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とろ
ふりがな文庫
“
溶
(
とろ
)” の例文
夫人の温い薫るやうな呼吸が、信一郎のほてつた頬を、柔かに撫でるごとに、信一郎は身体中が、
溶
(
とろ
)
けてしまひさうな魅力を感じた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
其中
(
そのうち
)
にお腹も
満
(
くち
)
くなり、親の肌で身体も
温
(
あたた
)
まって、
溶
(
とろ
)
けそうな
好
(
い
)
い心持になり、
不覚
(
つい
)
昏々
(
うとうと
)
となると、
含
(
くく
)
んだ乳首が抜けそうになる。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
白地に星模様の
竪
(
たて
)
ネクタイ、
金剛石
(
ダイアモンド
)
の
針留
(
ピンどめ
)
の光っただけでも、
天窓
(
あたま
)
から
爪先
(
つまさき
)
まで、その日の
扮装
(
いでたち
)
想うべしで、髪から油が
溶
(
とろ
)
けそう。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私といふものゝ存在をあなたの
周
(
まは
)
りにまとはせ、
淨
(
きよ
)
らかな、力に滿ちた焔の中に輝きながら、あなたと私を一つに
溶
(
とろ
)
かしてしまふのだ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
なんまんだぶつと呟くやうに称名する大勢のものの声は、心の底から自ら
溶
(
とろ
)
けでるやうに
室中
(
へやぢゆう
)
に満ちた。
微
(
かすか
)
に鼻をすゝるものさへあつた。
夜烏
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
▼ もっと見る
橋廊下の
阿娜
(
あだ
)
な女は、
片肱
(
かたひじ
)
のせた欄干に頬づえついて、新九郎の後ろ姿をいつまでもじっと瞳の中へ
溶
(
とろ
)
けこむほど見送っていた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「はい、/\。よく覚えとりますでございます。」爺さんは
溶
(
とろ
)
けさうな顔になつた。「旦那様はあの折、手前に五十仙下さいましたつけ。」
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
苛々
(
いらいら
)
しさ……何よりも芸術の粋を慕ふ私の心は渾然としたその悲念の
溶
(
とろ
)
ましさに
訳
(
わけ
)
もなく
苛
(
いぢ
)
められ、魅せられ、ひき包まれ、はたまた泣かされる。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「あれさ、お前」梅仙女は犇々と三十郎の身体に絡み付いて、その邪悪妖艶な魔手の中に
溶
(
とろ
)
かし込もうとします。
新奇談クラブ:01 第一夜 初夜を盗む
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
熬
(
い
)
りつける
樣
(
やう
)
な
油蝉
(
あぶらぜみ
)
の
聲
(
こゑ
)
が
彼等
(
かれら
)
の
心
(
こゝろ
)
を
撼
(
ゆる
)
がしては
鼻
(
はな
)
のつまつたやうなみん/\
蝉
(
ぜみ
)
の
聲
(
こゑ
)
が
其
(
そ
)
の
心
(
こゝろ
)
を
溶
(
とろ
)
かさうとする。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
「だツてさ、お前、其様なにお
眠
(
よ
)
ツちや、
瞳
(
くろめ
)
が
溶
(
とろ
)
けてお了ひなさるよ。じようだんじやないわね。」
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
素晴らしい
音締
(
ねじめ
)
の撥さばきが、若い女の甘いあだっぽい
溶
(
とろ
)
けるような唄声と一緒に流れてきた。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
その
臭
(
かざ
)
の
主
(
ぬし
)
も全くもう
溶
(
とろ
)
けて了って、ポタリポタリと落来る無数の
蛆
(
うじ
)
は其処らあたりにうようよぞろぞろ。是に
食尽
(
はみつく
)
されて其主が全く骨と服ばかりに成れば、其次は
此方
(
こッち
)
の番。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
半焦の腱によつて互に引吊られ或ひは半ば
溶
(
とろ
)
けた肉塊の粘りで共に膠着し合つてゐるボロ/\に折れ崩れた人骨、煑沸された腦髓、石炭と
交
(
ま
)
ざつて
煮凝
(
にこごり
)
になつた血、強烈な竈の火熱の中で
無法な火葬
(旧字旧仮名)
/
小泉八雲
(著)
溶
(
とろ
)
けた金のまみれつく液汁木質さながらだつた。
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
徳市は
溶
(
とろ
)
けるような顔をしてうなずいた。
黒白ストーリー
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
夫人の温い
薫
(
かお
)
るような呼吸が、信一郎のほてった頬を、柔かに
撫
