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耽溺
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たんでき
ふりがな文庫
“
耽溺
(
たんでき
)” の例文
近き頃
森田草平
(
もりたそうへい
)
が『
煤煙
(
ばいえん
)
』
小粟風葉
(
おぐりふうよう
)
が『
耽溺
(
たんでき
)
』なぞ殊の外世に迎へられしよりこの
体
(
てい
)
を取れる名篇
佳什
(
かじゅう
)
漸く数ふるに
遑
(
いとま
)
なからんとす。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
また
放蕩
(
ほうとう
)
にふけっている者も同じことで、
耽溺
(
たんでき
)
しているあいだは『論語』をもっても『
法華経
(
ほけきょう
)
』をもってもなかなか浮かびきれない。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
ファロー(指定の骨牌一組のうちから出て来る順序を当てる一種の賭け骨牌)に
耽溺
(
たんでき
)
せんがために、みなその部屋に集まって来た。
世界怪談名作集:03 スペードの女王
(新字新仮名)
/
アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
(著)
その前年かに、泡鳴は小説「
耽溺
(
たんでき
)
」を『新小説』に書いている。自然主義の波は
澎湃
(
ほうはい
)
として、
田山花袋
(
たやまかたい
)
の「
蒲団
(
ふとん
)
」が現れた時でもあった。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
涅槃へ行くには二つの
偏
(
かたよ
)
った道を避けねばならぬ。その一つは快楽に
耽溺
(
たんでき
)
する道であり、他の一つは苦行に没頭する道である。この苦楽の二辺を
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
▼ もっと見る
耽溺
(
たんでき
)
、痴乱、
迷妄
(
めいもう
)
の余り、夢とも
現
(
うつつ
)
ともなく、「おれの
葬礼
(
とむらい
)
はいつ出る。」と云って、無理心中かと、
遊女
(
おいらん
)
を驚かし、二階中を騒がせた男がある。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ところがただそれだけでなく、今度は逆に、歌の新しい趣向を考えることの禁止がつよく述べられ、和歌的な雰囲気へ
耽溺
(
たんでき
)
することが要求される。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
金銭の余裕があるべくもない者の身で、ちょいちょい
耽溺
(
たんでき
)
を試みたり、兵馬の旅費までも
綺麗
(
きれい
)
に立替えたりしてくれる。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
いつの世の中にも多い
耽溺
(
たんでき
)
主義者だの、刹那主義的な人間も、信長の
謡
(
うた
)
った「——人生五十年、
化転
(
けてん
)
の夢にくらぶれば」
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遂に力寿が非常に
美
(
よ
)
い女だということが定基
耽溺
(
たんでき
)
の基だというのに考えが触れて、美色ということに
鉾
(
ほこ
)
が向いたろう。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
また全くそうでない人に限って古代史をいたずらに
弄
(
もてあそ
)
ぶことに
耽溺
(
たんでき
)
するのだから、タンテイの方法がトンチンカンで目も当てられないのは当然の話だ。
歴史探偵方法論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
私はその声に推し進められて行く。その旅路は長い
耽溺
(
たんでき
)
の過去を持った私を寂しく思わせないではない。然しそれにもかかわらず私は行かざるを得ない。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
自己
耽溺
(
たんでき
)
で、対人・対世間関係の理解において(のし出す・のし出さない、認められる・られない、について)俗的面と、弱さから来る妻や友人への
僻
(
ひが
)
み
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
彼がこのごろ恐ろしく不安な『
遊蕩
(
ゆうとう
)
』生活に
耽溺
(
たんでき
)
していることも、また
曖昧
(
あいまい
)
な金のことで父親と喧嘩をして、非常にいらいらした気持になっていることも
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
あるいは正太がこの隠れた場処で、父の
耽溺
(
たんでき
)
の歴史を読みかけて置いたものではなかろうか、と
想
(
おも
)
ってみた。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
北原白秋氏、長田秀雄氏、木下杢太郎氏などとさかんに往来してかなり
烈
(
はげ
)
しい
所謂
(
いわゆる
)
耽溺
(
たんでき
)
生活に陥っていた。
智恵子の半生
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
おそらく、これは彼の身うちに巣食っていた悪魔の所業か、そうでなければ、あまりにも魔界の美に
耽溺
(
たんでき
)
