抜身ぬきみ)” の例文
旧字:拔身
築地ついじの崩れの陰などでは、抜身ぬきみを片手に女どもをなぐさんでおります浅ましい有様が、ちょっと使に出ましても二つや三つは目につきます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
いつのまにか、卜斎ぼくさい蛾次郎がじろうのまわりには、十数槍すうそう抜身ぬきみ穂尖ほさき、音もせずに、ただ光だけをギラギラさせて、すすきのようにえならんでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平素ふだん温和おとなしいい人のおこったのはひどいもので、物をも云わずがらりと戸を開けて中へ飛込み、片手に抜身ぬきみげて這入ると、未だ寝は致しません
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
抜身ぬきみの槍を抱えて竜之助は程よいところへ坐り、穂先をズッと燈火あかりの方へ向けたから、擬いの勤番連はけむに捲かれて
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
喬之助は、抜身ぬきみの一刀を糸で腰に釣って、それに、羽二重はぶたえ単羽織ひとえばおりをフワリと掛け、刀身をすっかり隠して、さやに納まっている如く見せかけていたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そいつを抜身ぬきみのままブラ下げて、二階で帳合せをしているお米の部屋へ飛込むと、——肝腎のお米は一と足先に入った曲者くせものに刺し殺されていたんだそうです
それで彼女は思い切ってまた切戸きりどを開けて外をのぞこうとする途端とたんに、一本の光る抜身ぬきみが、やみの中から、四角に切った潜戸の中へすうと出た。姉は驚いて身をあと退いた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小田原修理しゅり、山隅九平くへい、その他。抜身ぬきみやり、刀。中には仰山に小具足をつけたるもあり。大勢。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竹の梯子はしご抜身ぬきみの刀を幾段も横に渡したのに、綺麗な娘の上るのや、水芸みずげいでしょう、上下かみしもた人が、拍子木でそこらを打つと、どこからでも水の高く上るのがあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
抜身ぬきみをひっさげて、苦しんでいる人なら、誰でも助けたりかばったりしながら、諸国を遍歴へんれきしただろうになア。この子は困っている人達を見ると、いつでも戦いたくなるのだから。」
なぜって、旅人が、猿のきょうに乗って来たところを見すまし、木の枝でしきりと自分の頸部けいぶをなぐって見せたからです。猿はそれを真似て抜身ぬきみで自分のくびをなぐったから、たまりません。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
登勢は抜身ぬきみの刀などすこしもこわがらず、そんな客のさっぱりした気性もむしろ微笑ほほえましかったが、しかし夫がいやな顔をしているのを見れば、自然いい顔もできず、ふと迷惑めいた表情も出た。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そこで静かに起きあがり、納戸なんどから道中差どうちゅうざしを取り出した。むろん亡くなった義父の品で、久しく出したことがないから、刃にはさびがでていた。彼は抜身ぬきみを持って寝間へ戻り、女房を揺り起こした。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人足は抜身ぬきみやりを見て、ばら/\と散つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
築地ついじの崩れの陰などでは、抜身ぬきみを片手に女どもをなぐさんでをります浅ましい有様が、ちよつと使に出ましても二つや三つは目につきます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「馬鹿野郎ッ、何というあわてようだ。抜身ぬきみおどかされて逃げ出して、懐ろの十手の手前済むと思うか」
其時第一に馳けけたものは祖父ぢゞであつた。左の手に提灯をかざして、右の手に抜身ぬきみを持つて、其抜身ぬきみ死骸しがいを叩きながら、軍平ぐんぺいしつかりしろ、きづあさいぞと云つたさうである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
抜身ぬきみやりで押寄せて、おこよ、源三郎を連れてこうと致しますから深見新左衞門は役柄で捨置かれず、すぐに一刀を取って斬掛けましたが、多勢に無勢むぜいで、とう/\深見を突殺し
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おおせ聞けられ承りまする内に、条理すじみちわきまえず、僧都にも分らぬことのみではござりますが、ただ、黒潮の抜身ぬきみで囲みました段は、別に忌わしい事ではござりませんように、老人にも
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その余の者は思い思いの半裸のすがた、抜身ぬきみ大刀たちを肩にした数人の者を先登に、あとは一抱えもあろうかと思われるばかりのひのきの丸太を四五人してかついで参る者もあり
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
その時第一にけ付けたものは祖父であった。左の手に提灯ちょうちんかざして、右の手に抜身ぬきみを持って、その抜身で死骸をたたきながら、軍平しっかりしろ、きずは浅いぞと云ったそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抜身ぬきみを持出して、裏梯子から登り、お米の背後から一と思いに刺し、下へ降りたところへお夏が行ったのだ、——脇差の鞘が、たぶん和助の荷物か、あの女の荷物の中にあるだろう。
しお侍が気でも違いまして抜身ぬきみ振𢌞ふりまわされたら、本当に危険けんのんではありませんか。
 娘は幸福しあわせではないのですか。火も水も、火は虹となり、水は滝となって、彼の生命を飾ったのです。抜身ぬきみの槍の刑罰が馬の左右に、そのほまれを輝かすと同一おんなじに。——博士いかがですか、僧都。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その余の者は思ひ思ひの半裸のすがた、抜身ぬきみ大刀たちを肩にした数人の者を先登に、あとは一抱へもあらうかと思はれるばかりのひのきの丸太を四五人してかついで参る者もあり
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
店の端先はなさきへ出て旦那もお内儀かみさんも見ている処へ抜身ぬきみげた泥だらけの侍が駈込んだから、わッと驚いて奥へ逃込もうとする途端に、ふかしたての饅頭まんじゅう蒸籠せいろう転覆ひっくりかえす、煎餅せんべいの壺が落ちる
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
血の付いた脇差が、抜身ぬきみのまま、死骸の後ろの箪笥の上に載せてあります。
「なに強盗がよ。それでもって、抜身ぬきみか何かで威嚇おどした時によ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わっちが今立聞をしていたら、孝助の母親おふくろ咽喉のどを突いて、おなれさん方の逃げた道を孝助におせえたから、こゝへ追掛おっかけて来るにちげえねえから、おめえさんは此の石橋の下へ抜身ぬきみ姿なりで隠れていて
商人の店先へ来て、抜身ぬきみを振り廻した曲者くせもの、訴えて出れば御法通り所構えだ。それとも穏便に返して貰いたかったら、六百五十両持って来い。びた一文欠けても相成らぬぞ、ハッハッハッ、馬鹿な奴だ
「親分の前じゃねえ、抜身ぬきみの前で腰を抜かしたろう」