書翰しょかん)” の例文
故川田甕江おうこう先生は、白石はくせき鳩巣きゅうそうてた書翰しょかんと『折焚柴おりたくしばの記』に浪人越前某の伝を同事異文で記したのを馬遷班固の文以上にめたが
われわれは一面識なき人より書翰しょかんをおくられた場合には、その筆跡によって多少の判断を与うるに、往々適中することがある。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その間にはさまる使徒らの書翰しょかんは「霊的実験の提唱」ともいうべく、「教理の解明」とも称すべく、または簡単に「教訓」ともなづくべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
無聊ぶりょうに苦んで居た子規は余の書翰しょかんを見て大に面白かったと見えて、多忙の所を気の毒だが、もう一度何か書いてくれまいかとの依頼をよこした。
我が南洲翁なんしゅうおうもややおなじ境遇にあるの時、同じ意志を吐露とろした。翁が田原坂たばるざかの戦いのころ、大山県令おおやまけんれいに寄せた書翰しょかんいわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なかにも、わずかな金に眼がくらんだばかりに、ニコライ・ニコラエウィッチ大公のもとで例の『ジィノヴィェフの書翰しょかん』を偽造したぐらいですから。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
十七日には、そのうち三隻が大坂の天保山沖てんぽうざんおきまで来て、七日を期して決答ありたいという各公使らの書翰しょかんを提出した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝鮮征伐から分捕ぶんどって来た荒仏あらぼとけ、その時代の諸将の書翰しょかん太閤たいこう墨附すみつき……そんなような物をいろいろ見せられた幼時の記憶も長いあいだ忘られていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「では、何ですな、先生! そのワイゲルトという中尉の書いた記録や書翰しょかんの内容を一応我々に読んで下さって」
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ポーロはその書翰しょかんの中に愛は「惜みなく与え」云々うんぬんといった、それは愛の外面的表現を遺憾なくいい現わした言葉だ。愛する者とは与える者の事である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
書翰しょかんの写しだとか、公判の延期だとか、相当の用をもらって、彼らはもぐりでなく、大手を振って裁判所に出入する特権を、幼くもよろこんだのであろう。
初め英艦が薩摩に行こうと云うときに、し薩摩の方から日本文の書翰しょかんを出されたときにはこれを読むに困る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鎌倉の八幡宮の前にあったあの雪の下の饅頭屋まんじゅうやへ、某日あるひ二通の書翰しょかんが届いた。一通は横浜のの女の家から来た書翰で、一通は佐倉に居る××君の書翰であった。
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私の手に入れた書翰しょかん集が全く架空の物語でないことは分るのだが、併し、それにもかかわらず
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここの古本屋には、「チエホフ書翰しょかん集」と「オネーギン」がある筈だ。この男が売ったのだから。彼はいま、その二冊を読みかえしたく思って、この古本屋へ来たわけである。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もはや一週間内にて、死する身なれば、この胸中に思うだけをば、遺憾いかんなく言いのこし置かんとの覚悟にて、かの書翰しょかんしたためしなれば、義気ぎきある人、なんだある人もしこれを読まば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その運命を想い、その衷情ちゅうじょうを想う。私はこの書翰しょかんを貴方がたの手にゆだねたい。これを通じて私の心が貴方がたの心に触れ得るなら、この世の悦びが一つ私の上に加わるのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
名古屋の義姉に手紙を書こうと云う時は、字引や書翰しょかん文範を机の左右に置き、草書のくずし方一つでもうそにならぬように調べ、言葉づかいにも念を入れて、幾度か下書きをすると云う風にして
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「軍師、どうして、あの書翰しょかんが、宋公明そうこうめいさんの命とりになりましょうか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パウロの書翰しょかんは実に有益な書翰でありますけれども、しかしこれをパウロの生涯に較べたときには価値のはなはだ少いものではないかと思う。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
わずか三行ばかりの言葉は一冊の書物より強く彼女を動かした。一度に外から持って帰った気分に火をけたその書翰しょかんの前に彼女の心はおどった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
対手あいてが高名の貴婦人だけにその書翰しょかんを十襲して「書くにだに手や触れけんと思うにぞ」と少々神経病気味になって居る。
エスピノザはこういうフォスコロの書翰しょかんを受取ったのだが、同封の紙片に描かれたマッツオラタ(中世伊太利でカーニバル季における最も獣的な刑罰)
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ただこの書翰しょかん記録類が完全にお手許へ届きますよう、この木函拾得者に対する謝礼の意味で封入して欲しいというロゼリイス姫の申しでによって同封いたします。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
浦賀の奉行ぶぎょうがそれと知った時は、すぐに要所要所を堅め、ここは異国の人と応接すべき場所でない、アメリカ大統領の書翰しょかんを呈したいとあるなら長崎の方へ行けとさとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その次第は外国の公使領事から政府の閣老かくろう又は外国奉行へ差出す書翰しょかんを飜訳するめである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その運命を想い、その衷情ちゅうじょうを想う。私はこの書翰しょかんを貴方がたの手にゆだねたい。これを通じて私の心が貴方がたの心に触れ得るなら、この世の悦びが一つ私の上に加わるのである。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