した彼に対する、神の怒りででもあったのでしょうか。
鏡地獄
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
机の上にはやりかけの写本がある、擬古体のごく
嬌
(
なま
)
めかしい戯作で、室町時代の
豪奢
(
ごうしゃ
)
な貴族生活、特に銀閣寺将軍の情事に
耽溺
(
たんでき
)
するありさまが主題になっていた。
七日七夜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ところが、その国民は極端に平和的な趣味を愛好した結果、崑崙茶の風味に
耽溺
(
たんでき
)
し過ぎたので、スッカリ気力を
喪
(
うしな
)
って
野蛮人
(
やばんじん
)
に亡ぼされて
終
(
しま
)
ったものだそうです。
狂人は笑う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ある者は茶器の世界に
耽溺
(
たんでき
)
する。ある者は欧風の讃美に
尽瘁
(
じんすい
)
する。ある者は科学的工夫に傾倒する。ある者は技巧をこれ美とし、ある者は
刺戟
(
しげき
)
をこれ表現とする。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
緑雨の
耽溺
(
たんでき
)
方面の消息は余り知らぬから、あるいはその頃から案外コソコソ遊んでいたかも知れないが、
左
(
と
)
に
右
(
か
)
く表面は頗る
真面目
(
まじめ
)
で、目に立つような遊びは一切慎しみ
斎藤緑雨
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
耽溺
(
たんでき
)
と信心との別れ道はきわどいところにある。まっすぐに行くのと、ごまかすのとの相違だ。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
それから直接に官能に訴える人巧的な刺激を除くと、この巣の方が
遥
(
はる
)
かに意義があるように思われるんだから、四辺の空気に快よく
耽溺
(
たんでき
)
する事ができないで迷っちまいます。
虚子君へ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「自分が
耽溺
(
たんでき
)
しているからだ」と、呼号するものがあるようだ。またどこか深いところから
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
その中でも、藤村は啓蒙に心を傾け、花袋は
耽溺
(
たんでき
)
に生を享楽する。それぞれのちがいはある。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
幸か不幸か中学時代から
淫靡
(
いんび
)
な文学に
耽溺
(
たんでき
)
して居た御蔭で芸が身を助くるとでも
謂
(
い
)
うのでありましょうか⦅玉ノ井繁昌記⦆とか⦅レヴュウ・ガァルの悲哀⦆とか云う低級なエロ読物を
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
幻燈に似た流行を
耽溺
(
たんでき
)
するプチ・ブルジョワの一群と、実生活から
畸型
(
きけい
)
的に形成されたブルジョワ末期の社会に発生したプロレタリア精神の出現を、繁雑な社会主義理論闘争から逃れて
恋の一杯売
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
そこのカフェー生活に
耽溺
(
たんでき
)
したことのある大尉は、最初の一杯を飲み干すと
ゼラール中尉
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
この点は本式の連歌も同じことで、あれほど豊富に精確な記録が保存せられているにもかかわらず、今読んでみただけではそれに
携
(
たずさ
)
わった人たちの、あの執心と
耽溺
(
たんでき
)
とは想像し得られない。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
馬琴物
(
ばきんもの
)
から
雪中梅型
(
せっちゅうばいがた
)
のガラクタ小説に
耽溺
(
たんでき
)
して居た余に、「
浮雲
(
うきぐも
)
」は何たる
驚駭
(
おどろき
)
であったろう。余ははじめて人間の
解剖室
(
かいぼうしつ
)
に引ずり込まれたかの如く、メスの様な其
筆尖
(
ふでさき
)
が唯恐ろしかった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
なんという
耽溺
(
たんでき
)
だったろう! 時としては、書物を読む時その文字の意味を理解するために、一音一音口の中で言ってみなければ承知しない人のように、彼女の
唇
(
くちびる
)
の動くのが見えることもあった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
僕がもし仏教秘密文学の
耽溺
(
たんでき
)
者だとしたら、毎夜この墓𥥔では、眼に見えない符号呪術の火が
焚
(
た
)
かれていて、黒死館の櫓楼の上を
彷徨
(
ほうこう
)
する、黒い陰風がある——と結論しなければならないだろう。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
劇場主は
耽溺
(
たんでき
)
生活へ
引摺
(
ひきず
)
り込んで、明るく愉快な作品を書かせることに専念し、妻のコンスタンツェはまた、子供と一緒に転地して夫のモーツァルトに限りなき浪費の財源を要求してやまなかった。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
飛びもあへなく
耽溺
(
たんでき
)
のくるひにぞ入る。
