とこ)” の例文
何だべえせえ、自分のとこでなかつたら具合ぐあえが悪かんべえが? だらハア、おらア酒え飲むのさ邪魔さねえば、何方どつちでもいどら。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
解くにも、引切ひっきるにも、目に見えるか、見えないほどだし、そこらは暗し、何よりか知ったとこ洋燈らんぷの灯を——それでもって、ええ。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕食の席で、民やが斯様こんな話をした。今日きょう午後猫をさがして居ると、八幡下で鴫田しぎたの婆さんと辰さんとこの婆さんと話して居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お前がやれ量炭も買えんだのッてしく言うから昨夜ゆうべ金公の家へって借りようとしてないってやがる。それから直ぐ初公のとこへ往ったのだ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
海「ハヽヽヽヽ何を言ってるんだ、僕はな今朝こゝを出ると青山の長官のとこへ参り、それから久しゅうかんによって上野浅草附近を散歩して」
『阿母さん、昨日きのふ校長さんが君んとこ阿父おとうさんは京のまちで西洋のくすりや酒を売る店を出すんだつて、本当かて聞きましたよ。本当に其様そんな店を出すの。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いくら叔母さんがひどいったって雪の降ってる中を無暗に逃げ出して来て、わたしのとこへも知らさないで、甲府へ出てしまって奉公しようと思うとって
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柳麗玉 (得意げに)先生の奥さまと一緒に、洪沢信さんのとこへお湯へはいりに行って、あたしだけ一足先に出て来ると、洪さんの横丁でばったり——。
七八年ぜん僕が滋賀商業の実習生で、君のとこ行商かうしやうに往つたら、君は僕の石鹸しやぼんを石ころか何ぞのやうにけなしつけて、加之おまけに僕に外国行を勧めて呉れたつけが
このひとは、どっか大きなとこの娘で、病気——ばかのようなので、髪をらして遊ばせてあるのだろう、だから、あんなに無作法ぶさほうなのだと——そう思えたほど
「まご/\してると、おらとこもつん燃されて了ふかも知んねえだ。本当にまア、何うしたら好い事だか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
三郎さぶろうは、かわいがっているボンが、ばあさんのために小石こいしげられたりみずあたまからかけられたりしてきますと、今度こんど、ばあさんとこねこがきたら、うんといじめてやろうとおもいました。
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしとこへは店から火事だと電話が掛った。処が中途でプツリと切れたので、直ぐ二十八番を呼出そうとすると、丸善は今焼けてるという交換局の返事だから、そりゃ大変というので……』
(あの一族のとこでは)とか、容易に嫁ぐといわないでもう世間なみからいえば、遅い婚期になっているのでもあるが、せめてこのむすめ一人だけは、いの身の側から離したくない気もするしで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そりや死にもするけれど、生れたとこも随分あるさ。」
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「あんたとこの人が魚売にござつて言はつしやつた。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
自分のとこでなかつたら具合が惡かんべえが? 然だらハア、俺ア酒え飮むのさ邪魔さねえば、何方どつちでも可いどら。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「待ちねえよ、赤い襦袢と、それじゃあ、お勘がとこに居る年明ねんあきだろう、ありゃおめえもう三十くらいだ。」
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じいさんとこのは大きくて他家よその三倍もあるが、きが細かで、上手じょうずに紅入の宝袋たからぶくろなぞこさえてよこす。下田の金さんとこのは、あんは黒砂糖だが、手奇麗てぎれいで、小奇麗な蓋物ふたものに入れてよこす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
爺「伊之助という男は何うやらわしが知ってるものらしい、それと一緒に此処こゝへ御座るというは、こりゃ私のとこへござらッしゃる客衆かも知れねえ、まア兎も角くも私のとこへさっせえまし」
何宗だか、おれンのとこの寺ぢやねえもの知らねえや。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
くめさんのとこだア、粂さんの家だア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あっちこち聞きあわせると、あの尼様はこの四五日しごんち前から方々の帰依者きえしゃとこをずっと廻って、一々
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其後黒の姿はこっきり見えなくなった。通りかゝりの武太ぶたさんに問うたら、与右衛門さんの懸合で、黒の持主の源さんとこでは余儀なく作男さくおとこに黒を殺させ、作男が殺してて食うたと答えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
古浴衣を蹴返して転がるように駆出したのは、町内無事の日参をするという、嘉吉がとこの婆様じゃ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乱暴な小僧こぞの癖に、失礼な、末恐しい、見下げ果てた、何の生意気なことをいったって私がとこに今でもある、アノとうで編んだ茶台はどうだい、嬰児ねんねえってあるいて玩弄おもちゃにして
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根太ねだゆるんだはお互様じゃが、わしとこなど、随分と基礎どだいも固し、屋根もどっしりなり、ちょいとや、そっとじゃ、流れるのじゃなかったに、その時さの、もう洪水みずが引き際というに
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尋ねあてて、尼様あまさんとこへ行って、お頼み申します、とやると、お前様。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持ってあがって、伝がとこの帳場格子の中へ突込つッこんで見せたというぜ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「じゃあ貢さんとこに猫は居ないのかい。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)