離座敷はなれざしき)” の例文
申上げてもうそだといっておしまいなさいましょう。(半ば独言ひとりごとのように、心配らしく。)ははあ、あの離座敷はなれざしきに隠れておったわい。
平馬は鳥渡ちょっと、妙に考えたがそのまま、女にいて行った。女中は本降になった外廊下を抜けて、女竹めだけに囲まれた離座敷はなれざしきに案内した。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一晩ひとばんのお醫師いしや離座敷はなれざしきのやうなところめられますと、翌朝あけのあさ咽喉のどへもとほりません朝御飯あさごはんみました。もなくでございましたの。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
数月の後、保は高町たかまちの坂下、紺屋町西端の雑貨商江州屋ごうしゅうや速見平吉はやみへいきち離座敷はなれざしきを借りてうつった。この江州屋も今なお存しているそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『やア、ぼくいま、フアーマーをしてところだ。まアあがたまへ。あしあらふ。離座敷はなれざしき見晴みはらしがいから』ときやくこのむ。
あの日以来、七日の間、先生は暇さえあれば津国屋の離座敷はなれざしきで腕組をして考えていたが、今度ばかりはどうしても事件の核心をくことが出来ない。
草鞋が追うて来ないよう戸締を固めて私は離座敷はなれざしきへ座ったまま神経は飛出したまま、夜の明けるのを待ちました、なるほど秋の夜は長いものだと知りました。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そして一方のが、母屋で、また一方が離座敷はなれざしきになっていて、それが私の書斎兼寝室であったのだ。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「家族のものは誰も知らなかった様子です。併し、気違いは裏の離座敷はなれざしきにいたのだから、窓から出て塀をのり越せば、誰にも知られず外に出ることが出来るのですよ」
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし僕は、柿丘邸の玄関と茶の間と台所と彼の書斎と、僕が泊るときにはいつも寝床をとってもらうことになっている離座敷はなれざしきとの外には、立ち入らぬ様にきめていた。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と見れば葡萄棚ありてあたり薄暗し。娘は奥まりたる離座敷はなれざしきとも覚しき一間ひとまの障子外より押開きてづかづかと内にあがり破れしふすまより夜のもの取出とりいだしてすすけたる畳の上に敷きのべたり。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
保養ほようめに、このむすめ一人ひとり老女ろうじょ附添つきそわれて、三崎みさきとお親戚しんせきあたるものの離座敷はなれざしき引越ひっこししてまいりましたのは、それからもないことで、ここではしなくも願掛がんがけのはなしはじまるのでございます。
鉄平は戸口をつと這入はひつて、正面にある離座敷はなれざしきの雨戸を半棒はんぼうたゝきこはした。戸の破れた所からは烟が出て、火薬のにほひがした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私たち二人は、その晩、長野の町の一大構あるおおがまえの旅館の奥の、母屋おもやから板廊下を遠く隔てた離座敷はなれざしきらしい十畳の広間に泊った。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつて殿様のお鷹野たかのの時に、御休息所になったという十畳の離座敷はなれざしきは、障子が新しく張換はりかえられ、床の間に古流の松竹がけられて、びの深い重代の金屏風きんびょうぶが二枚建てまわしてある。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さいはひ美吉屋みよしやの家には、ひつじさるすみ離座敷はなれざしきがある。周囲まはり小庭こにはになつてゐて、母屋おもやとの間には、小さい戸口の附いた板塀いたべいがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「奥の離座敷はなれざしきだよ、……船の間——とおいでなすった。ああ、見晴みはらし、と言いてえが、暗くッて薩張さっぱり分らねえ。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分との事のために、離座敷はなれざしきか、座敷牢ざしきろうへでも、送られてくように思われた、後前あとさき引挟ひっぱさんだ三人のおとこの首の、兇悪なのが、たしかにその意味を語っていたわ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「待て」と、平八郎が離座敷はなれざしきの雨戸の内から叫んだ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
うら田圃たんぼを、やますそから、あかざつゑいて、畝路あぜみちづたひに、わたし心細こゝろぼそそらくもります、離座敷はなれざしきへ、のそ/\とはひつてました、ひげしろい、あかがほの、たかい、茶色ちやいろ被布ひふ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)