焦燥しょうそう)” の例文
この不自由ふじゆうな、みにくい、矛盾むじゅん焦燥しょうそう欠乏けつぼう腹立はらだたしさの、現実げんじつ生活せいかつから、解放かいほうされるは、そのときであるようながしたのです。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その時分じぶん不安ふあん焦燥しょうそう無念むねん痛心つうしん……いまでこそすっかり精神こころ平静へいせいもどし、べつにくやしいとも、かなしいともおもわなくなりましたが
あたしはおなかが空いて、たまらなくなった。もう自分の身体のことも気にならなくなった。ただ一杯のスープに、あたしの焦燥しょうそうが集った。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
栄三郎はいつでもいてもたってもいられぬ焦燥しょうそうに駆られて、狂いたつように、手慣れの豪刀武蔵太郎安国をひっつかんでみる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そう思いながらも、彼は次の夜も言いがたい焦燥しょうそうの胸をいだいて、彼女のくるのを待っていた。しかし、彼女はこなかった。
わけても「菩提樹ぼだいじゅ」と「セレナード」と「海辺にて」と「君こそ安らいなれ」と「焦燥しょうそう」が絶品である(ポリドール、スレザーク愛唱曲集)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
だが、このことは口でいつても判ることではなし、むしろ独りで夜の空気の中を彷徨ほうこうする方が焦燥しょうそうの感じを少くした。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
即ち男尊女卑の倫理の下に、一夫多妻主義の許容されているところには、却って一家の風波の絶間なく、男子をして常に煩悶はんもん焦燥しょうそうせしむるものである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
恥かしい! と丈八郎はくちびるを噛んだが、人々が、驚きと、焦燥しょうそうに、気づかずにいるので、口に出さなかった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わかりですか。又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥しょうそうや何かの為に費される勢力エネルギーを保存するようにします。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自分でも女一人から脱け出ようとしていじらしいまでに焦燥しょうそうしている姿に、そうしてまた女一人の生活の空虚さと戦っているうちに、彼女自身の人間が損われ
宰相中将は少しも焦燥しょうそうするふうを見せずに、冷静な態度を取り続けているのであったから、こちらから、結婚談をしかけることも世間体の悪いことと思われて
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は、さながら不安と焦燥しょうそうとの地獄にうめいていた。いきなり立ち上って、今井と宮田との頭を、つづけさまになぐりつけたいような、いらいらしさを感じた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雲に乗って飛んでいる様な、夢を見ている様な、一方では限りなき焦燥しょうそうを感じながら、一方では落付おちつきはらっている様な、何とも形容の出来ない心持でありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一方早く自身の生活に立ちかえらなければならないという焦燥しょうそうに駆られながらも、危ない断崕だんがいに追い詰められているような現実からどう転身していいかに迷っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
血眼になって、あせりきって、歯噛みをして、地団太を踏みつづけながらも、どこか心頭の一片に鉄の如きものがあって、あらゆる短気と、焦燥しょうそうとを圧えきっている。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
侮辱と唾棄だきの表現のために、ね掛けられた柄杓の水さえすくいの露のしたたるか、と多津吉は今は恋人の生命いのちを求むるのに急で、焦燥しょうそうの極、放心のていでいるのであったが。
素子がヤキモチをやいて肉体に焦燥しょうそうしだすのが堪えられない気持だから。ともかく、まア、ここまで書いたことに就ては、私は多く苦痛であったが、多少は満足もしている。
不安も、焦燥しょうそうも、はにかみも、綺麗きれいに除去せられ、自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とはいえ、私は決して、この物置小屋の陰気さをいとうたのではない。貧乏と苦痛とには私はもうれきっている。私はただ、この「女中部屋」の生活の無意味さに焦燥しょうそうを感じたのだ。
彼の焦燥しょうそうは彼のなかに荒れ立ってゆき、彼は身動きもせずにたのしい五年の月日をあとぐりし、それにふたたびえなくなればどうなる自分であろうか、筒井がいるために貧窮すらこたえず
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
心の片隅に小鬼でもいて、それが鋭い爪の先で彼の心を引っ掻くかのような、いても立ってもいられないような変な焦燥しょうそうを覚えるのであった。事実彼の心からいつか安穏は取り去られていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
焦燥しょうそう煩悶はんもん、それに病気もしていて、幾度か書きかけては、床についた。
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いらいらして、皆につきかかって行きたいような焦燥しょうそうが起った。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