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
到るところの
花柳
(
かりゅう
)
の
巷
(
ちまた
)
というところで、自分もこのだらしない
雰囲気
(
ふんいき
)
の中に、だらしない相手と、カンカン日の昇るのを忘れて
耽溺
(
たんでき
)
していた経験を
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼が
希
(
ねが
)
ったのは、夢想し
耽溺
(
たんでき
)
することの快楽を、
恍惚
(
こうこつ
)
として実践する風流人の生活、当時の言葉でいうところの
数寄者
(
すきもの
)
の生活ではない。正反対である。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
北原白秋氏、長田秀雄氏、木下
杢太郎
(
もくたろう
)
氏などとさかんに往来してかなり烈しい所謂
耽溺
(
たんでき
)
生活に陥つてゐた。
智恵子抄
(新字旧仮名)
/
高村光太郎
(著)
ここは当時の出合茶屋を兼ねた遊び風呂で、四、五日前から、そこに
耽溺
(
たんでき
)
している新九郎は、屏風囲いのむッとするような酒の香の中に独りで杯をあげていた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
歓楽に
耽溺
(
たんでき
)
しやすい、従っていつでも現在をいちばん楽しく過ごすのを生まれながら本能としている葉子は、こんな
有頂天
(
うちょうてん
)
な
境界
(
きょうがい
)
から一歩でも踏み出す事を極端に憎んだ。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
だがもし肝心の一物が掴めていないなら、私たちは新しい文化を誇ってはいられないのである。丁度古い時代に
耽溺
(
たんでき
)
してはならないのと同じである。日田の皿山はまさに現代の反律である。
日田の皿山
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
見様見真似に「茶精」の味ばかりに
耽溺
(
たんでき
)
して、アッタラ青春を萎縮させてしまう青年少女も居るといった調子ですが、今そこに寝ている支那留学生は、たしかにその一人に相違ないのです。
狂人は笑う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「生活というものはなにかを生みだすものだと信じている、そこもとたちの暮しは生活とはいえない、これは
耽溺
(
たんでき
)
だ、なにものをも生まず、働かず、快楽に溺れて恥じないのは
禽獣
(
きんじゅう
)
に等しい」
葦
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そこに可なりの天体観測鏡を
据
(
す
)
えつけ、星の世界に
耽溺
(
たんでき
)
することでした。
鏡地獄
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
が、雄吉の陶酔と感激——人生の本当のものに対する感激ではなくして、人生の虚偽に対する危険なる感激——とに
耽溺
(
たんでき
)
している彼には、そうした良心の声は、ほとんどなんの力さえなかった。
青木の出京
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
仙さんは
多少
(
たしょう
)
富裕
(
ゆたか
)
な家の息子の果であろう。乞食になっても
権高
(
けんだか
)
で、中々吾儘である。
五分苅頭
(
ごぶがりあたま
)
の
面桶顔
(
めんつうがお
)
、柴栗を押つけた様な鼻と鼻にかゝる声が、昔の
耽溺
(
たんでき
)
を語って居る。仙さんは自愛家である。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
嗜
(
たしな
)
み変異に
耽溺
(
たんでき
)
する、君の領域じゃないか
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それより悪行が面白くなり、辻斬をしては金を奪い、その金で鎌倉河岸の風呂屋女に
耽溺
(
たんでき
)
していたが、その悪事が師なる宮本武蔵の耳に入って破門された。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
縦令
(
たとい
)
道徳がそれを自己
耽溺
(
たんでき
)
と
罵
(
ののし
)
らば罵れ、私は自己に対するこの
哀憐
(
あいれん
)
の情を失うに忍びない。孤独な者は自分の
掌
(
てのひら
)
を見つめることにすら、熱い涙をさそわれるのではないか。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
まだその時代には、
耽溺
(
たんでき
)
という字がなかった。だが、そんな
按配
(
あんばい
)
が二人の今の気持だろう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしながら古典に
耽溺
(
たんでき
)
するというよりも、自分をささやくことに、一層の親しみと、避けがたい宿命とを見せているような点で、人としては俊成と
対蹠的
(
たいしょてき
)
であったといってよい。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
“耽溺”の意味
《名詞》
耽溺(たんでき)
ある不健全な娯楽にふけって、日常生活などをないがしろにする事
(出典:Wiktionary)
耽
漢検準1級
部首:⽿
10画
溺
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“耽溺”で始まる語句
耽溺家