霖雨りんう)” の例文
そこでは密林霖雨りんうの中で、見えも外聞もなく令嬢に迫りつづけ、ついにはその葛藤中にゴリラのために一撃の下に打ち殺されている。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
花心くわしんだいにして七菊花の形をなし、臙脂の色濃く紫にまがふ。一花いつくわ落つれば、一花開き、五月を過ぎて六月霖雨りんうこうに入り花始めて尽く。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
毎日のように降り続く霖雨りんう期にしては、珍しい程星のきらめく夜だった。所々土城の上では土幕民達が車座をなして夕涼みをしている。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
二三日前から梅雨に入ったと見え、本式の霖雨りんうが始った。いやだ。然し周囲が静かになり、大工の音も少しはやわらげられるのは嬉しい。
十重二十重に囲まれ、その上連日の霖雨りんうであるから、いくら遊び事をして居たって、城内の諸士が相当に腐ったのは想像出来る。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは、四月末から五月、六月の若鮎の溯上最も盛んな頃は、山から雪が解けて来るか、打ち続く霖雨りんうのため、川の水は極めて多い季節である。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
九月になって、その学生たちが引き上げてしまうと、例年のように霖雨りんうが来て、こんどはもう出ようにも出られなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
なつやうやけると自然しぜんこゝろ焦燥あせらせて、霖雨りんうひくみづ滿たしめて、ほりにもしげつたくさぼつしてきしえしめる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
千葉県には霖雨りんうをケシネツツキという言葉さえできていた(上総国誌稿)。外の作業はできなくて、ただ飯米を搗いてくらす時という意味らしい。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
八月の末に霖雨りんうが降りつづいたので、利根川は出水して沿岸の村々はみな浸された。平助の小屋も押し流された。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あかい落葉は、踏む足のしたでカサとの音もたてず、降りつづく陰欝な霖雨りんうにうたれて、わだちのなかで朽ちていた。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
梅雨どきには珍しいどしゃ降りが四五日続き、なおじとじと霖雨りんうが降っている。普通なら客足の少なくなる条件だが、この一廓はいまたいした繁昌ぶりだ。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
地質の脆弱ぜいじゃく、人の達し得ないほど深い所に起こる地すべり、夏の豪雨、絶え間ない冬の雨、長く続く霖雨りんうなど。
城内と云はず郊外と云はず空一面、蒙古もうこ砂漠さばくからのあの灰いろのほこりに包まれてしまつた。これがこの都会の名物なのだ。静かだが霖雨りんうのやうに際限なく欝陶うつたうしい。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
一五八四年ヴァランス(Valence)において、霖雨りんうのために非常に毛虫がいたことがあった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
あいにくなもので時候はずれの霖雨りんうがしばらくつづいて、なかなか適当な日は来なかった。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
遺伝は、結婚したら鉄漿おはぐろをつけると云う。上海プノンペン間を商用にて往来する父にカンボジヤ国より檳榔子ばあむの実を土産に買ってきてもらう。霖雨りんうの来らんことをたえず願う。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
私たちはしょぼしょぼと降りつづく霖雨りんうの中に無言のまま立ちすくんでしまいました。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
霖雨りんうの底で夜のレールがおぼろげに曲っていた。壊れかかった幌馬車が影のように、煉瓦の谷間の中を潜っていった。混血児の春婦がひとり、弓門きゅうもんの壁に身をよせて雨の街角を見詰めていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
身は今旅の旅にりながら風雲のおもいなおみ難くしきりに道祖神にさわがされて霖雨りんうの晴間をうかがい草鞋わらじ脚半きゃはんよと身をつくろいつつ一個の袱包ふくさを浮世のかたみににのうて飄然ひょうぜんと大磯の客舎を
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
日照、霖雨りんう、風害には、これと戦つて勝つ機械化した農でなければならぬ。
さいわいなことに、義昭将軍はあの柔弱ですから、もはやのがれ難い窮地とわかりきっていながら、まだ自刃もせず決戦にも出ず、この霖雨りんうほり水嵩みずかさがふえたのを、いささかのたのみに、館門を
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は豊前ぶぜん小倉こくらに足掛四年いた。そのはじめの年の十月であった。六月の霖雨りんうの最中に来て借りた鍛冶町かじまちの家で、私は寂しく夏を越したが、まだその夏のなごりがどこやらに残っていて、暖い日が続いた。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
霖雨りんうと硝煙のうちに、上野の森は暮急くれいそぐ風情でした。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
(二二)霖雨りんうの節、晴れを祈る法
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
霖雨りんうの底で
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
九月になって、その学生たちが引き上げてしまうと、例年のように霖雨りんうが来て、こんどはもう出ようにも出られなかった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雲濤が海棠詩屋は狭い路地ろじの奥にあったと見える。霖雨りんうのために路のわるかった事は昔も今も変るところがない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
終日霖雨りんう。確りやれ三十六、負けるな、負けるな、元気でやれ、元気でやれ、貴様は選ばれた男だぞ忘れるな。静子よ、私の眠りを守っておくれ。(一一、八)
黄色きいろじゆくするうめ小枝こえだくるしめて蚜蟲あぶらむし滅亡めつばうしてしまほど霖雨りんうあきれもしないでつゞく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
(土)この頃の霖雨りんうで処々に崖が崩れて死傷を出した処もあるさうだ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
霖雨りんうが続いている。寒い。これで秋口に風が吹いて花をとばしたら、稲は恐らくしいなばかりになろうと案ぜられて居る。昨日石井信次から手紙が来た。今日返辞をして置いた。
いたところはたけ玉蜀黍たうもろこしあひだからもさ/\とあかいて、おほきながざわ/\とひとこゝろさわがすやうると、男女なんによむれ霖雨りんうあと繁茂はんもしたはやし下草したぐさぎすました草刈鎌くさかりがまれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)