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寂寞
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じゃくまく
ふりがな文庫
“
寂寞
(
じゃくまく
)” の例文
そこに、
先刻
(
さっき
)
の編笠
目深
(
まぶか
)
な新粉細工が、
出岬
(
でさき
)
に霞んだ
捨小舟
(
すておぶね
)
という形ちで、
寂寞
(
じゃくまく
)
としてまだ一人居る。その方へ、ひょこひょこ
行
(
ゆ
)
く。
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
虚空と聞えたのは、それが武蔵の口から発したというよりは、彼の全身が
梵鐘
(
ぼんしょう
)
のように鳴って
四辺
(
あたり
)
の
寂寞
(
じゃくまく
)
をひろく破ったせいであろう。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と
藜
(
あかざ
)
の杖を曳きながら幡随院へやって来ると、良石和尚は
浅葱木綿
(
あさぎもめん
)
の衣を
着
(
ちゃく
)
し、
寂寞
(
じゃくまく
)
として坐布団の上に坐っている所へ勇齋
入
(
い
)
り
来
(
き
)
たり
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
古き空、古き銀杏、古き
伽藍
(
がらん
)
と古き墳墓が
寂寞
(
じゃくまく
)
として存在する間に、美くしい若い女が立っている。非常な対照である。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そのとき、ふと、呻くような声が
寂寞
(
じゃくまく
)
を破った。男は聞き耳を
欹
(
た
)
てると、その声がだんだん戸口の方へ近づいて来た。
生さぬ児
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
▼ もっと見る
縷々
(
るる
)
として
寂寞
(
じゃくまく
)
の境に立ち上る、細い細い
青烟
(
けぶり
)
の消えゆくを見るも傷ましく、幾たびも幾たびも
空想
(
おもい
)
を破る鐘の
響
(
ひびき
)
に我れ知らぬ暗涙をたたえたことであった。
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
寂寞
(
じゃくまく
)
たる
空山
(
くうざん
)
の夕べを、ひとり山上に歩み行くのですから、何を歌おうと、あえて干渉する者はないのですが、習い性となって、ふと弁信からの
横槍
(
よこやり
)
をおそれ
大菩薩峠:28 Oceanの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
暖簾
(
のれん
)
をかけた質屋の店も、既に戸を閉めてしまったので、万象
寂
(
せき
)
として声なく、冬の
寂寞
(
じゃくまく
)
とした
闇
(
やみ
)
の中で、孤独の寒さにふるえながら、小さな家々が眠っている。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
盆踊りを見ての帰りに池面のやみをすかして見るとこの干潟の上に
寂寞
(
じゃくまく
)
とうずくまっていることもあり、何かしら落ち着かぬように首を動かしていることもあった。
沓掛より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
荒廃と
寂寞
(
じゃくまく
)
——どうしても元始的な、人をひざまずかせなければやまないような強い力がこの両側の山と、その間にはさまれた谷との上に動いているような気がする。
槍が岳に登った記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
今までは繁華の町のまん中に、死んだ物のように
寂寞
(
じゃくまく
)
として
横
(
よこた
)
わっていた建物が、急に生き返って動き出したかとも見えて、あたりが明るくなったように活気を生じた。
十番雑記
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
第三に、人生に
寂寞
(
じゃくまく
)
を感じない。もしも世界中の人間がわれに
背
(
そむ
)
くとも、あえて悲観するには及ばぬ。わが周囲にある
草木
(
くさき
)
は永遠の恋人としてわれに
優
(
やさ
)
しく
笑
(
え
)
みかけるのであろう。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
竜頭
(
りゅうず
)
の方は薄暗さの中に入っている一種の
物〻
(
ものもの
)
しさを示して
寂寞
(
じゃくまく
)
と
懸
(
かか
)
っていた。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
霧の奥に川の水音が寒々しく流れて、
寂寞
(
じゃくまく
)
たる深夜のたたずまい。
平馬と鶯
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
嬉しい
寂寞
(
じゃくまく
)
の裡に私の心は清んだのである。
日記:02 一九一四年(大正三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
蜻蛉
(
とんぼ
)
でも来て留まれば、城の
逆茂木
(
さかもぎ
)
の威厳を
殺
(
そ
)
いで、抜いて取っても
棄
(
す
)
つべきが、
寂寞
(
じゃくまく
)
として、三本竹、風も無ければ動きもせず。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
なにかこう自分が
空虚
(
うつろ
)
のような不安を感じて参りました、二年目には、心がみだれ出し、自然の中の
寂寞
(
じゃくまく
)
さが常に心をおびやかしてきました。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
シャロットを過ぐる時、いずくともなく悲しき声が、左の岸より古き水の
寂寞
(
じゃくまく
)
を破って、動かぬ波の上に響く。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
手紙を見て
直
(
すぐ
)
に萩原を居間へ通せば、和尚は木綿の座蒲団に
白衣
(
はくえ
)
を着て、其の上に茶色の
衣
(
ころも
)
を着て、当年五十一歳の名僧、
寂寞
(
じゃくまく
)
