跋扈ばっこ)” の例文
この食堂になると、洋服に靴が跋扈ばっこしているほど、洋食が跋扈していない。やはり日本人には祖先伝来の米の方が適しているらしい。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
漢の石申の『星経』上に句陳は大帝の王妃なりとあれば新しい女どもが跋扈ばっこするももっとも、天さえ女主に支配さるる当世だと見える。
斯くの如き奇怪なる人物が銀座街上に跋扈ばっこしていようとは、僕年五十になろうとする今日まで全く之を知る機会がなかったからである。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
フランスの人民は貴族の跋扈ばっこに疑いを起こして騒乱の端を開き、アメリカの州民は英国の成法に疑いを容れて独立の功を成したり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さうしてこれらの家元がおのおの跋扈ばっこして自分の流儀に勿体もったいを附け、容易に他人には流儀の奥秘おうひを伝授せぬなどといふ事に成つて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
まじめな聴衆の妨害になること勿論であるが、何分にも多数が騒ぎ立てるのであるから、彼等の跋扈ばっこに任せるのほかは無かった。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さァ、そうなると妖怪はますます跋扈ばっこするわけで、ガランとした空き家に夜な夜な、さまざまな不可思議な現象が繰り返された。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
蠅が真黒まっくろにたかる。のみ跋扈ばっこする。カナブン、瓜蠅うりばえ、テントウ虫、野菜につく虫は限もない。皆生命いのちだ。皆生きねばならぬのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
千里眼の方は益々ますます流行を極め、「天下その真偽に惑いかん催眠術者の徒たちまちに跋扈ばっこを極め迷信を助長し暴利をむさぼり思想界をみだる」
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
家鴨あひると雞とは随処に出没するので殆ど無数という外はなく、尚、別におびただしい野良猫共が跋扈ばっこしている由。野良猫は家畜なりや?
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そういう中でもわれわれ外部の者の眼に、やや憎らしくも思われるのは正月小屋の生活、ちょうど左義長さぎちょうをやく前後の少年の跋扈ばっこであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
敵の本拠は仕方がないとしても、然らざる所に放火して財宝をかすめ歩いたのは、全く武士以下の歩卒の所業であった。即ち足軽の跋扈ばっこである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
従って彼の神学上の意見は、依然として、今でも心の何所かに残存するのであるが、ただそれは以前の如く、心の表面に跋扈ばっこすることがない。
ほしいままに跋扈ばっこする優勝劣敗の自然力を調節し、強者を抑え弱者を助け、そこで過不及なく全人間の幸福を保証したものだ。
保守と執着と老人とが夜のふくろうのごとく跋扈ばっこして、いっさいの生命がその新らしき希望と活動とを抑制せらるる時である。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
西洋蝋燭の光は、朦朧と室内を照して、さま/″\の器物や置物の黒い影が、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこするような姿を、四方の壁へ長く大きく映して居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
硯友社はこの全体の力で常に文壇にあたったから、一時硯友社はあたかも政友会が政界に跋扈ばっこしたように文壇を壟断ろうだんして
これ世に悪人の跋扈ばっこするを神のわざなりと認めて、神をあざけりし語である。しかし真の神を嘲ったのではない、友人の称する所の神を嘲ったのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ある者は悲恋に泣き、ある者は危険なる侠気に身を溺らせ、またある者は悪念の爪をといでほしいままに跳梁跋扈ばっこする。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
思えば思うほど考えは遠くへ走って、それでなくてもなかなか強い想像力がひとしお跋扈ばっこを極めて判断力をもいた。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
社会の全隅に跋扈ばっこする間は、いかに博愛の説教をなすも、あたかも道傍の石地蔵尊に向かって講談を試むるがごとく
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
請願者を獄に下し、請願の事件は放棄し、被害人は獄に下し、加害人は跋扈ばっこせしめ、而も請願事項は其の儘放棄せり
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
忌嫌いみきらう間違ッた人もあろうけれど一日でも此巴里ぱりに探偵が無かッて見るが好い悪人が跋扈ばっこして巴里中の人は落々おち/\眠る事も出来ぬからさ、私は探偵の職業を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
自分一人では勿論もちろん何事も出来ずまたその勇気もない実に情ない事であるがいよいよ外国人が手を出して跋扈ばっこ乱暴というときには自分は何とかしてそのわざわい
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
