強情ごうじょう)” の例文
「きみがぼくに行けと言うのは、あの人たちがびんぼうだからというのではない。だからぼくは行かない」とマチアは強情ごうじょうに答えた。
そうすると過去が指し示すみちを今まで通り歩かなければならなくなるのです。その上彼には現代人のもたない強情ごうじょうと我慢がありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、父も今度は考えています。強情ごうじょうな人ですから、悪かったとは言いませんが、これからはお互にしっかりやろうと言っていました」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もう強情ごうじょうはおやめなされい! たとえ貴殿が強情を張って、木曽まで歩いて行かれるにしても、容易のことでは行かれますまい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このとき、おきさきさまはへんじをするために、口をきくことができるようになりました。けれども、あいかわらず強情ごうじょうをはって
「おまえが、いうことは、ほんとうのことだけれど、強情ごうじょうはよくないことだ。ただしいことはいつか、あとでわかるときがあるのだから……。」
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ありがたい思し召にそむいて、彼が、無用な強情ごうじょうをいいつのっておろうなどとは、お上にも、ゆめ、御存知ないのでござろうが」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここで申し上げてしまえばお慈悲がかかって不問に置かれる、強情ごうじょう張って隠し立てを致すにおいては罪が一族に及ぶぞよ
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは自分の仕業しわざであって決してテーモ・リンボチェ即ち自分の主人の命令でやった訳でないと強情ごうじょうを張ったそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
(どこまで強情ごうじょうな中尉だろう。よし、今にみておれ。のっぴきならぬ何ものかをつかまえて、これでも話をせぬかと、ぎゅうぎゅういわせてやろう)
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの子どもは、じつに強情ごうじょうですねえ。いくらたずねてもなかなか言わないのです。しかし、手をかえ品をかえて、とうとう白状させてしまいましたよ。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遠方からわざわざ来たのですから、先生のお帰りを待っていただいて行くというのです。田舎の人は実に強情ごうじょうで困ります
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
犬はしばらく強情ごうじょうに、「一つ下さい」を繰り返した。しかし桃太郎は何といっても「半分やろう」を撤回てっかいしない。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お父様からもそんな強情ごうじょう者に思われてきた私なのですから、今さら源氏の大臣の声名が高いからと申して結婚をいたしますのは恥ずかしいことだと思います」
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「停めるな。泉州岸和田五万三千石と、一時のくだらぬ強情ごうじょうと、どっちが大切か、兄貴にきいてくるのだ。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おや、まだ強情ごうじょう虚言うそをおきだよ。それほど分っているならなぜ禽はいいなあと云ったり、だけれどもネと云って後の言葉を云えなかったりするのだエ。」
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かの女はかの女の強情ごうじょうをも、傲慢ごうまんをも、潔癖けっぺきをも持てあまして居た。そのくせ、かの女は、かの女の強情やそれらを助長じょちょうさすのは、世の中なのだとさえ思って居る。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等は古びた中折帽を阿弥陀あみだにかぶった、咽喉のどよごれた絹ハンカチを巻いた、金歯の光って眼のするどい、癇癪持かんしゃくもちらしい顔をした外川先生と、強情ごうじょうできかぬ気らしい
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
………こうして強情ごうじょうに頑張っていてやったら、かの人もを折って戻って来ずにはいないであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでも知らねえと強情ごうじょうを張るか。又そのお近という女は、ときどきにお前の家へ忍んで来て、黒沼の婿の幸之助と逢曳あいびきをしている筈だが……。それでもお前は強情を張るか
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからつるつる、つるつる、何度なんど何度なんどもすべりながら、それでも強情ごうじょうに一けんばかりのぼりましたが、とうとう一息ひといきにつるりとすべって、ずしんとびたにころげちました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お前の強情ごうじょうなのにはわしもあきれた。これが世界で一番高い山だ。もう世界中でこれより高いところはない。ここまでくればお前も本望ほんもうだろう。これからまた下へおりて行くがいい。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
『それでは、いつまでたってもかわらないものを言いましょう。それは、この地方には、おまえのように、強情ごうじょうで、こうまんな百姓が、いつまでも、あとをたたないということです。』
「仲々強情ごうじょうな子供だ。おれはもう六十になるんだぞ。そして陸軍大将だぞ。」
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
