絨毯じゅうたん)” の例文
そして白い熊苺の花は、既にかやの葉にこぼれかけていた。無理に一言の形容を求めれば、緑の地に花を散らした大きな絨毯じゅうたんであった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その広い座敷がただ一枚の絨毯じゅうたんで敷きつめられて、四角よすみだけがわずかばかりはなやかな織物の色とうために、薄暗く光っている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
曲者くせものは二、三歩進みました。寝台の下の美しい絨毯じゅうたんを踏んで、用意した短刀を振り冠ると、目の前でキラリと光ったものがあります。
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
被告はきっと階段の下のところにいるものと思われたが、階段のいちばん上の、黄色の絨毯じゅうたんを敷いた一段目までは絵の上に出ていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
安ものの青い絨毯じゅうたんが敷かれて、簡素な卓子テイブル椅子いすが並んでおり、がっちりした大きな化粧台の上に、幾つかの洋酒のびんも並んでいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一匹の毒蛇が悠々と絨毯じゅうたんの上をっていた。その毒蛇の首には紙片が結びつけてあって、それには次のような文字がしたためてあった。
余り広くはないけれど、壁紙、窓かけ、絨毯じゅうたんなどの色合いろあいや調度の配列に細かい注意が行届いていて、かなり居心地のよい部屋であった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妙子が観劇の衣裳いしょうのままで羽織も脱がずに、絨毯じゅうたんの上に新聞紙を敷いて横倒しにすわったなり安楽椅子にもたれかかっているのを見
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「鏡はご注意なすったでしょうね、板とガラスとのあいだを。また寝台や寝具はお探りになったでしょうね。それからカーテンや絨毯じゅうたんも」
縁を広く、張出しを深く取った、古風で落着いただけに、十畳へ敷詰めた絨毯じゅうたんの模様も、谷へ落葉を積んだように見えて薄暗い。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これらの廊下には、高価な暗緑色のペルシャ絨毯じゅうたんが敷き詰められて、諸所に長椅子ソーファ棕櫚しゅろや、龍舌蘭等の熱帯樹の植木鉢が飾られてある。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
室内の調度そのものも、大きなデスクを置き、椅子を並べ、絨毯じゅうたんを敷いて、この日の本の国の建築の間取座敷とは、てんで感じを異にする。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家具はむかしの重くて荷厄介になりそうなものだったが、現代の便利なものもいくつか加えられていて、かしの木の床には絨毯じゅうたんが敷いてあった。
畳の上に絨毯じゅうたんをしき、坐って使う大テーブルを中央に据えてあるその部屋は、半分が洋風で片隅に深紅色のタイルをはった煖炉がきってあった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「お父様、私あなたのお部屋へやでは大変寒うございますわ。なぜここに絨毯じゅうたんを敷いたりストーブを据えたりなさらないの。」
黎明来ると共に暗黒の悪者どもはたちまち姿を消す、そのさまあたかも絨毯じゅうたんの四隅を取らえてこれよりちりを払い退けるが如くであるというのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
隣室には、ヤアギチが何か考え事をしていると見えて、軽く拍車を鳴らせながら、絨毯じゅうたんの上を行ったり来たりしていた。
目は絨毯じゅうたんだけをみつめ、だが、私はそこに何の考えも眺めていたのではなかった。……私は、せまい部屋の中を、さっきから歩きつづけていたのだ。
ロンリー・マン (新字新仮名) / 山川方夫(著)
頬に絨毯じゅうたんのあとをつけ、寒そうにヒクヒクと身体をふるわせている。額に手をあてて見ると、これも、ひどい熱だった。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
天井は全面が摺硝子すりガラスになっていて、白昼電燈が適当な柔かさをもって輝いてい、床には、ふかふかと足を吸込む豪奢ごうしゃ絨毯じゅうたんが敷きつめられてあった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
もとよりゴブランではないが、大層もない外国輸入の絨毯じゅうたんがその十畳の間に敷きつめてあった。田舎出の役人の家としてはちと出来すぎたようである。
広さの割合に窓が少なく、へやの周囲は鉛の壁になっていて、床の混凝土たたきの上には、昨夜の集会だけに使ったものと見え、安手の絨毯じゅうたんが敷かれてあった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一九一一年の初夏のことで、ロシアの国境を後にあの辺へさしかかると、車窓の両側に広大な緑色の絨毯じゅうたんが展開される。風は草木の香を吹き込んでこころよい。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
曲者は、絨毯じゅうたんをつかんで、ばっと、その上に押しかぶせると、冷蔑れいべつをこめた笑みをにやりと投げて、ふところ手をしたまま、表から出て行ってしまった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中央よりやや西寄りのところに絨毯じゅうたんを敷いて、そこに小さい紫檀したんの机を据え、すわって仕事をしていたらしい。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あのペルシャの絨毯じゅうたんを見られよ、何のなにがしが作ったかを問うことなくしてその美を感じる。そうしてそれは仕事に携わるどのペルシャ人も作り得たのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その間にグイ松のかなり大きい立木が、ツンドラの絨毯じゅうたんをつきぬけたように、乱立して無雑作に立っていた。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