としてちゃんと坐り、中々に道徳いや高く、念仏三昧という
有様
(
ありさま
)
で
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
沈鬱な
寂寞
(
じゃくまく
)
たる夕暮の田園の景色などが
瞭々
(
ありあり
)
と目の前に浮んで来る。
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
寂寞
(
じゃくまく
)
と昼間を
鮓
(
すし
)
のなれ加減
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
葛籠
(
つづら
)
を
押立
(
おった
)
てて、
天窓
(
あたま
)
から、その尻まですっぽりと安置に及んで、秘仏はどうだ、と
達磨
(
だるま
)
を
極
(
き
)
めて、
寂寞
(
じゃくまく
)
として
定
(
じょう
)
に
入
(
い
)
る。
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一瞬、なんともいえない
寂寞
(
じゃくまく
)
の気が
漲
(
みなぎ
)
った。人のない天地の静かさよりも、人中の空気にふと湧いた寂寞のほうが不気味な霊魂をふくんでいた。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
路
寂寞
(
じゃくまく
)
と
古今
(
ここん
)
の春を
貫
(
つらぬ
)
いて、花を
厭
(
いと
)
えば足を着くるに地なき
小村
(
こむら
)
に、婆さんは
幾年
(
いくねん
)
の昔からじゃらん、じゃらんを数え尽くして、
今日
(
こんにち
)
の
白頭
(
はくとう
)
に至ったのだろう。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
此方
(
こちら
)
へお通し申せという事ゆえ、孝助は案内に
連
(
つれ
)
られ奥へ通りますると、良石和尚は年五十五歳、道心堅固の智識にて
大悟
(
だいご
)
徹底致し、
寂寞
(
じゃくまく
)
と坐蒲団の上に坐っておりまするが、
道力
(
どうりょく
)
自然に表に現われ
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
わけてこの秋、雪斎長老の亡き後は、山門も堂宇も、森も、よけい
寂寞
(
じゃくまく
)
の感が深かった。もずの啼く音も、何となく淋しく、肌さむい初冬だった。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
笑えるははたとやめて「この
帳
(
とばり
)
の風なきに動くそうな」と室の入口まで歩を移してことさらに厚き幕を揺り動かして見る。あやしき響は収まって
寂寞
(
じゃくまく
)
の
故
(
もと
)
に帰る。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と
閑
(
ひま
)
なあまりの言葉がたき。わざと
中
(
ちゅう
)
ッ腹に呼んでみたが、
寂寞
(
じゃくまく
)
たる事、くろんぼ同然。
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
だが——その
寂寞
(
じゃくまく
)
たる中にあって、彼のからだの裡には、抑えきれないほど沸きあがっているものがあった。熱湯のような争気を持つ血液である。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
寂寞
(
じゃくまく
)
の
罌粟花
(
けし
)
を散らすやしきりなり。人の記念に対しては、
永劫
(
えいごう
)
に価するといなとを問うことなし」
三四郎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
花の中なる
枯木
(
こぼく
)
と観じて、独り
寂寞
(
じゃくまく
)
として茶を煮る
媼
(
おうな
)
、特にこの店に立寄る者は、伊勢平氏の
後胤
(
こういん
)
か、
北畠
(
きたばたけ
)
殿の落武者か、お杉お玉の親類の
筈
(
はず
)
を、思いもかけぬ
上客
(
じょうかく
)
一
人
(
にん
)
、
引手夥多
(
ひくてあまた
)
の
彼処
(
かしこ
)
を抜けて
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
いつでもだが、秀吉の声は、その
伽藍
(
がらん
)
がもっている
寂寞
(
じゃくまく
)
を鐘のように破るものだった。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
また自分もいつこういう過失を犯さぬとも限らぬと云う
寂寞
(
じゃくまく
)
の感も同時にこれに伴うでしょう。
己惚
(
うぬぼれ
)
の面を
剥
(
は
)
ぎ取って真直な腰を低くするのはむしろそういう文学の影響と言わなければなりません。
文芸と道徳
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
入口の片隅に、フト
燈
(
あかり
)
の暗い影に、
背屈
(
せくぐ
)
まった和尚がござる! 鼠色の
長頭巾
(
もっそう
)
、ト二尺ばかり
頭
(
ず
)
を長う、肩にすんなりと
垂
(
たれ
)
を
捌
(
さば
)
いて、墨染の
法衣
(
ころも
)
の袖を胸で
捲
(
ま
)
いて、
寂寞
(
じゃくまく
)
として
踞
(
うずくま
)
った姿を見ました……
白金之絵図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
機
(
はた
)
の上へ、
俯
(
う
)
つ伏していたのである。暗いなかに、ただ独り
寂寞
(
じゃくまく
)
を
抱
(
いだ
)
きしめて。
宮本武蔵:02 地の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お君の寂しく
莞爾
(
にっこり
)
した時、
寂寞
(
じゃくまく
)
とした位牌堂の中で、カタリと音。
縁結び
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
天は
昏瞢
(
こんぼう
)
として
睡
(
ねむ
)
り、海は
寂寞
(
じゃくまく
)
として声無し。
取舵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
寂
常用漢字
中学
部首:⼧
11画
寞
漢検1級
部首:⼧
13画
“寂寞”で始まる語句
寂寞閑
寂寞幽僻
寂寞道人肩柳