尋常たゞ)” の例文
花里花魁自分を名指してくれたお客を見ますると、成程新造の申しました通り美男子いゝおとこで、尋常たゞのへっぽこ職人じゃアないらしく思われます。
丁度その話をして聞かせて居る最中に、尋常たゞならぬ屋外そとの様子で、敵の艦隊が津軽海峡を通過ぎたことを知つた。私は三日ばかり早く函館へ着いて好かつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これはい。如何いかにも按摩あんま川岸かはぎしつてをうかゞうやうにえる、が、尋常たゞ按摩あんまちがひがない。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此頃よりせふ容体ようだい尋常たゞならず、日を経るに従ひ胸悪くしきりに嘔吐おうどを催しければ、さてはと心にさとる所あり、出京後しゆつきやうご重井おもゐ打明うちあけて、郷里なる両親にはからんとせしに彼は許さず
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
ながめると闇黒あんこくなる右舷うげん左舷さげん海上かいじやう尋常たゞならずなみあらく、白馬はくばごと立浪たつなみをどるのもえる。
俺は尋常たゞ地犬ぢいぬサ。まじりツけない純粋の日本犬につぽんいぬだ。耳の垂れた尻尾を下げたの碧い毛唐の犬がやつて来てから、地犬々々と俺の同類を白痴ばかにするが、憚りながら神州の倭魂やまとだましひを伝へた純粋のお犬様だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
心のうちにて此奴こいつ中々尋常たゞの奴ではない、少し何か心得てる奴であろう、ことに胆力の据わった者、生じいな事をして耻を掻いてはならんと、心有る侍と見えまして
ひろつてたのは雄鹿をじかつのをれやまふかければ千歳ちとせまつふるとく、伏苓ふくれうふものめいたが、なにべつに……尋常たゞえだをんなかひなぐらゐのほそさで、一尺いつしやく有余いうよなり
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
馬車が何處を通るのか、皆目それは私には解りませんでしたが、闇に振る馬丁べつたうの烈しい鞭の音と、尋常たゞならぬ車の上の人達の樣子とで、賊といふことだけは知れました。
はツとおもつたが、此時このときたちま弦月丸げんげつまる前甲板ぜんかんぱん尋常たゞならぬ叫聲さけびごゑきこえた。
覚える方も尋常たゞでないから段々/\と剣術が出来て腕も宜くなり、もし貴方を又市と心得まして斯う斬込んだら何うお受けなさると云うくらい、人の精神は恐ろしいもので
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
てよ、うまで、こゝろかるゝのは、よも尋常たゞごとではるまい。つたぬまなかへは古城こじやう天守てんしゆさかさま宿やどる……祖先そせんじゆつために、あやしき最後さいごげたをんなが、子孫しそんまつは因縁事いんねんごとか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春枝夫人はるえふじん笑顏えがほ天女てんにようるはしきよりもうるはしく、あほ御空みそらにはくもあゆみをとゞめ、なみとり吾等われら讃美さんびするかとうたがはるゝ。この快絶くわいぜつときたちま舷門げんもんのほとりに尋常たゞならぬ警戒けいかいこゑきこえた。
いや段々聞いたら何でも尋常たゞの奴でない、人の噂でも何うも尋常漢たゞものでない、大かた長脇差では無いかという評判を立てたら、当人がそんならお話をいたしますが、実はわしは元は侍で
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それじゃアお前は飯島様を失錯しくじりでもしたか、どうも尋常たゞの顔付ではない、お前は根が忠義の人だから、しくじってハッと思い、腹でも切ろうか、遠方へでもこうと云うのだろうが
尋常たゞの死にようではない、余程効能きゝめの強い毒酒ではないかと、依田豊前守様の白洲へ持出したが御奉行が其の酒を段々お調べに成り、医者を立会たちあわして見ると、一ト通りならん処の毒薬で
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)