きょうるひとの実に偉大な書翰しょかんに接し、上には上があるものだと、つくづく感歎かんたんして、世の中には、こんなばかげた手紙を書くおかたもあるのだから、僕の君に送る手紙などは
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
不肖ふしょうながら学資を供せんとの意味を含みし書翰しょかんにてありしかば、天にも昇る心地して従弟いとこにもこの喜びを分ち、かつは郷里の父母に遊学の許可を請わしめんとて急ぎその旨を申し送り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
栗栖は福井の産まれで、父も郡部で開業しており、山や田地もあって、裕福な村医なのだが、その先代の昔は緒方洪庵おがたこうあんじゅくに学んだこともある関係から、橋本左内の書翰しょかんなどももっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
書翰しょかんでも、人の言でも、正直に受け取って、すぐ信じこむ傾向がつよいのは、おうような育ちのよさともいえるものだったが、老職たちの任としては、それだけに小心にもなり、一事あるごとに
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人の書翰しょかんの一つのうちに彼はこんな事を云っている。——自分は女の容貌ようぼうに満足する人を見るとうらやましい。女の肉に満足する人を見ても羨ましい。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
過日大君殿下(将軍)へ大統領より差し上げたる書翰しょかんの趣をただいまさらにくわしく申し上げ候儀につき、大統領じきじきに申し上げ候御心得にておきき取り下さるべく候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち昨年十二月十九日前便をしたため、二十日、ロゼリイス姫逝去し、この書翰しょかんを本日認むるまでに三カ月余りを費やしたというは、一にこの木函作製のためゆえだったのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その時に私は幕府の外務省の飜訳局ほんやくきょくに居たから、その外国との往復書翰しょかんは皆見てことごとしって居る。すなわち英仏その他の国々からう云う書翰が来た、ソレに対して幕府から斯う返辞へんじやった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私の知れる、または見知らぬ多くの朝鮮の友に、心からのこの書翰しょかんを贈る。情の日本は今かくするようにと私に命じている。私は進み出て、もだし難いこの心を貴方がたに話し掛けよう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
妾はなお昔の如く相親しみ相睦あいむつみ合いしに、ある日重井よりの書翰しょかんあり、読みもて行くに更に何事なにごととも解し得ざりしこそ道理なれ、富子は何日いつ懐胎かいたいしてある病院に入院し子を分娩したるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
悩まざるを得ないだろう。名文と言おうか、魔文と言おうか、どうもこの偉大なる書翰しょかんを書き写したら、妙に手首がだるくなって、字がうまく書けなくなって来た。これで失敬しよう。また出直す。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
殊になお、勝家から家康へ宛てた懇篤こんとくなる書翰しょかんにたいしても
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予の書翰しょかんに由って上述インドの事例を略叙し
主人は少からざる尊敬をもって反覆読誦どくしょうした書翰しょかんの差出人が金箔きんぱくつきの狂人であると知ってから、最前の熱心と苦心が何だか無駄骨のような気がして腹立たしくもあり
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の知れる、または見知らぬ多くの朝鮮の友に、心からのこの書翰しょかんを贈る。情の日本は今かくするようにと私に命じている。私は進み出て、もだし難いこの心を貴方がたに話し掛けよう。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
当年の手記、奏議、書翰しょかん等の類に至るまで深くしまい込んでしまって、かつてそれを人に示したこともない。明治元年に権令ごんれい林左門が笠松かさまつ県出仕を命じたが、景蔵は病ととなえて固く辞退した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは天正十八年に、彼が、朝鮮国王に与えた書翰しょかん
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慰藉いしゃのつもりで云った津田の言葉はかえって反対の結果をお延の上に生じた。彼女は黒いまゆを動かした。無言のまま帯の間へ手を入れて、そこから先刻の書翰しょかんを取り出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また彼が海外の王へ書翰しょかんしていったように彼自身が
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親をだますような不埒ふらちなものに学資を送る事はできないという厳しい返事をすぐ寄こしたのです。Kはそれをわたくしに見せました。Kはまたそれと前後して実家から受け取った書翰しょかんも見せました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書翰しょかんは、彼のむすめむこ梁中書りょうちゅうしょの筆である。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
端書に満足した僕は、彼の封筒入の書翰しょかんに接し出した時さらにまゆを開いた。というのは、僕の恐れをいだいていた彼の手が、陰欝いんうつな色に巻紙を染めた痕迹こんせきが、そのどこにも見出せなかったからである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼のエイトキン夫人に与えたる書翰しょかんにいう
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)