きわ)” の例文
しかしその落込んだ狭い領域の中で、三句三様の変化を示しているのを見れば、俳諧の天地は容易にきわまらぬという感じもする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
大晦日おおみそかを越すとお正月が来るくらいは承知していたが、地獄で仏と云うことわざも記憶していたが、きわまれば通ずという熟語も習った事があるが
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きわまれば転ず、親が子の死を悲しむという如きやる瀬なき悲哀悔恨は、おのずから人心を転じて、何らかの慰安の途を求めしめるのである。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
大根から味噌のことまで一騎に引受けて、苦もなく、こなすものだから、その博識は測るべからず、その大通は粋をきわめ、博識と大通のあまり
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それ、人類の力に限りあり、万象の学はきわまりなし、限りあるの力を以て窮まりなきの学を講ず、終始これに従事するもつ足らざるを覚ゆ。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
しかもなほ力のきわまるを知らず、女子教育の必要を論じ、日本服の美的価値を論じ、内務省の牛乳取締令を論ず。ほとんど病人とは思はれざるのかんあり。
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
心思の自由は天地を極め古今をきわめて一毫いちごう増損なき者なり。しかれども文物の盛否と人の賢愚とに因り、その及ぶ所あるいは少差異なきことあたはず。
鷲郎は黒衣が首級くびを咬ひ断離ちぎり、血祭よしと喜びて、これをくちひっさげつつ、なほ奥深く辿たどり行くに。忽ち路きわまり山そびえて、進むべき岨道そばみちだになし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
青年はきわみなき空高くながめ、胸さくるばかりの悲哀かなしみをおさえて、ひそめし声に力を入れ、『必ず手紙を送りたまえ、今こそわが望みは君が心なれ。』
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし懐疑と想像とは科学の進歩に必要な衝動刺戟である。疑いつ想像をめぐらす前に、先ず現在の知識の限界をきわめなければならぬ事は勿論である。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いや彼は、旧悪のおおいようなく、進退きわまって、逐電ちくてんするであろうとか。何、昨夜、自邸にもどって自刃したとか、騒然たる臆説が町に乱れとんでおりまする。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒼空と大海原のような限りもなくきわまりもない時空の引伸し器に挟まれたなら、まるで縁日の芭蕉せんべいを焼くように、平たくばされ、もろくも軽くふくらまされて
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その小箱に至るまでの神秘的光景は、耶馬渓になく、昇仙峡になく、妙義山になく、金剛山になし。天下無双也。層雲峡をきわめたる者にして、始めて巌峰の奇を説くべき也。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
賽は予の運命をきわまらしめた。従って予の運命は新しき土地にくわを下ろさざるを得ざらしめている、予は北海道へ落つべきか、平凡に東京で落着くべきか未だ決定していない。
きわめ尽くせないのは人の心の種々相とその動き方の端睨たんげいすべからざる多様性であります。
「武鑑」は、わたくしの見る所によれば、徳川史をきわむるにくべからざる史料である。然るに公開せられている図書館では、年をって発行せられた「武鑑」を集めていない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
兵備拡張はきわまりなく堪えらるべきものにあらざれば、おそらく人民は絶望に沈みて、早晩帝王と帝王の名によって政権を握れる偽政治家とを一掃することあるやも測りがたし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
◯天然を以て神の権力ちからを知る事が出来る。歴史を以て彼の智慧をはかる事が出来る。ある程度までは人智を以て「神の深き事をきわめ、全能者を全く窮むる事が」出来る(十二章七節)。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私という津軽の土百姓の血統の男が、どんな都会生活をして来たかを書きしたため、また「東京八景」以後の大戦の生活をも補足し、そうして、私の田舎臭いなかくさい本質をきわめたいと思った。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
即ち吾人は窅冥ようめいにしてきわむべからざる無限のタイムを一貫する長き長き連鎖の中の一体を成すものであって、それには動かすべからざる進化の大法が厳重にこれを支配しているのである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ことにいわゆるミソハギの用途には、まだ沢山のきわめられざる神秘がある。これを蓍萩めどはぎと呼んだのにも仔細しさいがあるだろうが、日本の自然史はまだこれを説く迄に進んでいないのを遺憾とする。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そもそも陵の今回の軍たる、五千にも満たぬ歩卒を率いて深く敵地に入り、匈奴きょうど数万の師を奔命ほんめいに疲れしめ、転戦千里、矢尽き道きわまるに至るもなお全軍空弩くうどを張り、白刃はくじんを冒して死闘している。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
亡国の歌は残つて玉樹空し 美人の罪は麗花と同じ 紅鵑こうけん血はそそ春城しゆんじようの雨 白蝶魂は寒し秋塚しゆうちようの風 死々生々ごう滅し難し 心々念々うらみ何ぞきわまらん 憐れむべし房総佳山水 すべて魔雲障霧の中に落つ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ダイダロスは虚空をきわめて……
きわまったことを覚悟した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それなら自力でそれをきわめ得るかと云うと、まあ盲目めくら垣覗かきのぞきといったようなもので、図書館に入って、どこをどううろついても手掛てがかりがないのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
進退共にきわまった尼提は糞汁ふんじゅうの中にひざまずいたまま、こう如来に歎願した。しかし如来は不相変あいかわらず威厳のある微笑をたたえながら、静かに彼の顔を見下みおろしている。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
紅葉もみじ火のごとく燃えて一叢ひとむらの竹林を照らす。ますます奥深く分け入れば村きわまりてただ渓流の水清く樹林の陰よりずるあるのみ。帰路夕陽せきよう野にみつ
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だが、今日はもう必ず女の全部を突ききわめずにはおかない。八弥には、信念があった。自信があった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後世の註疏ちゅうそによらずに、ただちに経義をきわめようとする仲平がためには、古賀より松崎慊堂まつざきこうどうの方が懐かしかったが、昌平黌に入るには林か古賀かの門に入らなくてはならなかったのである。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
進退きわまって道標の蔭から竜之助のすきをうかがう。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
往来の向うはだらだらと南下みなみさがりに蜜柑みかんを植えて、谷のきわまる所にまた大きな竹藪が、白く光る。竹の葉が遠くから見ると、白く光るとはこの時初めて知った。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歴史はきわまりなくくり返してゆくらしい。——万生万殺——一殺多生——いずれも天理の常でしょう。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな錯雑した作物がないと云うのは過去の歴史だけを眼中に置いた議論でこれから先に作物の性質が、どのくらいに複雑な性質をかねてくるかをきわめない早計の議論かと思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「前にはこの大河、うしろからは敵の追撃、今やわたし達の運命は、ここに終ったかの如く見えますが、ものきわまれば通ず——という言葉もある。運を天にまかせて、この大河を越えましょう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半滴はんてきのひろがりに、一瞬の短かきをぬすんで、疾風のすは、春にいて春を制する深きまなこである。このひとみさかのぼって、魔力のきょうきわむるとき、桃源とうげんに骨を白うして、再び塵寰じんかんに帰るを得ず。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
谷も道もきわまったかと思えば、そこの絶壁へすがる藤蔓ふじづるがあった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、きわまる所に通ずる道のあることを暗示しているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)