引戻ひきもど)” の例文
今日こんにちは、」と、声を掛けたが、フト引戻ひきもどさるるようにしてのぞいて見た、心着こころづくと、自分が挨拶あいさつしたつもりの婦人おんなはこの人ではない。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
結局、いつもの通り、湖の岐入とS川との境の台地下へボートを引戻ひきもどし、蘆洲の外の馴染なじみの場所にめて、復一は湖の夕暮に孤独こどくを楽しもうとした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
赤崎才市の手が伸びると、お染の帯際を取ってグイと引戻ひきもどしました。パッと燃ゆる紅のもすそ、夕陽が紅葉に反映して、才市の血を好む心をいら立たせます。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
縁附えんづきてよりすで半年はんとしとなるに、なに一つわがかたみつがぬは不都合ふつがふなりと初手しよて云々うん/\の約束にもあらぬものを仲人なかうどなだむれどきかずたつて娘を引戻ひきもどしたる母親有之候これありそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
武村兵曹たけむらへいそう、おまへ鬼神きじんゆうがあればとて、あの澤山たくさん猛獸まうじうたゝかつてなにになる。』と矢庭やにわかれ肩先かたさきつかんでうしろ引戻ひきもどした。此時このとき猛犬稻妻まうけんいなづまは、一聲いつせいするどうなつて立上たちあがつた。
始め暫時しばし其所に待居まちゐければ此は如何なる事やと思ひける中程もあらせず城下の方より汗馬かんばむちあて御巡見使よりの御差※さしづなり九助を早々引戻ひきもどせと大音だいおんに呼はるをきゝ檢使の役人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
んでしいとはおもへども、小鳥ことりあしに、氣儘少女きまゝむすめが、囚人めしうどくさりのやうにいとけて、ちょとはなしては引戻ひきもどし、またばしては引戻ひきもどすがやうに、おまへなしたうもあるが、しうもある。
今日こんにちは、」と、こゑけたが、フト引戻ひきもどさるゝやうにしてのぞいてた、心着こゝろづくと、自分じぶん挨拶あいさつしたつもりの婦人をんなはこのひとではない。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おそひそか腰元こしもとお竹に頼みしかば吉三郎があと追駈おつかけ來りしなりさてお竹は吉三郎にむかひお菊樣が貴郎あなたに是非お逢成あひなされ度との事成ば先々此方こなたへ來り給へと手を取引戻ひきもどすゆゑ吉三郎さては娘の心は變らず我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自動車じどうしや引戻ひきもどし、ひらりとりるのに、わたしつゞくと、あめにぬれたくさむらに、やさしい浅黄あさぎけて、ゆら/\といたのは、手弱女たをやめ小指こゆびさきほどの折鶴をりづるせよう
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まさかにいたほどでもあるまいが、それ本当ほんたうならば見殺みごろしぢや、みちわたし出家しゆつけからだれるまでに宿やどいて屋根やねしたるにはおよばぬ、追着おツついて引戻ひきもどしてらう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……思出おもいだしても気味の悪い処ですから、耳は、とがり、目は、たてに裂けたり、というのが、じろりとて、穂坂の矮小僧ちびこぞうおどかしてろう、でもって、魚市の辻から、ぐるりと引戻ひきもどされたろうと
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)