精々せいぜい)” の例文
かねて双方の間に約束いたしおきたることは、もし当山に万一の事ありし時は、すみやかに私がまかり出て、精々せいぜい御助力いたすべく——
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それも精々せいぜい宵のうちだけで、神妙に帰って来ては相手をしてくれるので、余吾之介も大した退屈もせず、酒と、媚と、脂粉の匂いにひたって
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そういう先生についてやるのだから、書生は同じ方向に進んで、何事も一時の間に合せであって、精々せいぜいく行って、試験に及第すればよい位である。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
精々せいぜい米琉よねりゅうの羽織に鉄欄てつわくの眼鏡の風采頗るあがらぬ私の如きはどうしてもお伴の書生ぐらいにしか見えなかったであろう。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
精々せいぜいうまく致しましょう」老女の秋篠はこう云ったが、「それはそうとご前様には、いつ頃ご帰館あそばしますな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「御得意の阪本でござい。毎度御引立難有う御座りやす。奈何いかがですか旦那、大分夜も遅うござりますぞ。精々せいぜい勉強して一泊二十五銭、いかゞでがす」
「ソップも牛乳もおさまった? そりゃ今日は大出来おおできだね。まあ精々せいぜい食べるようにならなくっちゃいけない。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも済むような世の中になるのであるから、そんなことを苦にしないで精々せいぜい勉強してみろと父は言った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まあ自分のうちつという事が人間にはどうしても必要ですね。しかしそう急にも行くまいから、それは後廻しにして、精々せいぜい貯蓄を心掛けたらいでしょう。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうぞ精々せいぜいよく作ってください。おできばえがよければよいだけお礼の高もふえるのですから。はは。」
「おつむてんてん」などの簡単な遊戯から、「子買お子買お」のごと込入こみいった演劇に至るまで、一つの行事に一人の児童の携わるのは、精々せいぜい一年か二年であります。
精々せいぜい苦しむがいい。そして、俺の親爺の苦しみがどんなものであったかを、つくづく味って見るがいい
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当時海軍で飛ぶ鳥落とす松島を立腹させちやア大変だから、無理にても押し付けて仕舞ふ様にツて、精々せいぜい伝言ことづかつて来たんです、我夫あなた、私の顔をつぶしてもいおつもりですか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そんな次第で、此処へ来てからもリヽーを可愛がつてやつて、精々せいぜい猫好きで通してゐたのだが、だん/\彼女はその一匹の小さい獣の存在を、呪はしく思ふやうになつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神田へ来てお絃の顔を知らないところを見ると、こいつ、精々せいぜい長庵の下廻りをつとめるくらいが関の山で、大きなことをいっても、やくざ仲間では、どうやらモグリらしい。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
或種あるしゅの電波で金に還元する、——それが事実だとすれば世界の経済界をかき廻す事が出来るぞ。まあ精々せいぜいやってれ、ぐに資金を出すという訳には行かんが、大丈夫ときまれば
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お師匠がたの言葉も言葉だが、精々せいぜい、思い切ったところを見せてやるのもいいと思うが——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は精々せいぜい弟子の張り合いのために、腕の相当出来るものには、一年も経つと、手伝いをさせた手間として幾分を分ち、また出品物が売約されたり、御用品になったりした時には
閑静なる一間ひとましとならばお辰住居すまいたる家なおよからん、畳さえ敷けば細工部屋にして精々せいぜい一ト月位すまうには不足なかるべし、ナニ話に来るは謝絶ことわると云わるゝか、それも承知しました
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同時にこの大学みたように精神病科を継子ままこ扱いにする学校は、全然無価値なものになってしまうのです。……ですから、それを楽しみにして、精々せいぜい長生をして待っていらっしゃい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
餌食が其の柔かな白々しろじろとした手足をいて、木の根の塗膳ぬりぜん錦手にしきで小皿盛こざらもりと成るまでは、精々せいぜい、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳おどりはねるまで、たのしませて置かねば成らん。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかりといえども今の文明の有様にては、充分を希望するはとてもむつヶしきことなれば、必ずしも充分にあらずとも、なるべきだけ充分に近づくことの出来るよう、精々せいぜい注意せざるべからず。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いくら空が広いからって、ページェントじゃないから、いなごが飛ぶようなわけには行かない。まァ精々せいぜい三分の一の六百機だ。六百機が、飛び上ったとしても、彼等の着艦は、すこぶる困難になる。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それも当らないよ、まあ、二本くらいが精々せいぜいなんだ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