渋面じゅうめんと悪徳でくまなくすき返されたように見え、赤茶けた眉と眉とのあいだに、強情ごうじょうな、おうへいな、ほとんど乱暴な表情できざまれているふたすじの深いしわは、よく動く口が歯をむき出すのと
ところで、にんじんは、自分ながら不思議ふしぎだった。そのうちに苦しくなりはせぬかと思っていたからである。彼は、規則正しく強情ごうじょうを張りさえすれば、どんなことでもできるという事実を確かめた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それもね、わたしが強情ごうじょうで、井上さんと喧嘩けんかをしたからですの。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
強情ごうじょうに妻の苦悩を傍観する。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「芳江姫が強情ごうじょうで鬼王丸殿の仰せをかず、それで姫を屈伏させるため、市之丞殿を土牢へ入れ苦痛を与えたのでござります」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今もいまとて、強情ごうじょうをはっていた轟又八、目をみはってこうさけぶと、裾野すそのから逃げかえってきた者どもは声をあわせて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お母さんも始めのうちは心配して、なるべく動かさないようにと思ってたんだがね。それ、あの気性だろう。養生はしなさるけれども、強情ごうじょうでねえ。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
軍人ぐんじんにか、それはいい。おまえは、ひくいが、なかなか強情ごうじょうだから、いい軍人ぐんじんになれるだろう。」と親方おやかたは、達吉たつきち意見いけんに、反対はんたいしませんでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは随分暇の掛る事でもあり、それにあなたはこの際偽りは言えぬと強情ごうじょうを張るけれども、あなたがこれまでの経歴を聞いて見ると随分偽りをいって居るじゃないか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そのやわらかい筋肉とは無関係に、角化質かくかしつの堅いつめが短かくさきの丸いおさない指を屈伏くっぷくさせるように確乎かっこと並んでいる。此奴こいつ強情ごうじょう!と、逸作はその爪を眼でおさえながら言った。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おれは今夜、戸倉のやつがチャンウーという中国人に化けていることを知って、忍びこんで、本物を吐きださせようと拷問ごうもんしたが、強情ごうじょうなやつでとうとう吐きださなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちょいと、徳寿さん。おまえさんも強情ごうじょうだね。まあ、ちょいと来ておくれと云うに……」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おばあさんはおもいつづらを首尾しゅびよくもらったものの、それでなくってもおもいつづらが、背負せおってあるいて行くうちにどんどん、どんどんおもくなって、さすがに強情ごうじょうなおばあさんも
舌切りすずめ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
小町 まだ強情ごうじょうを張るつもりなのですか? さあ、正直に白状はくじょうしておしまいなさい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどもかれはなかなか頑強がんきょうで、その強情ごうじょうにいつも打ち勝つことは困難こんなんであった。
強情ごうじょうで恨めしいところはあっても、機嫌きげんをそこねまいとしている常陸守よりも姿も身分もずっとすぐれたような四位や五位の役人が皆おそばに来てひざまずいて、いろいろなことを申し上げたり
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「そう君が強情ごうじょうを張るならば、こっちにも覚悟があるぞ」
強情ごうじょうで仰有らなくても、大変と思わせて差上げます」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さしも強情ごうじょう穴山梅雪あなやまばいせつも、ろんより証拠しょうこ民部みんぶのことばのとおり、味方がさんざん敗北はいぼくとなってきたのを見て、もうゆうよもならなくなったのであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あのむすめは、どうしました? 正直しょうじきないいだったけれど、すこし強情ごうじょうのようでしたね……。」といわれて
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうは思いながらも、おじさんはまだ強情ごうじょうに古い帳面を片端から繰ってみた。堺屋は今から三十年前の火事に古い帳面を焼いてしまって、その以前の分は一冊も残っていない。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はいつも話す通りすこぶ強情ごうじょうな男でしたけれども、一方ではまた人一倍の正直者でしたから、自分の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられないたちだったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母は彼の強情ごうじょうさ加減に驚嘆をまじえた微笑びしょうらした。が、どんなに説明しても、——いや、癇癪かんしゃくを起して彼の「浦島太郎」を引きいたあとさえ、この疑う余地のない代赭色の海だけは信じなかった。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「女というやつはなかなか強情ごうじょうなものだなあ」
強情ごうじょうらしくは言わずに
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
強情ごうじょうだの、おまえは」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)