端坐たんざ)” の例文
鴎外が芝居しばいを見に行ったら、ちょうど舞台では、色のあくまでも白いさむらいが、部屋の中央に端坐たんざし、「どれ、書見しょけんなと、いたそうか。」
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして、祠のなかに小さな姿で端坐たんざしている三太に気がつくと、明るい陽の光りのなかに、まぶしそうに眼を細めて、笑うのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
分厚な膝をきちんと揃へて端坐たんざしたまま、切口上でものの十分ほど少年と応対したのち、ではごゆるりと、と引つこんで行つた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
若松屋惣七は、庭の老梅の幹のような、ほそ長い、枯れた顔を、まっすぐに立てて、きちんと端坐たんざしていた。いらいらして、膝をふっていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
怪談を話す時には、いつもランプのしんを暗くし、幽暗ゆうあんな怪談気分にした部屋へやの中で、夫人の前に端坐たんざして耳をすました。
かくわたくし白衣びゃくい姿すがたで、御神前ごしんぜん端坐たんざ祈願きがんし、それからあの竜神様りゅうじんさまのおやしろもうでて、これから竜宮界りゅうぐうかいまいらせていただきますと御報告ごほうこく申上もうしあげました。
そしてこの挨拶のしどろもどろを取りなおすつもりで、胸を張ってできるだけもっともらしい顔つきをして端坐たんざした。だが脇の下にはほんとうに汗がにじんでいた。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
しうと微笑ほゝゑみて、とききて跪坐ついゐたるをんなかへりみてふ、おまへをしへておげと。よめ櫛卷くしまきにして端坐たんざして、すなは攻守こうしゆ奪救だつきう防殺ばうさつはふしめす。積薪せきしんならて、あめしたくわんたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なぜならつんぼは人の云うことをこうとしてまゆをしかめ眼や口を開け首をかたむけたり仰向あおむけたりするので何となくけたところがあるしかるに盲人はしずかに端坐たんざして首をうつ向け
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平八郎は其儘そのまゝ端坐たんざしてゐる。そして熱した心の内を、此陰謀がいかに萌芽はうがし、いかに生長し、いかなる曲折をて今に至つたと云ふことが夢のやうに往来する。平八郎はかう思ひ続けた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
主人は懐手ふところでのままぬっと立ちながら「また人をかつぐつもりだろう」と椽側えんがわへ出て何の気もつかずに客間へ這入はいり込んだ。すると六尺の床を正面に一個の老人が粛然しゅくぜん端坐たんざしてひかえている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広太郎は、ギョッとしてピタリと端坐たんざした。と、正面の唐紙からかみが、スルスルと一方へ開いたものである。現われたのは一人の老武士。やッ、その風采ふうさいのあがらないことは! 年は六十以上でもあろう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
膝もくづさず端坐たんざせる姿は、何れ名ある武士の果ならん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
上段に端坐たんざした八重樫主水は
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
部屋一ぱい医事学報らしい刷物が散乱してをり、児玉は小学生の使ふやうな机の前に端坐たんざして、何やら熱心に書いてゐた。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
たちまち、暗がりに慣れた栄三郎の眼に、部屋の中央に端坐たんざして一刀をひきつけている人影がおぼろに浮かんできた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのは、ものぐるはしく、面影おもかげしろい、かみくろい、もすその、むねの、ちゝのふくらみのある友染いうぜんを、端坐たんざしたひざかして、うちつけに、明白めいはくに、ゆめ遠慮ゑんりよのないやうにこひかたつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平八郎はしとねの上に端坐たんざしてゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
みほうけたからださえシャンとなって、スウッと肩をのばし、端坐たんざの膝に両手を置いた作阿弥、主水正の言葉をツとさえぎって、夢みる人のように言いだした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父は、この八畳間の障子ぎはに小さな机を置いて、その前に端坐たんざし、役所から持つて帰つた書類を調べたり、墨をすつたりしてゐた。これもその後姿だけが、少年の印象に残つてゐる。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
竹行李たけがうりこしけて、端坐たんざした人參にんじん手代てだい端坐たんざだけにける。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)