狭隘きょうあい)” の例文
旧字:狹隘
それだけの理論さえ理解出来ずして、一端これを棄ててしまった文壇小説が益々狭隘きょうあいな途に踏み込んでしまったのは当然と思われる。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ただ杜甫の経歴の変化多く波瀾はらん多きに反して、曙覧の事蹟ははなはだ平和にはなはだ狭隘きょうあいに、時は逢いがたき維新の前後にありながら
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
何たるそれはのろくさい文明であろう! じつに笑うに耐えた平面・矮小・狭隘きょうあい・滑稽そのものの社会であり、歴史であり、思想であり
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
白状をすれば自分なども、春永く冬暖かなる中国の海近くに生まれて、このやや狭隘きょうあいな日本風に安心しきっていた一人である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
使用の言語が非常に饒多じょうたである、今日の歌人の作物など感興の幼稚なる言語材料の狭隘きょうあいなるとても比較になるものではない
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
縦令たといこの地域は狭隘きょうあいであり磽确こうかくであっても厳として独立した一つの王国であった。椿岳は実にこの椿岳国という新らしい王国の主人であった。
三階は二階よりも、四階は三階よりも狭隘きょうあいになって、やっと一坪半ぐらいな、そして天井だけが妙に高い扁平へんぺいな感じのする一室に突き当った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要するに、その区域が狭隘きょうあいであるから同一の事実がたくさんありますが、その割合に実際これを研究する材料に乏しいのは、遺憾の次第でござります。
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ゆうべの昌平橋は雑沓ざっとうする。内神田の咽喉いんこうやくしている、ここの狭隘きょうあいに、おりおり捲き起される冷たいほこりを浴びて、影のような群集ぐんじゅせわしげにれ違っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしそのうちに城の外廓が攻め落され、寄手の軍勢が三の丸へ這入って来たので、それ迄は餘裕よゆうのあったひろい城内も、だん/\狭隘きょうあいを告げるようになった。
此一条の水路は甚だ狭隘きょうあいにしてつ甚だ不潔なれども、不潔物其他の運搬には重要なる位置を占むること
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
快霽かいせい三浦みうらニ抵ル。路左折スレバ則ようや狭隘きょうあいナリ。小渡ヲ過グ。村吏数人路側ニ相迎フ。始テ北岸ノワガ部内ニ係ルヲ知ル。大沢アリ品井トイフ。周廻二、三里。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
規模は狭隘きょうあいではあるが、要害の点に於ては浦添城に勝っていたのであろう。「うらおそいのおもろ双紙」にいわゆるヱゾの石城ヱゾの金城とはこの城のことである。
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
ついてはこれより約五分間私の奉ずる神学の立場より諸氏の信条を厳正に批判して見たいと思うのであります。しかるに私の奉ずる神学とはしか狭隘きょうあいなるものではない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この解答は余りに狭隘きょうあいであって、真に価値をもっているものにも、価値の存在を拒否している。その二はコンジャック、セイのそれであり、価値の原因を利用に置く。
あの狭隘きょうあい蹉跌さてつの多い谿谷けいこくが、美の都への唯一の道であったなら、いかに呪わしき命数であろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
従来の狭隘きょうあいなる見地よりの判断、もしくは感情的独断は排斥せられて、ここに公明正大なる人道が発揮せられ、しかして新日本の教育はこの公明正大なる人道を根底として
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
またヨオロッパ諸国がその各々の植民地について採用した狭隘きょうあいな政策は、その利益が犠牲にされる植民地と同様に母国自身にとっても有害であることを説明せんと企てた。
そうして狭隘きょうあいで一面的な文学観を読者の審判の庭に供述する以前にあらかじめ提出しておくべき参考書類あるいは「予審調書」としてぜひとも必要と考えられるからである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今のように狭隘きょうあいなところに立っていては、その大きさはほとんど殺されていると同様である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「こう云う狭隘きょうあいな所だから、敬礼も何もせなくともい。お前達は何聯隊の白襷隊しろだすきたいじゃ?」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その勧むるや、中心まんと欲して止むあたわざるなり。彼の狭隘きょうあいなる度量も、この時においては、俄然がぜん膨脹するを見る。彼が眼中敵もなく、味方もなく、ただ彼が済度さいどすべき衆生しゅじょうあるのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
我らはわが内界に不抜ふばつの確信を豊強なる実験の上に築き、そしてまた同時にその外的表現に留意すべきである。外にのみ走りて浅薄になるおそれあると共に、内にのみひそみて狭隘きょうあいとなるきらいがある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかして評家が従来の読書及び先輩の薫陶くんとう、もしくは自己の狭隘きょうあいなる経験より出でたる一縷いちるの細長き趣味中に含まるるもののみを見て真の文学だ、真の文学だと云う。余はこれを不快に思う。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……「素朴そぼくな」人間の心を喪失そうしつしている。都の人達はみんな利己主義です。享楽きょうらく主義です。自分の利慾しか考えない。自分の享楽しか考えない。みんな自己本位の狭隘きょうあいなる世界に立籠たてこもっています。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