いくらさがしてもみつからない焦燥しょうそうもさることながら。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
病家の焦燥しょうそうもあるべきことながら
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分の神経が焦燥しょうそうしだした。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
このときの治明博士の焦燥しょうそう驚愕きょうがくとは、たとえるもののないほどはげしかった。彼は席から立って、舞台のまん中へとんでいきたかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれ青年時代せいねんじだいは、ゆめおおかったかわりに、また、反面はんめんあまりにみにくかった現実げんじつのために、焦燥しょうそう苦悶くもんをきわめたのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
宝の山に入りつつ手を空しゅうするようなものと、源十郎、思えば思うほどわれながらふがいなく、身内の焼けるような焦燥しょうそうの念に駆られざるを得なかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが、池内という仲立なかだちにそむかれては、手も足も出ない彼であったから、そうして、芙蓉と会わぬ日が長引くに従って、耐え難き焦燥しょうそうを感じないではいられなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三平はそう云って、青白く疲労した眉宇びう焦燥しょうそうを湛えたが、藤左衛門は年上だけに、渡船の上にある間も、なるべく休息をって措くことの方が賢明であるとさとして
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庸三は部屋へかえって支度したくをしたが、しかし何となく億劫おっくうでもあった。火に生命いのちを取られる虫のような焦燥しょうそうもいつか失われていたので、電話の刺戟しげきはあったけれど、心は煮えきらなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕もさっきの不覚の焦燥しょうそうなどは綺麗に忘れ、ひどく幸福な気持で微笑ほほえんだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はない焦燥しょうそうを感じる。このままこの黴臭い息づまるような空気の中で、——女中部屋の中で、一生を過ごさねばならないのではないか、こういった不安に私はしょっちゅう襲われた。
人に立去られると、はじめて感ずる、寂寥せきりょう焦燥しょうそうとを通り越した恐怖——
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう考えると、直也の心は、恐ろしい苦悶くもん焦燥しょうそうのために、烈しく動乱した。が、それよりも、自分の父が自分の恋人を奪う悪魔の手下であることを知ると、彼は憤怒ふんぬと恥辱とのために、逆上した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
翌日から僕は新しい希望と新しい焦燥しょうそうとを持って、自分の研究室へつめかけた。だが、落付いた気持で研究室に坐っていることは出来なかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はほとんど五分間の間経験のない焦燥しょうそうに攻められながら、もじもじしていましたが、やがてたまらなくなって、いきなり立上ると、どうするというあてもなく、兎も角も部屋を出て
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まあ、おちつき給え」と、呉用は彼の焦燥しょうそうをなだめて——
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という焦燥しょうそうにもだえるのでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
博士に会いたくてげつきそうな焦燥しょうそうを感じていた某大国の特使閣下も、この噂に突き当られ、落胆らくたんのあまり今にもぶったおれそうなあおい顔色でもって
さあ大変である、満座、みな不安と焦燥しょうそうに吹きがれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考えて見れば、昼間の焦燥しょうそうは無意味であった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると雪子学士の面に焦燥しょうそうの色があらわれた。彼女は大きく眼を見開き、室内をぐるっと一めぐり見わたした。と、彼女は課長の机の前をはなれて、すたすたと室内を歩きだした。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不安な焦燥しょうそうをもった老先生の姿である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お話中を恐れ入りますが、他の重大事件には私は殆んど関心を持って居りませんので。はい、只々ただただ重大人物博士の失踪しっそうについて非常なる憂慮ゆうりょと不安と焦燥しょうそうとを覚えている次第でございます」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いても立ってもいられない焦燥しょうそうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水洟みずばなすすりあげながら、なおも来る夜来る夜を頑張り続けた。さりながらその甲斐かいは一向に現われず、焦燥しょうそうは日と共に加わった。珠子とあの仇し男とは、余程巧みに万事をやっているらしい。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)