことを何よりも残念に思った。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いや、下宿の三階建の
構
(
かまえ
)
だったのですが、頼む木蔭に冬空の雨が漏って、
洋燈
(
ランプ
)
の笠さえ破れている。ほやの
亀裂
(
ひび
)
を紙で繕って、崩れた壁より、もの寂しい。……第一石油の底の方に
淀
(
よど
)
んでいる。
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
とちと粘って
訛
(
なまり
)
のある、ギリギリと勘走った高い声で、
亀裂
(
ひび
)
を
入
(
い
)
らせるように霧の中をちょこちょこ走りで、玩弄物屋の
婦
(
おんな
)
の
背後
(
うしろ
)
へ、ぬっと、鼠の
中折
(
なかおれ
)
を
目深
(
まぶか
)
に、
領首
(
えりくび
)
を
覗
(
のぞ
)
いて、
橙色
(
だいだいいろ
)
の背広を着
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
亀裂
(
ひび
)
でも
入
(
い
)
っていたろう。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“亀裂”の意味
《名詞》
亀の甲羅のように走る裂けめや割れ目のこと。
(出典:Wiktionary)
亀
常用漢字
中学
部首:⼄
11画
裂
常用漢字
中学
部首:⾐
12画
“亀裂”で始まる語句
亀裂破