トップ
>
悶々
>
もんもん
ふりがな文庫
“
悶々
(
もんもん
)” の例文
幻聴の中では、彼の誠意を
嗤
(
わら
)
うシイカの
蝙蝠
(
こうもり
)
のような笑声を聞いた。かと思うと、何か
悶々
(
もんもん
)
として彼に訴える、清らかな哀音を耳にした。
橋
(新字新仮名)
/
池谷信三郎
(著)
悶々
(
もんもん
)
としているよりも、まだ会社の仕事をしている方が気がまぎれそうな気がしたので、いつもよりは三十分も遅れて出社した。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
物陰にいた馬超は激怒して、韓遂が帰るや否、彼を成敗すると
猛
(
たけ
)
ったが、旗本たちに抱き止められて、
悶々
(
もんもん
)
と一時剣をおさめた。
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「暮れて帰れば春の月」と
蕪村
(
ぶそん
)
の時代は
詩趣満々
(
ししゅまんまん
)
であった
太秦
(
うずまさ
)
を通って帰る車の上に、余は
満腔
(
まんこう
)
の不平を
吐
(
は
)
く所なきに
悶々
(
もんもん
)
した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
緑雨の失意の
悶々
(
もんもん
)
がこの冷静を
粧
(
よそお
)
った手紙の文面にもありあり現われておる。それから以後は全く疎縁になってしまった。
斎藤緑雨
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
▼ もっと見る
あアそうだ外の事は一切不満足でも、只同情ある殊に予を解してくれたお繁さんに逢えたら、こんな気苦しい厭な思いに
悶々
(
もんもん
)
しやしないに
極
(
きま
)
ってる。
浜菊
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
転げつ、倒れつ、
悶々
(
もんもん
)
のたうち返る美人の
肉塊
(
にっかい
)
の織り
作
(
な
)
す美、それは白いタイルにさあっと拡がってゆく血潮の色を添えて充分カメラに吸収された。
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
悶々
(
もんもん
)
たる人間の利己主義を脱して、
瞑思
(
めいし
)
する人間の同情心に達する。彼のうちには賛美すべき感情が花を開く、自己の忘却と万人に対する
憐憫
(
れんびん
)
とが。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
すると、泡鳴氏は後むきになって横になっていた。清子はその背中から、
悶々
(
もんもん
)
としている憂愁を見てとった。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
彼は
終
(
つひ
)
に心を許し
肌身
(
はだみ
)
を許せし
初恋
(
はつごひ
)
を
擲
(
なげう
)
ちて、絶痛絶苦の
悶々
(
もんもん
)
の
中
(
うち
)
に一生最も
楽
(
たのし
)
かるべき大礼を挙げ
畢
(
をは
)
んぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
吉助は愚物ながら、
悶々
(
もんもん
)
の情に堪えなかったものと見えて、ある夜
私
(
ひそか
)
に住み慣れた三郎治の家を
出奔
(
しゅっぽん
)
した。
じゅりあの・吉助
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
何よりも苦しいことは、性慾ばかりが
旺盛
(
おうせい
)
になって、明けても暮れても、セクスの観念以外に何物も考えられないほど、
烈
(
はげ
)
しい情火に反転
悶々
(
もんもん
)
することだった。
老年と人生
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
人並みに都を出たのはよかったが、どうにも、都に残した妻子のことが思い切れず、日夜
悶々
(
もんもん
)
としておったのじゃが、この有様が他の人にわからぬはずはない。
現代語訳 平家物語:10 第十巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
とにかく、
李陵
(
りりょう
)
が
悶々
(
もんもん
)
の余生を
胡地
(
こち
)
に埋めようとようやく決心せざるを得なくなったころ、蘇武は、すでに久しく北海のほとりで独り羊を牧していたのである。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
是
(
ここ
)
において衛生上の営養と快心的の娯楽と一時に奪ひ去られ、衰弱とみに加はり昼夜
悶々
(
もんもん
)
、
忽
(
たちま
)
ち例の問題は起る「人間は何が故に生きて居らざるべからざるか」
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
悶々
(
もんもん
)
のうちにも忘れようとしたことであろうが、このつるぎのふたつ
巴
(
どもえ
)
に関連して、大岡のおの字も思いよらない大膳亮としては、すでに大の乾雲を手にして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
彼は大きな手柄をたてた。——このところで彼は、祖父の武勇