(
な
)
でるごとに、信一郎は
身体中
(
からだじゅう
)
が、
溶
(
とろ
)
けてしまいそうな魅力を感じた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
と
知
(
し
)
りつゝ、
魂
(
たましひ
)
から
前
(
さき
)
へ
溶
(
とろ
)
けて、ふら/\と
成
(
な
)
つた
若旦那
(
わかだんな
)
の
身體
(
からだ
)
は、
他愛
(
たわい
)
なく、ぐたりと
椅子
(
いす
)
に
落
(
お
)
ちたのであつた。
于二女之間恍惚夢如
(
にぢよのあひだにくわうこつとしてゆめのごとし
)
。
みつ柏
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
玉枝は、
父子
(
おやこ
)
喧嘩を
取做
(
とりな
)
すようにそう言って、
帛紗
(
ふくさ
)
から出した
小筥
(
こばこ
)
を、卓の端にのせた。
古代蒔絵
(
こだいまきえ
)
の
溶
(
とろ
)
けそうな筥である。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
軟かみのある語韻の九州には珍らしいほど京都風なのに阿蘭陀訛の
溶
(
とろ
)
け込んだ夕暮のささやきばかりがなつかしい。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
喜田氏は
独語
(
ひとりごと
)
を言ひながら、夢を見るやうな心持で、
室
(
しつ
)
一杯の
煙
(
けぶり
)
のなかに
溶
(
とろ
)
けさうになつてゐた。大きな鼻の
孔
(
あな
)
からは、白い
煙
(
けぶり
)
が二筋のつそりと這ひ出してゐた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
丸窓の小障子は外れていて、外に竹藪のある中に、ハアト形にどんよりと、あだ蒼い影が、ねばねばと、
鱗形
(
うろこなり
)
に
溶
(
とろ
)
けそうに脈を打って光っている。
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
情炎に
溶
(
とろ
)
けた三人の目が、いかにも、いやしげに、お蝶の襟や横顔の肉線をむさぼる如く見つめている。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それを聞くと、延若と福助とは、「そらまた
例
(
いつも
)
の成駒屋のお上手が始まつた。」と、互に顔を見合はせて首を
竦
(
すく
)
めたが、正直者の雲右衛門は急に蜂蜜のやうに
溶
(
とろ
)
けさうな顔になつた。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
幽愁の
燻
(
いぶ
)
し、疲労と陰影の薄笑ひ、眩暈中の杏仁水、それらから来る寂しさ、悲しさ、なつかしさ、さうした優しさ果敢なさ
溶
(
とろ
)
ましさが私にはあの悲み極まつた純情の嗚咽、あらゆる観念の寂び
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「……解けてほぐれて逢う事もか。何を
言
(
い
)
やがる。……
此方
(
こっち
)
あ
可
(
い
)
い加減に
溶
(
とろ
)
けそうだ。……まつにかいあるヤンレ夏の雨、かい……とおいでなすったかい。」
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
いかにも
艶冶
(
えんや
)
な桃色の中へ心まで
溶
(
とろ
)
けいったさまで、新助の
半畳
(
はんじょう
)
などには耳を貸している風もない。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
溶
(
とろ
)
けたゆたふ鬱憂のうねりに疲れ
第二邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
長襦袢
(
ながじゅばん
)
は
緋
(
ひ
)
に
総染
(
そうぞめ
)
の小桜で、ちらちらと土間へ来た
容子
(
ようす
)
を一目、京都から帰ったばかりの
主人
(
あるじ
)
が旅さきの
知己
(
ちかづき
)
、てっきり
溶
(
とろ
)
けるものと合点して、有無を部屋へ聞かないさきから
白花の朝顔
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
溶
(
とろ
)
けゆく雲のまろがり
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
が、ただ先哲、孫呉空は、
蟭螟虫
(
ごまむし
)
と変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその
臓腑
(
ぞうふ
)
を
抉
(
えぐ
)
るのである。末法の凡俳は、
咽喉
(
のど
)
までも行かない、唇に触れたら
酸漿
(
ほおずき
)
の
核
(
たね
)
ともならず、
溶
(
とろ
)
けちまおう。
灯明之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
溶
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“溶”を含む語句
溶解
溶々
溶岩
溶溶
溶鉱炉
溶炉
霜溶
雪溶
超溶解弾
蔗糖溶液
真空溶媒
瓦斯溶接
溶鈑
溶込
溶融
溶芥子
不溶解性
溶漾
溶液
溶暗
...