かたき)” の例文
ただあらゆる浮浪人のようにどこかへ姿を隠してしまったのである。伝吉は勿論落胆らくたんした。一時は「神ほとけもかたきの上を守らせ給うか」
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「黙って聞け佐の市、鍼は禁断の死針ではないが、盲の其方が、妹と心を合せて、親のかたきを討ったのは殊勝な心掛け、褒めつかわすぞ」
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
踏み殺し、せめてはその首将たる黄忠の首でも挙げねば魏公に申しわけがない。さなくとも彼黄忠は、夏侯淵のかたき、討ちもらすな
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『もしそれが本当だとしたら、武雄さんは綾子さんに取ってかたきの片割じゃありませんか。無論綾子さんは御存じないんでしょうけれど——』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
と言ひさして、浜子を見やれば、浜子はなまめかしく仰ぎ見つ、「御前ごぜん、あのわたしのこと悪口書いた新聞でせう、御前、何卒どうぞかたきつて下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
卒業したら、その日から、(私も掏摸かい、見て頂戴。)と、貴下の二階に居てかたきを取ってやりたかったに、残念だわねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梅子はなんとかして、はなし其所そこへ持つて行かうとした。代助には、それがあきらかに見えた。だから、なほそらとぼけてかたきを取つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「私は、この南村なんそんに住んでいる、鄭宰相のひとの宣揚と云う者でございますが、今日こんにち貴君あなたかたきを打ってもらいましたから、お礼にあがりました」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二十七にはなつても世間不見みずのあの雅之、うも能うもおのれはだましたな! さあ、さあさかたきを討つから立合ひなさい
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いいや、旦那にそのかたきを討って貰うんです! どうやら気ッ腑のうれしい旦那のようだから討って貰うんです。だから太夫、話してやっておくんなせえまし。
かたきと狙う野本氏は見事に北川氏の術中に陥って、彼の目の前に、あさましい苦悶の姿をさらしたのであった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、にんじんが、いつもの調子であきらめていても、髪の毛は、いつの間にか、彼のかたきを打っている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
どないして復讐ふくしゅうしてやろか、どんな事あってもきっとこのかたき取ってやる、と、思うと同時にかッとなって
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
丈助は得意の侫弁ねいべんを以て、是からお前さんと共に忠義を尽しましょう、若旦那さまがお帰りになりましたらば、石川さまと旦那さまのかたきを探してあだを報いますよう
今その一例を示さば、人もし「なんじはいずこより来たりしか」と問わば、彼はまさに、「前日、某件にてわが主人を苦しめしゆえ、主命に従い、そのかたきを報ぜんため来たりしなり」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「……ス……済みませんが……僕に……みんなの……か……かたきを取らして下さい……」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
帰って母様にそう言って、このかたきを取ってもらいます。綱雄さんと私は奥村さんに見かえられました。私はもうこの間こしらえていただいた友禅もあの金簪きんかんも、帯も指環もなんにもいりませぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
左様ならと清吉は自己おのが仕事におもむきける、後はひとりで物思ひ、戸外おもてでは無心の児童こども達が独楽戦こまあての遊びに声〻喧しく、一人殺しぢや二人殺しぢや、醜態ざまを見よかたきをとつたぞとわめきちらす。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その二人の男は、ブレシントンをかたきとねらってる男に相違ない、とね。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
「父重昌のかたきを報ぜん為に来た。四郎時貞出でて戦え」と大呼した。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
呉の末臨海の人山に入って猟し夜になって野宿すると身長みのたけ一丈で黄衣白帯した人来て我明日かたきと戦うから助けくれたら礼をしようというたので、何の礼物に及びましょう必ず助けましょうというと
仏教ほど敵やかたきの効能を説く教えは他にありません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「陳君! か、かたきは討ってやるぞ。しっかりしろ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
「深夜の市長」のかたきうちだ。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこでもいけなければ都へ行って、おそれながらと、大官のお輿こし直訴じきそしてでも、このかたきはきっと取ってみせずにおくもんか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トロイと希臘ギリシャと戦争をした時、ヘクトーはついにアキリスのために打たれた。アキリスはヘクトーに殺された自分の友達のかたきを取ったのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴方は今日こんにち無用の財をたくはへる為に、人の怨を受けたり、世にそしられたり、さうして現在の親子がかたきのやうになつて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「左様でございます。山谷さんやの正伝寺に父親の墓があります。かたきを討った弟は、そこへ行ったに相違ございません」