譚
(
だん
)
から取って来たいくつかの
条
(
くだり
)
を自分の話に織り込んだ。——彼女はその間に、
悶々
(
もんもん
)
のあまりに病気になった。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
さすがに冷淡にはお取り扱いにはならないで、人づてのお返辞はくださるというのであったから、源氏は
悶々
(
もんもん
)
とするばかりであった。次第に夜がふけて、風の音もはげしくなる。
源氏物語:20 朝顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
男というものが彼女の目に映る様になり、人生というものがハッキリ分ってしまって来るに従って、
悶々
(
もんもん
)
の
情
(
じょう
)
は巨大な化物の様に生長して行った。そして、遂に恐ろしい
破綻
(
はたん
)
が来たのだ。
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
或いはまた、御亭主殿を失った精力の有り余る
海女
(
あま
)
は、情念が昂進して来ると、夜中でも飛び起きて、海で遊んで来ないことには、どうにもこうにも、
悶々
(
もんもん
)
の肉体をもてあますのだとのこと。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
始め四宿の遊び
女
(
め
)
を買いあさり、
悶々
(
もんもん
)
を慰めるという
術
(
すべ
)
もあろうが、何んの因果か、拙者はその気になれない。遊女に戯れて安価な慰めなどを得る気の重いのは、恐らく御貴殿も御同様であろう
奇談クラブ〔戦後版〕:04 枕の妖異
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
一本立ちの出来ない低能児のように
見做
(
みな
)
されるのが、非常に不服なのであるが、さればと云ってその不服を聴いてくれる友達もなく、
悶々
(
もんもん
)
の情を胸の中に納めていると、何となく独りぽっちな
猫と庄造と二人のおんな
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そして彼はひとり
闇
(
やみ
)
の中にとりのこされ、
暁方
(
あけがた
)
まで
悶々
(
もんもん
)
するのだが、不思議なほど
脆
(
もろ
)
くなった心には、自分が過去に書いてきた作品さえが、まるで別人の
仕業
(
しわざ
)
のように思われ出してくるのだ。……
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
野狐
(
やこ
)
風流五百生、私は転々
悶々
(
もんもん
)
として、永遠に野狐であるらしい。
野狐
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
悶々
(
もんもん
)
と
檣
(
ほばしら
)
けぶるたたずまひ
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
と、
蔦之助
(
つたのすけ
)
はまた
悶々
(
もんもん
)
とだまって、いまはただ、この民部の
頭脳
(
ずのう
)
に、神のような
明智
(
めいち
)
がひらめけかし、とジッと
祈
(
いの
)
るよりほかはなかった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
足利
(
あしかが
)
時代以来の名家であるとか、維新の際には祖父が勤王の志が、厚かったにも
拘
(
かか
)
わらず、
薩長
(
さっちょう
)
に売られて、朝敵の
汚名
(
おめい
)
を取り、
悶々
(
もんもん
)
の
裡
(
うち
)
に憤死したことや
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
純真な大隅学士は、心の痛手にたえやらず、
悶々
(
もんもん
)
として下宿の一室に閉じ籠り、一歩も外に出でなかった。そのうちにも彼の心はただ一つのことを念じていた。
地球盗難
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
何十年来シベリヤの空を
睨
(
にら
)
んで
悶々
(
もんもん
)
鬱勃
(
うつぼつ
)
した
磊塊
(
らいかい
)
を小説に托して洩らそうとはしないで、家常茶飯的の平凡な人情の紛糾に人生の
一臠
(
いちれん
)
を探して描き出そうとしている。
二葉亭追録
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
そうして、その
悶々
(
もんもん
)
の情を
抱
(
いだ
)
きながら、己はとうとう己の恐れていた、しかも己の待っていた、この今の関係にはいってしまった。では今は? 己は改めて己自身に問いかけよう。
袈裟と盛遠
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
お聞きもいただきたいと存じながら果たしえませんことで
悶々
(
もんもん
)
としておりました
源氏物語:20 朝顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
それから数日のあいだ、良斎は
悶々
(
もんもん
)
として楽しまぬ日を送った。
影男
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
