)” の例文
聞くものはなし、一体何時頃か知らんと、時計を出そうとすると、おかしい、られたのか、落したのか、鎖ぐるみなくなっている。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、いずれも同じことで、中味は綺麗にり替えられ、砂利と金物の屑を詰めて、巧みに看貫かんかん(重量)を誤魔化ごまかしただけの事です。
「お役で封を切る!」と、ぷッつり——切った麻糸からすべり落ちたのは、印伝革いんでんがわの大型紙入れ、まさしく多市のられた品物だ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから何かを取りに行った隙をみて、趙は自分の用意して来た焼餅一枚を取り出して、皿にある焼餅一枚とり換えて置いた。
いつだったかも、主人の金をられたお手代が、橋から飛ぼうとしているのを見て、大枚たいまい百両をつかましてやったようなお人だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
フェロシアン加里をり変えて置いたからで、また出血が、行衛知れずになったというのも、藍で染めた水のために色が分らなかったからなのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その概略は、川上川下に住む二人の爺が川にやなを掛けると、上の爺の筬に小犬、下の爺のに魚多く入る。上の爺怒って小犬と魚をり替えて還った。
「わしは拾って来たのではない。どうしてあのどうろくがその小判を持っていたのか知らないが、昌平橋のうえでったのだ。巾着きんちゃく切りだよ、わしは」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たとえ電車の中の掏摸すりといえども、乗客から蟇口がまぐちったときは、その代償として相手のポケットへ、チョコレートか何かをねじこんでおくべきだ。
後から調べて見たら、り替えた方は東京のもので、掏り替えられた方は埼玉県出身でした。丁度上野辺でポン引きがポット出を引っかけるのと同じ遣口やりくちです
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
然るべき仇討あだうちの免状でも持っておいでるかと問うてみたればそれは無い。在るには在ったが、浅草観世音の境内で懐中物と一所にられてしもうたと云うのじゃ
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
スリにり取られるのも、性根しょうねが間抜けなせいでなく、おっとりした人柄のせいに違いない。そう僕は思った。そして僕らはウナギを食べ、酒を飲み始めました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
アメリカ人といふ奴は、巾着切でも、人殺しでもい、これはアメリカから習つたのだとさへ言へば、自分の財布をられても、女房のしんの臓を引抜かれても平気でゐる。
よく聞いて見ると、私はその貴婦人のダイヤの指環ゆびわったてんですから、驚きましたね。
指環 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「たッ……た大変だ大変だ。此中に一人掏摸が居るッ。金時計をられた金時計を!」
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
あるいは自分がられたのではなくって、あのちょっと目にとまった女が、後に掏摸すりであったことがわかって、あの女が掏摸であったのかというように解しても差支ないのであるが
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「あれ、この財布は、東京でチボにられたと、いいなさッとッたんじゃないですか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「毎年十二月二十五日に人の懐中物をり取るにしちゃ、まずい言い訳だ」
こっそりとりとる、それが愉快なのだ、その瞬間、実に何とも云えない快感を覚える、それを味いたいばっかりに、罪を重ねているのだが、盗んでしまえばそれぎりで、品物に執着がないのだから
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「ハンド・バッグをられないように気をつけておいで。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
煙草一袋だがられた感じはひどくいやなものだった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「なんとよくもこれだけりかへられたものだ」と。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
美くしく小さくつめたき緑玉エメラルドその玉らばかなしからまし
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
えちゃいけないぜ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千両箱を三つ盗み出して、新墓に埋めたのは、私と仲間の者の仕業に相違ございませんが、中味をり替えたのは誰やら一向存じません。
