はし)” の例文
今のやうに作家が社会的な低い標準に向つてはしつてゐる時代には、とても優れた作を期待することは不可能である。何うも為方がない。
野の花を (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
〔譯〕民のに因つて以て之をげきし、民のよくに因つて以て之をはしらさば、則ち民其の生をわすれて其の死をいたさん。是れ以て一せんす可し。
羅馬は栄華の極盛に達し国民は相次いで華美逸楽へとはしった結果、当初の剛健勇武なる民は国を挙げて文雅懦弱だじゃくな国民となり
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夫人は驚いてかごに乗ってゆき、かぎけて亭に入った。小翠ははしっていって迎えた。夫人は小翠の手をって涙を流し、つとめて前のあやまちを謝した。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「越前、かつて人を罰したことはない。人の罪を罰する。いや、人をして罪にはしらしめた世を罰する——日夜かくありたいと神明に祈っておる」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しんあまねくし衆を和するも、つねここおいてし、わざわいを造りはいをおこすも、つねここに於てす、其あくに懲り、以て善にはしり、其儀をつつしむをたっとぶ、といえり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
従つて全体性、具体性を失い理論は現実より遊離して誤った傾向にはしる。ここに個人主義自由主義乃至その発展たる種々の思想の根本的過誤がある。
社会時評 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
而して時に感情にはしらんとする、及びクロポトキンの主張の特に道義的モオラルな色彩を有する、それらは皆、彼等のおの/\の屬する國民——獨逸人、佛蘭西人
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一たん求道の志を捨てて享楽にはしってみたものの現実に全面的に惑溺わくできすることが出来なかったのを見ても察せられる。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
はしりて場を出づれば、月光あまねく照して一塵動かず、古の劇場の石壁石柱は巋然きぜんとして、今のれ小屋のあなたに存じ、廣大なる黒影を地上に印せり。
彼のやうに文学なら、何物でもとり入れると謂つた素質からは、恐らく新古今などに直にはしるべき筈であつた。
橘曙覧評伝 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
その上に一家の事情が纏綿てんめんして、三方四方が塞がったから仕方がなしに文学にはしったので、初一念しょいちねんの国士の大望は決して衰えたのでも鈍ったのでもなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
今日の日本知識人は西洋人以上に功利主義にはしり、日本固有の道徳を放棄し、しかも西洋の社会道徳の体得すらも無く道徳的に最も危険なる状態にあるのではないか。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
此処ここにて「しばらく」といふはやや久しきことを言へり。これは素人好しろうとずきのする句なれども深き味のなき句なり。けだし実景を写さずして理想にはしりたるがためならん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さすがの英国でも、ゼー・エチ・スミス氏の言ったごとく、だいたいは同じ方向にはしりつつある。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
伊太利イタリイ西班牙スペイン印度インド埃及エヂプト、支那、日本のどの室にも縦覧客が満ちて居る。自国を過重くわぢゆうして異邦を毛嫌ひしたり、新しい作品にばかはしつて前代を蔑視すると云ふ風が無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
社会的現実から逃避したロマンティックな傾きにはしらざるを得なかった事情も肯ける。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
徳川幕府の末造ばつざうに当つて、天下の言論は尊王と佐幕とに分かれた。いやしくも気節を重んずるものは皆尊王にはしつた。其時尊王には攘夷じやういが附帯し、佐幕には開国が附帯して唱道せられてゐた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
不正が公行している事も、或は清朝の末年よりも、一層おびただしいと云えるかも知れない。学問芸術の方面になれば、猶更なおさら沈滞は甚しいようである。しかし支那の国民は、元来極端にはしる事をしない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少年は孔生を見るとはしってきてお辞儀をした。孔生もお辞儀をして
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
由来、学者の所説は常に社会の進歩に先だってはしるものである。彼の法律制度改正案は無慮幾百であったが、彼が八十五歳の長寿を保ったに係らず、その生前に行われたものは比較的少数であった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
陳亢ちんこう伯魚はくぎょに問いて曰く、子も亦異聞あるかと。対えて曰く、未だし。嘗て独り立てり。はしりて庭を過ぐ。曰く、詩を学びたるかと。対えて曰く、未だしと。詩を学ばずんば、以て言うことなしと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いたずらに新にはしるも不可なれば、徒に旧になずむるまた不可である。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
押していったわ、白木屋の前に来なかったら、ただじゃ置かないと、省線に張り込んでいるからそう思えと言ったわ、あたい、下車するとバスの停留場まではしったわ、うしろ向くとつかまえられると思ってがたがた趨った。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
旗を挙げけつはしるの首魁と為らんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
尋常一様詩詞ししの人の、綺麗きれい自ら喜び、藻絵そうかい自らてらい、しこうして其の本旨正道を逸し邪路にはしるを忘るゝが如きは、希直きちょくの断じて取らざるところなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その弟は、学校を出て船に努めるようになり、乗船中、海の色の恍惚こうこつかれて、海の底にはしった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
南洲及び木戸公等のさく、民のよくに因つて之をはしらしたればなり。是を以て破竹はちくいきほひありたり。
『我楽多文庫』の基礎がマダ固まらないうちに美妙が『都之花』にはしって別に一旗幟きしを建て
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
世間は名利にはし煩悩ぼんのうに苦しめられ、掌大しょうだいの土地の上に気違ひの如く狂ひまはるを、歌人はひとりこれを余所よそに見て花に遊び月にたわむれ、無限の天地に清浄の空気を吸ひをるなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この年少の身で自分一身の趣味にはしることも許されず、ひたすら国家国民の隆昌にのみ心を砕いていられる少年太子の身の上が、何とも言えず私には痛ましく感じられたのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
我ははしりて姫の前に出で、白く細き右手に接吻せり。姫はアントニオと我名を呼び掛け給ひしが、流石にしばし口籠くごもりて、世にさちある人となり給へ、さらばとて、我額に接吻し給ふ。
離別以来幾旬日いくじゅんじつ、坤竜を慕って孤愁こしゅうき、人血に飽いてきた夜泣きの刀の片割れ——人をして悲劇にはしらせ、邪望をそそってやまない乾雲丸が、ここにはじめて丹下左膳の手を離れたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すなわち令を下して曰く、北せんとする者は左せよ、北せざらんとする者は右せよと。諸将多く左にはしる。王おおいに怒って曰く、公等みずから之をせと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういうところへ来ると空気はひやりとして、右側にはしっている瀬川の音が急に音を高めて来る。何とも知れない鳥の声が、瀬戸物の破片を擦り合すような鋭い叫声を立てている。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
場合によっては是の如きは魔境にちたものとして弾呵だんかしてある経文もあるが、保胤のは慈念や悲念がたかぶって、それによって非違にはしるに至ったのでも何でもないから
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)