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月樣
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つきさま
渠等米錢を
惠まるゝ
時は、「お
月樣幾つ」と
一齊に
叫び
連れ、
後をも
見ずして
走り
去るなり。ただ
貧家を
訪ふことなし。
今宵は
舊暦の十三
夜、
舊弊なれどお
月見の
眞似事に
團子をこしらへてお
月樣にお
備へ
申せし、これはお
前も
好物なれば
少々なりとも
亥之助に
持たせて
上やうと
思ふたれど
あぢさゐの花もともの
字を
使つてゐるのは、
空のお
月樣がちょうどまんまるになつてゐる
頃、あぢさゐもまんまるになつた。かういふことを
感じさせようとしてゐるのです。
それから……
雲の
底にお
月樣が
眞蒼に
出て
居て、そして、
降る
事があるだらう……さう
云ふ
時は、
八田潟の
鮒が
皆首を
出して
打たれるつて
云ふんです。
ずつとお
月樣のさす
方へ、さ、
蒲團へ
乘れ、
蒲團へ、
何うも
疊が
汚ないので
大屋に
言つては
置いたが
職人の
都合があると
言ふてな、
遠慮も
何も
入らない
着物がたまらぬから
夫れを
敷ひて
呉れ
一
人榎の
下に
立ちて、「お
月樣幾つ」と
叫ぶ
時は、
幾多の(
應)
等同音に「お
十三七つ」と
和して、
飛禽の
翅か、
走獸の
脚か、
一躍疾走して
忽ち
見えず。
雜と
掃き
出したばかりで、
煤もほこりも
其のまゝで、まだ
雨戸を
開けないで
置くくらゐだから、
下階の
出窓下、すゝけた
簾ごしに
供へよう。お
月樣、おさびしうございませうがと、
飾る。
或時は
日の
出づる
立山の
方より、
或時は
神通川を
日沒の
海より
溯り、
榎の
木蔭に
會合して、お
月樣と
呼び、お
十三と
和し、パラリと
散つて
三々五々、
彼杖の
響く
處妖氛人を
襲ひ、
變幻出沒極りなし。