巌角いわかど)” の例文
旧字:巖角
ところどころの巌角いわかどに波くだけ散る。秋。成経浜辺はまべに立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片きぎれにて卒都婆そとばをつくっている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あすここそ頂上に相違ないと、余りの嬉しさに周章あわてたものか、吾輩は巌角いわかどから足踏み滑らして十分したたか向脛むこうずねを打った。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
巌角いわかどを鋭どく廻って、按摩あんまなら真逆様まっさかさまに落つるところを、きわどく右へ切れて、横に見下みおろすと、の花が一面に見える。雲雀はあすこへ落ちるのかと思った。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
処へ、土地ところには聞馴ききなれぬ、すずしい澄んだ女子おなごの声が、男に交って、崖上の岨道そばみちから、巌角いわかどを、踏んず、すがりつ、桂井かつらいとかいてあるでしゅ、印半纏しるしばんてん
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紇の一行は巌角いわかどを伝い、樹の根に縋って、山の中へ入ったが、往っているうちに、女の笑い戯れる声がした。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
果てなき原の草の上、巌角いわかどするどき険崖がけきわ、鉄のひづめの馬立てて、討手うちてに進む我が心
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ほどなく洲崎鼻すのさきばな尽頭じんとう、東より西に走り来れる山骨さんこつが、海に没して巌角いわかど突兀とっこつたるところ、枝ぶり面白く、海へ向ってのした松の大木の枝の上に、例の般若の面をかぶって腰うちかけ
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たきなどの滴垂したたりおちる巌角いわかどにたたずんだり、緑の影の顔に涼しく揺れる白樺しらかば沢胡桃さわぐるみなどの、木立ちの下を散歩したりしていたお増の顔には、長いあいだ熱鬧ねっとうのなかに過された自分の生活が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ほこえたような沢山たくさんきば……どう周囲まわりは二しゃくくらい身長みのたけは三げんあまり……そうったおおきな、神々こうごうしいお姿すがたが、どっと飛沫しぶき全身ぜんしんびつつ、いかにも悠々ゆうゆうたる態度たいどで、巌角いわかどつたわって
木川子の腰に細引を結び付けて、将軍が巌角いわかどに足を踏ん張り、大冒険を企てて、早速奔流落下のさまを写し取った。
清水きよみず石磴いしだんは、三階五階、白瀬の走る、声のない滝となって、落ちたぎり流るる道に、巌角いわかどほどの人影もなし。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にも波の中へ落ち込もうとしているのを、傍の巌角いわかどにかけた隻手かたてがやっと支えていたじゃないか、俺は吃驚びっくりして体の位置むきを変えたが、今度見るともう女子おなごは見えなかった
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
乱れ起る岩石を左右にめぐる流は、いだくがごとくそと割れて、半ばみどりを透明に含む光琳波こうりんなみが、早蕨さわらびに似たる曲線をえがいて巌角いわかどをゆるりと越す。河はようやく京に近くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巌角いわかどつたってすーッと上方うえりました。
流れがあおって、こう、さっとせく、落口の巌角いわかどね越すのは苦艱くげんらしい……しばらく見ていると、だんだんにみんな上った、一つ残ったのが、ああもう少し
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頂上までほとんど一直線に付けられた巌石がんせきの道で、西側には老杉ろうさん亭々ていていとして昼なお暗く、なるほど道の険しい事は数歩さき巌角いわかどの胸を突かんばかり、胸突き八丁の名も道理ことわりだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
松のかたへ小戻りして、向合った崖縁に立って、谿河たにがわを深く透かすと、——ここは、いまの新石橋がかからない以前に、対岸から山伝いの近道するのに、樹の根、巌角いわかどを絶壁に刻んだこみちがあって
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巌角いわかどきざを入れて、これを足懸あしがかりにして、こちらの堤防どてあがるんですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その半腹にかかりある巌角いわかどこけのなめらかなるに、一ちょうはだかろうに灯ともしたる灯影ほかげすずしく、かけひの水むくむくときて玉ちるあたりにたらいを据えて、うつくしく髪結うたるひとの、身に一糸もかけで
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浪は水晶の柱のごとく、さかしまにほとばしって、今つッ立った廉平の頭上を飛んで、空ざまにずること十丈、親仁の手許の磨ぎ汁を一洗滌ひとあらい、白き牡丹ぼたんの散るごとく、巌角いわかどに飜って、海面うなづらへざっと引く。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その節、路も無い処を、いわゆる、木の根巌角いわかどですわい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)