竹蔵が久兵衛の紙入れをる、お節が声をかける、万事が筋書をそのままに運んで、首尾よくお節の嫁入りまで漕ぎ着けました。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今、瀬戸物町せとものちょうで、四十両の勘定をとってきたばかりなンだ。それがねえ! 財布ぐるみだ! 財布ぐるみられてしまった」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連れてったせた車掌がいい男で、たしかに煙草入を——洋服の腰へ手を当てて仕方をして——見たから無銭ただのりではありません。られたのです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんならそうと、何故なぜ君は云わないんだ。そいつが掏摸スリの名人かなんかで、猿を抱きあげるとみせて、手提バッグから問題の燐寸をっていったに違いない——」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それとも知らず左膳は、いつからか、このりかえられた鍋を、今まで後生大事にまもってきたとは!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「最初は田口君かとも思ったが、君の素振りでそれとさとったのさ。一体何時り替えたね?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それを率きて行き暮れて旅亭に宿り驢と同室に臥すを怪しみ亭主が覗くと、銭多く出す様子、因って一分一体かわらぬ他の驢をかの児の眠った間に、金の糞する驢とり替えた。
大石さん、うちのおさんも、ええとこがあるでしょう? 東京の女スリから惚れられて、一ぺんはられた財布をかえして貰うて、おまけに、若松くんだりまでも、逢いに来られとる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「持っておりましたが私がその前にり取っておいたのです。古い手ですが……旅券は完全なもので、東京××大使館雇員やといを任命されてあらたに赴任する形式になっております。ここに持っておりますが」
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「助太刀なんかるものか、銭さえありゃ俺一人で片付けてやるが、藤沢でられてからけつだ。八、——穴のあいたのがあったら少し貸せ」
人を助けるためにしても、よしまたそれがどういう理由でも、られた者のうろたえざまをみるのは、かれの懺悔心ざんげしんが人知れぬ痛みを感じる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けてれば遺失おとしさうだ、——とつて、そででも、たもとでも、う、うか/\だとられも仕兼しかねない。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
掏摸すりといえども、財布をったらそのポケットにチョコレートでも入れて来るべし”てなことを主張して居りまする奇賊——いや憎むべき大泥坊でございます。
思わず頭をあげるあいだに、かれは他の枕とりかえて来た。公主は夜の明けるまでそれを覚らなかった。
また機巧あり、ベルトがた尾長猴はいかにこんがらがった鎖をも手迅てばやく解き戻し、あるいは旨く鞦韆ぶらんこを御して遠い物を手に取り、また己れを愛撫するに乗じてその持ち物をった。
「困ったなあ。僕は蝙蝠傘をられてしまった」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「——その上この十日ばかり、張つて/\張りまくつたさうだから、三文博奕ばくちにしても、五兩や十兩はつて居るさうですよ」
見返りお綱の指わざが、天王寺で、あの紙入れをったばかりに、うずが渦を呼ぶ鳴門の海のように、それからそれへ波瀾の絶えぬことになった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何だ、何だ、何だ、何だと? 掏摸すりだ、盗賊どろぼうだと……クソをくらえ。ナニその、胡麻和ごまあえのようなてめえつらめろい! さあ、どこにわっしてめえの紙入をったんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途中であの事件にって、あんなことになるわ、そばにあったトランクは、早いところ何者かによってりかえられていたので、わしはすっかり失敗してしまった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからだんだんといてみると、その蛇の一件の最中に、油断して紙入れや莨入たばこいれをり取られた者もあるという。それで先ず大体の見当はつきましたが、蛇と切髪の方がまだよく判りません。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かくも、自分をはッきりと意識するようでは、とても、はやぶさに人の物をるなどという神技かみわざに近い芸ができるものではない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「聽いたよ、新造に達引たてひかしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉もみぢを見に行つて、財布をられて、つれの女達にお茶屋の拂ひまでして貰つたといふ話だらう」
(おや、おや。)と疑わしそうに言ったけれども、一種の見得で、自分にはられたあてもないのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が風船にラジウムを入れたとき、五十嵐の奴はそれを裏返したが、そのときおそのときはやしで、彼は、小器用こきように指先を使って、ラジウムをりとったに違いなかった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)