しり)” の例文
も少し上つて茅戸のひらに出るとしりへに女貌によほう帝釋たいしやく大眞名子おゝまなこ、太郎の山々がずらりと列ぶ。殊に女貌の美しさは表から見た比ではない。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
「まろもお送りして往きます。お車のしりへでも乗せて往っていただきましょう。そうしてもう二度とまろもこちらへは参りませんから」
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
手桶ておけ薬缶抔やかんなどげたる人だち我も我もと押し掛くる事故ことゆえ我ら如き弱虫は餓鬼道の競争に負けてただしりごみするのみなれば何時飯を
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「氣味が惡いんだらうな、宜いや、ま、八、お前がやつてくれ。絞め殺すわけぢやねえ、しりごみすることがあるものか」
と仁王立ちに大手を拡げた伝吉は、しりえに五、六十人の人数を曳いて、自斎の前をふさいでしまった。彼も憤然とした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて既に猛き獸のしりに乘りたるわが導者にいたれるに、彼我に曰ひけるは、いざ心を強くしかたくせよ 七九—八一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なるほどはるか向うの街道を騎馬の人が駆歩かけあししている。駆歩する馬のしりえには少しずつ土げむりが立って見える。
玉菜ぐるま (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
御譜代外様とざまを通じての大大名をもしりえにおさえて、第一の席は、ずっと柳生家の占むるところでござりました
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女は前を引く態度で、男はしりえに引かれた様子だ。しかもそれが実際に引いてもひかれてもおらん。両者のえんは紫の財布の尽くる所で、ふつりと切れている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
收めたれば酒肴しゆかう見立掛り膳部申付役となる火のさかんなる圍爐裏ゐろりに足踏伸し鉛筆のしりにて寶丹ほうたんと烟草の吹壳ふきがら
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
貧窮ひんきゅう病弱びょうじゃく菲才ひさい双肩そうけんを圧し来って、ややもすれば我れをしてしりえに瞠若どうじゃくたらしめんとすといえども、我れあえて心裡の牙兵を叱咤しったして死戦することを恐れじ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして東野さんのしりへに随つて奥へ通ると、先生は温顔を湛へて客間の次の間の所に立つてをられた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれども、羊の悪病は牧人をしりえに退かしむるであろうか。いな。とはいえ何という羊であるかよ!
六尺男児をしりへに瞠若どうじゃくたらしめた底の女子が追々増加して、三十五六年頃からは、各地女学校の団隊が追々富士登山を試みる様になったのは、まことに喜ばしい現象である。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
勝敗真に時の運とせば、吾人は、トルストイを有し、ゴルキイを有し、アレキセーフを有し、ウヰツテを有する戦敗国の文明に対して何等しりへに瞠若だうじやくたるの点なきや否や。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たとへば、緩漫なまのろふゆしりへにはなやかなはるめがるのをて、血氣壯けっきさかんわか手合てあひかんずるやうなたのしさ、愉快こゝろよさを、つぼみはな少女をとめらと立交たちまじらうて、今宵こよひ我家わがやりゃうせられませうず。
この時沙本毘賣さほびめの命、その兄にえへずして、しりつ門より逃れ出でて、その稻城いなぎりましき。
之と比肩する能はざるのみならず、外にありては、香車のしりへに走り、内に在りては、青侍の前にひざまづかざるを得ず、且つ当時最も武夫の栄誉としたりし御家人の名は廃せられ
世界第一の民政国たる米国に擬せんとせしが如き政治的冒険の花々しく、恐ろしく、快絶奇絶なりしが如く、当時の思想界の冒険もまた孟賁まうほんをしてしりへに瞠若だうじやくたらしむる程の勢ありき。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
彼をして力としての自然をしりへに見て、一躍して美妙なる自然に進み入らしめたり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
即座に、両親の面前で、同時に、姉のエルネスチイヌと兄貴のフェリックスのうらやましそうな眼つき(だが、何人なんびともすべてのものを得るわけには行かぬ)をしりえに、一服おうと思う。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
語を変えていわば、科学は常に、人の預覚のしりえに遅々として来たるものなりと。
我が教育の欠陥 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしながら国民が十分に進歩して、国民的勢力が常に政府のしりえにあれば必ずこの国の外交は成功する。国民の対外観念の発達に伴う外交は、着々功を奏するに相違ないと信ずるのである。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
これと共に絶叫して、しりえにどうと倒れたのが神尾主膳であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大蟇おおがま先にり小蟇しりへに高歩み
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
というしりにつき季武は
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身をていして行くと、しりものもそれを見てはいなかった。わっという喊声かんせいだけでも、一個の武蔵よりは遥かに強い。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夕方、あの方が車のしりへでも乗せて送って来て下さるかと思っていると、他の人に送られて来た。その次の日も道綱は出かけて往ったが、夕方、また雑色ぞうしきなどに送られて来た。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「前をみては、しりえを見ては、物欲ものほしと、あこがるるかなわれ。腹からの、笑といえど、苦しみの、そこにあるべし。うつくしき、きわみの歌に、悲しさの、極みのおもいこもるとぞ知れ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれこの口子くちこおみ、この御歌を白す時に、大雨降りき。ここにその雨をもらず、前つ殿戸とのどにまゐ伏せば、しりつ戸に違ひ出でたまひ、後つ殿戸にまゐ伏せば、前つ戸に違ひ出でたまひき。
夫れ物質的の文明は唯物質的の人を生むに足れる而已のみ、我三十年間の進歩は実に非常なる進歩に相違なし、欧米人をしてしりへに瞠若だうじやくたらしむる程の進歩に相違なし、然れども余を以て之を見るに
自分はかくの如き大なる事業に、会長たる徳望もないのである。しかしながら、この会のために諸君のしりえに従って及ばずながら微力は尽すが、会長はご免を蒙りたいということで再三ご辞退をした。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
おいぼれて人のしりへに施米せまいかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
はじめて、藤本坊の英憲えいけんやまた円宗院の法印定宗じょうしゅうらが、五百余人の堂衆をしりえにつれて、大床の下に来て伏し
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのしりえに署名するの名誉を得たのである。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
しりよ い行きたが
つづいて中軍の謙信以下の旗本群まで——犀川の水を前にしりおしに脚なみを停めてしまった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千浪の体を抛り出すがはやいか、剣光を目あてに、わッと打ってかかったが、たちまち一人の敵に、タタタタとしりえに押し戻された荒くれどもは、ただ渦を巻いて狼狽うろたえ騒ぐばかり。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐうしろから、つづいて入って来た呉用も李逵りきしりえに、一礼して。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)