悶々
(
もんもん
)
として、あれからの一角は、旅が、
捗
(
はかど
)
らなかった。悪い原因は、もう一つある。それは
懐中
(
ふところ
)
に、兵部から貰った多分な金があることだ。
無宿人国記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼に
悶々
(
もんもん
)
の悩みを
嘗
(
な
)
めさせ、それが半ば偶然であるとは
云
(
い
)
え、勝彦を操ることに依って、畜生道の苦しみを味わせた自分を死の刹那に於て心から信頼している。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
再び上京したらと元気を附けてやった事もあったが、盛返す勇気もなくて
悶々
(
もんもん
)
数年の後、
終
(
つい
)
に大正四年の初冬に別府の同情深い友の家で淋しい敗残者の生涯を終った。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
私はまた長い間口へ出してお願いすることができませんで
悶々
(
もんもん
)
としておりました
源氏物語:13 明石
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
失恋の
傷手
(
いたで
)
に
悶々
(
もんもん
)
たる烏啼の奴は、今頃はやるせなさのあまり、君の心臓を串焼きなんかにして喰べてしまったかもしれないよ。とんでもないことだ、そんなことは安東に話してやれないな”
心臓盗難:烏啼天駆シリーズ・2
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
藤田伝五や四方田政孝などが痛言した——この気持のままでは戦場へ
赴
(
ゆ
)
けない——という
悶々
(
もんもん
)
たるものは、光秀の胸にも勿論あるにちがいない。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
村川が
悶々
(
もんもん
)
として不眠の夜を過ごしていることなどは、少しも京子の神経にふれなかった。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
私は、
悶々
(
もんもん
)
として、二時間ばかり、そこに時間を過ごしていたであろう。
地球要塞
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
曹操は
悶々
(
もんもん
)
、自己を責めた。幾日かを空しく守りながら陣小屋の内にかくれて、じっと軍書にばかり眼をさらしていた。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
自分の寝室へ帰って来てからも、勝平は
悶々
(
もんもん
)
として、眠られぬ一夜を過してしまった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
信長に
面罵
(
めんば
)
され、
饗応
(
きょうおう
)
の役を
褫奪
(
ちだつ
)
され、憤然、
安土
(
あづち
)
を去って、居城亀山へ去る途中、幾日もここに留まって、
悶々
(
もんもん
)
、迷いの
岐路
(
きろ
)
に立ったものだが——
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
十一日、十二日と二人は保土ヶ谷の宿で、
悶々
(
もんもん
)
として過した。
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
きのうも今日も、
悶々
(
もんもん
)
と、彼はそれから離れることが出来なかった。残念という呟きは、自分へ向っていう
呻
(
うめ
)
きであって、人を
呪
(
のろ
)
うため息ではない。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
秘事を、清盛にささやいたのは、遠藤盛遠であり、盛遠もまた、
酒溺放逸
(
しゅできほういつ
)
、何か、自暴と
悶々
(
もんもん
)
の影が
濃
(
こ
)
い。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その
悶々
(
もんもん
)
たる彼をも、総立ちとなった人々をも、正成はまた、まるで知らないかのような姿だった。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かつは多くの部下も死なせ、日夜、やるかたない
悶々
(
もんもん
)
を抱いていたところである。が、いまはまったく心身も冴え返った。呉用が来た。また思わざる味方が加わった。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「さもあらん、さもあらん。——英雄の心情、
悶々
(
もんもん
)
たるものがあろう」と、独りつぶやいていた。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
湖
(
うみ
)
のごとく静かに、しかし
悶々
(
もんもん
)
と、心には烈しい懐疑の波をうって考えこんでいる範宴少僧都をのせて、牛車の牛は、使いの首尾を晴れがましく、青蓮院の門前へ返った。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
悶
漢検準1級
部首:⼼
12画
々
3画
“悶々”で始まる語句
悶々事