観察があまりに狭隘きょうあいであるばかりか、ややもすれば事実その物の観察に出発せず、かつ事物の広くして深い関係を無視し、単独に一つの事件なり現象なりに対して是非の結論を急ぐ傾向が見えます。
平塚さんと私の論争 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
論者、間々ままあるいは少年子弟の自治の精神を涵養し、その活溌の気象を発揚するを喜びず、しいてそのやからかりてこれを或る狭隘きょうあいなる範囲内に入れ、その精神をおさえ、その気象を制せんと欲するものあり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
それで、日露戦争後は個人の自覚が顕著となり、狭隘きょうあいなる愛国心よりたちまち目醒めて、世界的の広大なる精神が俄然発達し、ある者は特に社会問題に深大なる注意を払うようになってきたのである。
それから雷門に向って左の方は広小路ひろこうじです。その広小路の区域が狭隘きょうあいになった辺から田原町たわらまちになる。それを出ると本願寺の東門ひがしもんがある。まず雷門を中心にした浅草の区域はざっとこういう風であった。
そして学校の児童数も一足跳いっそくとびに百人以上になった。学校は狭隘きょうあいをつぐるようになった。そこで、村の中央にある叔母の家の所有にかかる山のふもとに校舎が新築された。私達はその新しい学校に移った。
「この狭隘きょうあいな地では、守るによくとも、大志はべられません。かねてのお約束、汝南を献じます。汝南を基地として、次の大策におかかりください」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに印刷が容易なればとてこんな本を出版し自己の狭隘きょうあいなる趣味をもって他人にいんとするは無作法ぶさほう仕業しわざなりという人あらん。されどあえて答う。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若い人が常になついて集まったので推しても、一部に噂されるような偏屈な狭隘きょうあいな人でなかったのは明白である。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
南宗を脱せんとせしは南宗の粗鬆そしょうなる筆法、狭隘きょうあいなる規模がよく自己の美想を現わすを得ざりしがためならん。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
例えば、稍々やや江戸時代の雰囲気の出ていると思われる第十の「戯作」にしても、都会人中の極く狭隘きょうあいなサークル内の人達の生活を描いているのに過ぎないのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
芭蕉去って後の俳諧は狭隘きょうあいな個性の反撥力はんぱつりょくによって四散した。洒落風しゃれふう浮世風などというのさえできた。天明蕪村ぶそんの時代に一度は燃え上がった余燼よじんも到底元禄げんろくの光炎に比すべくはなかった。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはブルジョアの狭隘きょうあいな見解、十九世紀のフランスを、哲学、倫理学、歴史、経済学の知識のない計算者を作り出す領域と、少しの数学的知識もない文学者を出す領域の二つに分けた智的教養
現時の霊魂の不可思議なるゆえんを知らば、死後のことのごときは、また容易に知了すべきのみ。ひとり死後を論じて生時に及ばずんば、その見の狭隘きょうあいなる、いまだともに霊魂を談ずるに足らず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼は龐徳ほうとくの勢につつまれて、退路を失い、次第に山間の狭隘きょうあいへ追いこまれた末、ついに龐徳と闘って首をとられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南宗を脱せんとせしは南宗の粗鬆そしょうなる筆法、狭隘きょうあいなる規模が能く自己の美想を現すを得ざりしがためならん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
狭隘きょうあいな都会人の芸術観をもって指導しようとすれば、その結果は選に洩れたる地方の生活を無聊ぶりょうにするのみならず、かねては不必要にわれわれの祖先の、国土を愛した心持を不明ならしめる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうしてその指揮者の頭がよほど幅員が大きく包容力が豊かでなければ、結局狭隘きょうあいな独吟的になるか、さもなくばメンバーのほうでつまらなくておしまいまでやり切れないであろうと思われる。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
のみならず、水門には、頑丈がんじょう鉄柵てつさくが二重になっているうえ、足場あしばのわるい狭隘きょうあい谿谷けいこくである。おまけに、全身水しぶきをあびての苦戦は一通ひととおりでない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつその区別明瞭なるが故にこれを用うるの区域はなは狭隘きょうあいを感ずるなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そうして記録の天然は人も知るごとく、はなはだしく狭隘きょうあいであったのである。
「なお、織田の後詰に後詰のかさなる時は、お味方は狭隘きょうあいな敵地に立って、にわかの転勢もままなりませず」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両者並び試みざればつい狭隘きょうあいを免れざらん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
殿軍しんがりは、小勢ながら、地勢を利しており、羽柴方は、大軍ではあるが、狭隘きょうあいな地なので、全力を注ぎ得ない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって一益も、この狭隘きょうあいな地区に、いたずらな持久を策すのみではなかった。勢州西方の山地から鈴鹿口へかけて、峰、国府、関、亀山などの諸城が散在している。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、使番の復命を、森武蔵守がうけとったのは、すでに彼の隊が、狭隘きょうあいな山あいの湿地しっちをふんで、岐阜ぎふたけの上へ、陣場を求めようとして登りかけていた時だった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)