彼は朝から一発も放さないでじりじりしている時であったから、かたきにでも出会ったようにいきなりつつの口火へ火縄をさした。と、何かに弾のあたった音がした。
猫の踊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうか、じゃあ、お前はやっぱり、俺を夫のかたきだと思っているのだな。菰田家のあだと思っているのだな。千代子、よく聞くがいい。俺はお前がこの上もなく可愛い。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あるいは立ち木をかたきと呼び、あるいは岩を平四郎と名づけ」、一心に練磨れんまを積んだのである。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「後生だからよしておくれ」——彼女は言う——「かたきを討つつもりだろうが、そんなにあたしをいじめないでおくれ。あたしゃ、これでいいかげん苦しんでるんだからね」
飼馬が馬小屋から飛出して丹三郎に噛み附き、おえいも丹三郎の様子を案じて其処そこく所を馬が噛み附き、両人とも馬に噛殺かみころされ、お前のかたきを馬が討ったようなもので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やッつけろ。やッつけろ。構わねえからやッつけろ。どこのどやつだか知らねえが、邪魔ひろぐ奴アみなおいらのかたきだ。のめせ! のめせ! 構わねえから叩きのめせ!」
さようならと清吉は自己おのが仕事におもむきける、後はひとりで物思い、戸外おもてでは無心の児童こどもたちが独楽戦こまあての遊びに声々かしましく、一人殺しじゃ二人殺しじゃ、醜態ざまを見よかたきをとったぞとわめきちらす。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうかしてその鼓を打って見たい。そうしてそのような人を呪うような音色でなく当り前の愉快な調子を打ち出して、若先生のかたきを取りたいものだと思っている矢先へ伯母が私を呼び寄せたのです。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「叩いてやりますとも、三毛の病気になったのも全くあいつの御蔭に相違ございませんもの、きっとかたきをとってやります」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このたびはあるじかたきたる敵の討伐に向うのであるから、三日のうちに攻めのぼって、光秀とじきの太刀打ちをいたすであろう。そう伝言しておいてくれ
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたきを討つためでございましょう。升屋の先代を殺した下手人に怨みがあって、それに思い知らせるため——」
「憎い奴は伊右衛門じゃ、まあ気を落とさずに時節を待つがいい、きっと俺がかたきを打ってやる」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
是れは何も馬が多助のかたきを取ったという訳ではございません、馬は鼻の先へ閃めくはものの光りに驚いてね出し、おえいを引倒し丹三郎を噛殺すような訳になるも天のにくしみで
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「農家義人伝」はこの変化を「まじわり博徒ばくとに求む、けだかたきの所在を知らんと欲する也」
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
往日いつぞやもお話致しましたが、金力で無理に私を奪つて、遂にこんな体にして了つた、謂はば私のかたきも同然なので。成程人は夫婦とも申しませうが私の気では何とも思つてをりは致しません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「見さげ果た奴じゃ。仮りにも旗本と言われたほどの幕臣が、かたき同然な奴の米を貰うて喰って、骨なしにもほどがあると、みんなも憤慨していたぞ。——あんな奴のところにおったら面白いのか」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
言はれて見れば其の通りであるから、貞盛も吾が女房の兄弟の仇、言はず語らずの父のかたきであるから、心得た、と言切つた。姉妹三人の夫たる叔父甥三人は、良兼を大将にして下野しもつけを指して出発した。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その化けの皮を引んいてくれる。吾が児のかたき覚悟しろ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
二人は生れながらのかたき同志だった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「しかし、かえって、それをよいしおに、ほんとに呉へ降って、味方の不利を計りはしまいか。予を、叔父のかたきと恨んで」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕の翻訳している名文と云うのは第二読本のうちにあると云う事さ」「冗談じょうだんじゃない。孔雀の舌のかたききわどいところで討とうと云う寸法なんだろう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お兄様、面目ない、——私はお前の妹のお元、悪人の手に誘拐かどわかされて、心にも無い妾奉公、親のかたきとも知らずに此奴こやつに身を任せました、兄上様許して——」
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)