隠家かくれが)” の例文
旧字:隱家
そこで探偵はその夜一夜まんじりともしないで脳細胞を酷使こくしした揚句あげく、夜の明けるのを待って、稀代の怪賊烏啼天駆の隠家かくれがへ乗込んだ。
そして、人々が、騒ぎ始める時分には、椅子の中の隠家かくれがへ逃げ帰って、息をひそめて、彼等の間抜けな捜索を、見物していればよいのです。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
間の悪さは、馬蛤貝まてがいのちょうど隠家かくれが。——塩を入れると飛上るんですってねと、娘の目が、穴の上へ、ふたになって、じっのぞく。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋本氏には大工作兵衛を連れて、いかにもして彼等の隠家かくれがへ往き、自裁じさいするやうに勧めて貰ふことを頼むと云ふのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その日以来、支那式の温室は、私達に執っては何より楽しい隠家かくれがとなったのでございます。恋の隠家、接吻の場所——媾曳あいびきにわとなったのでした。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「野郎、あじな真似をやりやがったな、だがなアそんなことで己様おれさまたちの隠家かくれがへ忍びこめると思うとあてが違うぞ」
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安「てまえ馬を引いておれの隠家かくれがまで来い、あの明神山の五本杉の中に一本大きなくすのきがある、其の裏の小山がある処に、少しばかり同類を集めているんだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがて両人は小梅の隠家かくれがへ着いて、呉羽之介は客人をおのが居間へと招じ上げ、それから茶が出る酒肴が出ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あまりといへば事の意外なるにわれはこの精舎しょうじゃのいかなる訳ありてかかる浅間しき女の隠家かくれがとはなれるにや。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『おじいさま、矢張やはむかし隠家かくれがのあったところでございます。たいそう立派りっぱなおみやで、わたくしには勿体もったいのうございます。』
第一に忍び入った神秘の曲者は何者であるか? マチニョン街の隠家かくれがを知っておるものは、彼のために特殊の秘書を勤めていたジルベールのほかには無いはずだ。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
非常手段で娘を奪略しても隠家かくれがに困ることだ、そこで案内社へ随分高い金を掴ませて到頭迅雷的に彼家あのいえを買ってしまったものだ、弟と同じ家に置くのは困るからね
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
大阪で、大塩平八郎の騒動のあったとき、惣年寄そうどしよりとして火消人足を引きつれて大塩父子の隠家かくれがを取り巻き、そしてこの父子の最期さいごを見届けたという、その人である。
貫一はかの一別の後三度みたびまで彼の隠家かくれがを訪ひしかど、つねに不在に会ひて、二度に及べる消息の返書さへあらざりければ、安否の如何いかがを満枝にただせしに、変る事無く其処そこに住めりと言ふに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なんじは余の隠家かくれがとなれり、余に枕する場所なきに至て余は爾のふところれり、地に足の立つべき処なきに至て我全心は天に逍遙するに至れり、周囲の暗黒は天体をうかがうにあたって必要なるがごとく
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
少しも優れたところのない——に最後の隠家かくれがを求めたに過ぎない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それは好い隠家かくれがだ。早速そこへ船を廻して貰いたいな」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
所謂いわゆる落語と申しましては一夜限りあるいは二日続きぐらいのもの、其の内で永く続きましたのが新皿屋敷しんさらやしき下谷義賊したやぎぞく隠家かくれが、かさねヶふちの三種などでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女はその隠家かくれがから帰る時には、乱れた髪をときつけるのに、鏡の前で三十分も費すのが常であったから。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その代り、そうするには何処か人知れぬ心の隠家かくれがを求めて、時々生命いのちの洗濯をする必要を感じた。宿やどなしの乞食でさえも眠るにはなお橋の下を求めるではないか。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ようやくにしてシャートーブリヤン町の隠家かくれがに帰ったルパンは血にまみれた顔を洗って、失神した様に一時間も長椅子に横たわっていた。彼は始めて飼犬に手を咬まれた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
しかし義理がありますから、必ずこんなところ隠家かくれががあると、町へ帰っても言うのではありません、と蒼白い顔して言い聞かすうちに、駕籠かごかれて、うとうとと十四、五ちょう
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じいさんはそんなことをって、まじめに取合とりあってくださいませんので、むをずちょっと統一とういつして、のぞいてると、はたしておみや所在地しょざいちは、わたくしむかし隠家かくれがのあったところで
「さあさあ桐兵衛の隠家かくれがへ行こう」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
併し考えて見ると、幽霊男には至極ふさわしい隠家かくれがだ。彼奴こんな化物屋敷に人目を忍んで、こっそり思いもかけぬ場所へ現れては、様々の悪事を行っているのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もう是れまで来れば宜いと思うと益々雪の降る気候に向って、く事も出来ませんから、人知れず千島村ちしまむらという処へ参って、水無瀬みなせの神社の片傍かたほとり隠家かくれがに身を潜め
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
われ、凉しき隠家かくれがうちに進み入れば、果実のにおいのいかに清凉なる。思はずためらひて、耳を澄す。
しかし考えるといまいましくもあれば、また不安でもあるので、直ちにマチニョン街の隠家かくれがを畳んでしまって、こんな縁喜でもない所へまたと足をふみ入れまいと決心した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
二俣ふたまたの奥、戸室とむろふもと、岩で城をいた山寺に、兇賊きょうぞくこもると知れて、まだ邏卒らそつといった時分、捕方とりかた多人数たにんず隠家かくれがを取巻いた時、表門の真只中まっただなかへ、その親仁おやじだと言います、六尺一つの丸裸体まるはだか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが手前の改心の証拠、何うか恐入りまするが、明日みょうにち夕景、手前隠家かくれがまで御尊来下さりますれば有難いことで、申すまでもなく頭髪あたまそりこぼち、墨の法衣ころもを着て
心ゆくばかり半日を語り尽して酒亭を出でしが表通は相撲の打出し間際にて電車の雑沓はなはだしかりければ、しばしがうちとて再びわが隠家かくれがの二階にしょうじて初夜過ぐる頃までも語りつづけぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
梓は幾ほどもなく仏文の手紙を得て、この隠家かくれがを出て、再び寄宿舎の卓子テイブルにバイロンの詩集をひもどいて粛然とする身になったが、もとより可懐なつかしい天神下はますます床しいものと成りまさったのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前さんがそうしなければ気が済まんとなれば出家にでも何にでもお成りなさい、折角のお頼みだから明日みょうにち夕景までに、お前さんの隠家かくれがは知りませんが、尋ねてきましょう
新吉が敵の隠家かくれがを教えて知っているに、お前がう遣ってべん/″\と寺にいてはならん、兄さん姉さんも草葉の蔭で成仏する事が出来ないから敵を討って浮ばして呉れろと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遂に改心して、隠家かくれがを退散するというまでになり、また圖書が頼みに依って明晩竹ヶ崎の南山へ乗込んで同類を追払おっぱらって、この土地を洗い清めようという我が了簡から一部始終を詳しく話して
春部梅三郎はくだん隠家かくれがに一人で寝て居り、行灯あんどうを側へ引寄せて、いつぞややしきを出る時に引裂ひきさいたふみは、何事が書いてあったか、事に取紛れて碌々読まなかったが、と取出してなぐさみ半分に繰披くりひら
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
麹屋へ参って恥かしい身の上になりましたが、幸いに富五郎が来て、これ/\の訳と残らず自分の口から申して、一角の隠家かくれがもこれ/\と知れましたから、女ながらも富五郎は首尾能く打留うちとめたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)