(この家はう三十年も前に取毀とりこぼたれてしまった。)精々せいぜい四室よまかそこらの家であったが、書斎を兼ねた八畳の座敷の周囲に大小の本箱を積み重ね
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お鳥はその時、十五か、精々せいぜい十六だったのでしょう。我慢の出来ない岩吉の腕からけ出すと、漆のような闇の山路を、全く当もなく駈けて出たのでした。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
半之丞の豪奢をきわめたのは精々せいぜい一月ひとつき半月はんつきだったでしょう。何しろ背広は着て歩いていても、くつの出来上って来た時にはもうそのだいも払えなかったそうです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな次第で、此処へ来てからもリヽーを可愛がつてやつて、精々せいぜい猫好きで通してゐたのだが、だん/\彼女はその一匹の小さい獣の存在を、呪はしく思ふやうになつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「へえ、よろしゅうごぜえます。どうぞ精々せいぜい強そうなところをお出しなすってくだせえまし」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「黄金仮面」の噂を精々せいぜい物凄く話し合うことよろしくあって、彼等が引込むと、この芝居の副主人公とも云うべき、非常な臆病者おくびょうものが登場し、暫く独白どくはくをやっている所へ、うしろの木立を分けて
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大阪へ行く時ばかりではない、東京へ帰る時にもまた相当のみやげ物を買って来なければならない。それやこれやを差引くと、本人の手に残るところは精々せいぜいその半額にも足りないくらいだろう。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は今度は目のくりくりした、機敏らしい看守かんしゅに案内され、やっと面会室の中にはいることになった。面会室は室と云うものの、精々せいぜい二三尺四方ぐらいだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
美妙斎に会った時も意外に若いので喫驚したが、漣の若いには更にヨリ以上驚かされた。漣はその時二十歳はたちであったが、精々せいぜい十八、九ぐらいにしか見えなかった。
精々せいぜい呆れているが宜い、あとの三枚を持って来て、立て続けにそのまアまアって奴を聴かして貰うぜ」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そんな次第で、此処へ来てからもリリーを可愛がってやって、精々せいぜい猫好きで通していたのだが、だんだん彼女はその一匹の小さい獣の存在を、のろわしく思うようになった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ありゃアしませんよ、お師匠さん、そんなにありゃアしませんよ、精々せいぜいのところ七人で」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
精々せいぜい用心したまえ」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はパリの往来の石の上にすわって泣いた。が、老女エステルにこの狂人沙汰きちがいざたが理解されるはずもない。「今さらそれが何になろう」と彼に書くのが精々せいぜいであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
少くも貧乏な好事家こうずか珍重ちんちょうされるだけで、精々せいぜい黄表紙きびょうし並に扱われる位なもんだろう。
「おやおや変梃へんてこに疑ぐるね。まあ精々せいぜいかんぐるがいい。今にアッと云わせてやらあ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほんたうだが、精々せいぜい手柔てやはらかに願ひたいな。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
剣豪塚原卜伝でさえ、一刀では相手を殺し兼ねたという。まして獲物が五寸釘とあっては、機先を制して投げつけて、精々せいぜい相手を追い散らすぐらいが、関の山であろうと思っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
精々せいぜい二十二三、年増といっても、余吾之介より一つ二つ若いでしょう、その頃から流行はやりはじめた派手な模様の幅の存分に広い帯を少し低くしめて、詰め袖の萌えでたような鮮やかな草色を重ね
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いったいどこへ連れて行く気かな? こんなじじいを誘拐したところでたいしていいにも売れまいにな。……精々せいぜいのところで別荘番。……おや今度は左へ廻った。……じたばたしたって仕方がない。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そう思ったら邪魔にせずに、精々せいぜいこれから可愛がるといいわ」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)