美奈子は、二三度起き上ろうとするように、身体をもだえた後に、ぐったりと身体を、青い絨毯じゅうたんの上に横えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
葛巻の起居ききょしていた二階八畳の青い絨毯じゅうたんなど特に僕ののろったもので、あの絨毯の陰気な色を考えると、方向を変えて、ほかの所へ行きたくなってしまったものだ。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この絨毯じゅうたんは狭山様のお宅の床が、妾の血でけがされないように敷いたのです。壁紙も、窓かけも、何もかも妾の死に場所を綺麗きれいにしたいために新しく飾り付けたのです。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぜいたくな絨毯じゅうたんを敷きつめて、シナ焼の花瓶にさした珍奇な花で飾られた明るくすがすがしい階段。
しかし、ときどき彼の脳裡のうりかすめる、生と死との絨毯じゅうたんはその度毎に少しずつぼやけて来はじめた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのかわり、動物学で学んだ蚤の幼虫などは、畳のすみ絨毯じゅうたんの下などには幾つも幾つもいたものである。私はある時その幼虫とまゆと成虫とを丁寧に飼っていたことがある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今日は応接間の絨毯じゅうたんを台なしにして、校長に叱られた。乃公おれは猫の頚にインキ瓶をゆわい付けたばかりで、三日間の禁足になって了った。今に彼の猫を打殺たたきころしてしまうからいい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
招じられた客間は、ふかふかした絨毯じゅうたん、大きな暖炉ストーブに、火が赤々としていた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
絨毯じゅうたんのうえをのろのろ這って歩いて、先刻マダムの投げ捨てたどっさり金銀かなめのもの、にやにや薄笑いしながら拾い集めて居る十八歳、とらの年生れの美丈夫、ふとマダムの顔を盗み見て
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
安物の絨毯じゅうたんは旅行者のかかとに踏みやぶられようとも、その大広間は赤の一色で装飾され、ジョニイ・ウォカアの広告油絵と、東支鉄道の灰皿と、大阪製の巨大な花瓶とを宝物のごとくに安置し
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
もう、なんにも、あなたに言いたくなくなって、ぼんやり、一等船室の大広間に足をみ入れると、悚然しょうぜん、頭から水を掛けられたようなショックを受け、絨毯じゅうたんのうえに身が釘付くぎづけになりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
数知れぬ砂丘を狭め集めて快いバウンドをつけた夢の軽さの絨毯じゅうたん、お菓子の国の絨毯。花のしんにはプリマ・ビスケットを積み上げる。また、コメット・ビスケットを積み上げる。十枚対十枚。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
龍を刺繍した絨毯じゅうたんのうえに、さらに、虎の皮が敷いてある。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
たたみ絨毯じゅうたん、リノリウム、コオクカアペト……
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひげの中の一握りの束をしごき、絨毯じゅうたんの上に眼差まなざしを投げていたが、どうもちょうどKがレーニといっしょにころがった場所らしかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
すると、彼等のすぐうしろ、華美な絨毯じゅうたんの上に、大統領ルーズベルトの巨体が、ぶざまに尻餅しりもちをついている途方もない光景が眺められた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
冷たい、鉄のような言葉の下に、美保子の身体からだはヘタヘタと廊下の絨毯じゅうたんの上へ、崩れた花片はなびらのように座り込んでしまいました。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ここには色あせたといっても立派な絨毯じゅうたんがしきつめてあり、かさばった家具や、豪奢ごうしゃな金銀の大きな食器がならべてある。
室の中央に赤い絨毯じゅうたんが敷いてあるし、その上には瀟洒しょうしゃな水色の卓子テーブルと椅子とのセットが載って居り、そのまた卓子の上には、緑色の花活が一つ
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらを挾んで相対し熱心に読み合せをしている二人の男とをくっきり照して、鼠色の絨毯じゅうたんの上へ落ちている。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
絨毯じゅうたんを縫いながら、治兵衛の手の大小刀おおナイフが、しかし赤黒い電燈に、錆蜈蚣さびむかでのようにうごめくのを、事ともしないで
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、間もなく二番目が始まりましたので。御承知のとおり、この廊下には絨毯じゅうたんが敷いてございませんので、音が立ちますものですから、演奏中は表廊下を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
二つの肱掛ひじか椅子いすが暖炉の両すみに置かれていた。椅子の間には、毛よりも糸目の方がよけいに見えてる古い寝台敷きが、絨毯じゅうたんの代わりにひろげられていた。