そうしてどこにも個性の跋扈ばっこがないからである。そこには自由の美に対して秩序の美があるからである。そこには正しい伝統が守られているからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼等が跋扈ばっこするのだ……本当の勇者が一人出づれば一国がおこる、というようなところまで考えさせられました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人民の幸福を増進すると共に賄賂わいろ公行、盗賊跋扈ばっこというが如き悪俗から脱却することが出来れば、其処そこで初めて国運を復活せしむることが出来るであろう。
金力の跋扈ばっこ、ことに下等獣類に等しき工夫共の手により質朴なる田舎に撤かるる悪銭は、実に慨嘆に堪えぬ。
社会主義の跋扈ばっこだとか、科学の発達から当然に起った農村人の都会化だとか、神神の紛失だとか、歴史家の見方は、それぞれ違った理由を述べたてていたが
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
中にも第三の点は最も肝要であって、この点が明白でないと、往々にして腐敗手段の跋扈ばっこを来すことになる。
胃腸跋扈ばっこして腹中の天地を横領するかなアハハ、時にその大原君はどうしているか、そろそろ出掛けてみよう
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鎌倉時代、室町むろまちのころにかけては、さびと渋味を加味し、前代末の、無情を観じた風情ふぜいをも残し、武家跋扈ばっこより来る、女性の、深き執着と、あきらめをふくんでいる。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いや悪吏は跋扈ばっこしているが良吏だっているにはいるのだ。君に一点の耿心こうしんさえあればいつか天のおたすけもあろう。悪い治世もそうそう長くは続くまいからな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々国民は官僚政治や軍国主義や資本家の跋扈ばっこする現在の経済状態に対して、内心から痛切なる嫌厭と不満足とを感ずる。だから、それを改めようとするのである。
陳言套語 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
これは大阪は商人が経済界及び社会上の主位を占めて居り、官吏や貴族の跋扈ばっこを許さざるゆえである。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
……まあ、これもご時世とあればああいうものの跋扈ばっこするのも、仕方ないとは云われましょうがな。全く変なご時世でござる。流行はやり唄などにもうたわれております。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪人のほうも極度に跋扈ばっこし、伊豆守のほうでもまた、極度に弾圧取り締まりに力をつくした時代で、ご府内すなわち江戸市中に浪人の潜入し、跋扈するのを防ぐために
メリヤスの投売りなどの跋扈ばっこ時代となり、市区改正や交通整理で縁日も追い追いに邪魔もの扱い。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
社会民政党の跋扈ばっこしている時代になっても、ウィルヘルム第二世は護衛兵も連れずに、侍従武官と自動車に相乗をして、ぷっぷと喇叭らっぱを吹かせてベルリン中を駈け歩いて
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
他人を処罰する思想からは強食弱肉の半獣世界が引出され、軍国主義や特権主義が跋扈ばっこして、平等と自由と愛とに確保された人類の平和というものが期待されなくなります。
新婦人協会の請願運動 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
人を化かすきつねたぬき、その他種々さまざまな迷信はあたりに暗く跋扈ばっこしていた。そういう中で、半蔵が人の子を教えることを思い立ったのは、まだ彼が未熟な十六歳のころからである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
即ち、明治の末期より、大正、そして現在へかけての自然主義文学の輸入、跋扈ばっこ、従って極端なる、異常事件の軽蔑、興味の否定、そのために、日本の文芸は畸形きけい的発達を遂げた。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
外聞によって動くような臆病な大将の下では、軽佻な、腹のすわらぬ人物が跋扈ばっこする。
砂糖や「味の素」類品の跋扈ばっこに拍車をかけているのは、料理する者の無定見である。
持ち味を生かす (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
略奪者たる大貴族の跋扈ばっこした幾世紀かが、一民族の中に、たとえば猛禽もうきん倨傲きょごう貪欲どんよくな面影を刻み込むときには、その地金は変化することがあっても、印刻はそのまま残るものである。
小説のなかにただそういう性格が実際生活の中でと同様に跋扈ばっこするという現象と
富といきおいと得意と満足の跋扈ばっこする所は東西きゅうきわめて高柳君には敵地である。高柳君はアーチの下に立つ新しき夫婦を十歩の遠きに見て、これがわが友であるとはたしかに思わなかった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくのごときは財産の権利を享有きょうゆうしながら、その義務を負担しないというものである。とみ跋扈ばっこするというと、いつも米国を例にとるが、いずくんぞ知らん日本にもその例にとぼしからぬを。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
昔はシナ人はチベットにおいては非常に勢力のあったもので、大抵な無理をいってもチベット国民は盲従して居るという有様でしたから、シナ人の跋扈ばっこというものは非常であったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そんな昆虫が跋扈ばっこしてゆっくり寝られないような家は決して富裕と呼べない。して見ると、朝起が人を富裕ならしめるのでなくて、元来富裕でないから朝起をして丸山へ登る勘定になる。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)