かく)” の例文
荘子そうじ』に「名はじつひんなり」とあるごとく、じつしゅにしてかくである。言葉も同じく考えのひん、思想のかくなりといいうると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主客しゅかくは一である。しゅを離れてかくなく、客を離れて主はない。吾々が主客の別を立てて物我ぶつがきょうを判然と分劃ぶんかくするのは生存上の便宜べんぎである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
保はかくを避けて『横浜毎日新聞』に寄する文を草せんがために、一週日いっしゅうじつほどの間柳島の帆足謙三ほあしけんぞうというものの家に起臥きがしていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今浪花座に出てゐる中村福助が、去年淀川に堤切どてぎれがあつた当時、清荒神きよしくわうじんから大勢の贔屓かくと一緒に、大阪帰りの電車に乗込んだ事があつた。
牛飼君は士をたいするの道を知りおる。殊に今度の次の内閣には国務大臣にならるゝ筈ぢやから牛飼君のかくとなるは将に大いに驥足きそくを伸ぶべき道ぢや。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
大いに覚悟する所あり、ついに再び流浪るろうかくとなりて東京に来り、友人の斡旋あっせんによりて万朝報社よろずちょうほうしゃの社員となりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
鄭賓于ていひんうの話である。彼がかつて河北にかくとなっているとき、村名主むらなぬしの妻が死んでまだ葬らないのがあった。
おもへば、はや六歳むとせのむかしとなりぬ、われ身にわづらひありて、しばらく此地にかくたりき。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かくは去る時応分の謝金を出して行くなり。エルサレムよりナブルスまで約十二里。
今の世にかくを愛する孟甞君まうしやうくんなし有らば此人や上客じやうかくの一人ならん年ごろ廿一二痩てせい低く色白く眼は小さけれど瞳流れず口早にて細き聲の男馬士まごの友と見え後先に話ながら來りしが忽ち小指を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
名所圖繪をひもときて、幼き心に天下またこの好山水かうさんすゐありやと夢みしは昔、長じて人の其山水を記せるの文を讀み、かく其勝そのしやうを説くを聞くに及びて、興湧き胸躍りて、殆どそをとゞむるに由なかりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
かくありふにの二三の事項じこうを以てせり、しかしてこたへぬ。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
いづれか畢竟つひ主人あるじなるべき、かくを留めて吾が主と仰ぎ、賊を認めて吾が子となす、其悔無くばあるべからず、恐れ多けれど聡明匹儔たぐひ無く渡らせたまふに、凡庸も企図せざるの事を敢て為玉ひて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
禅院の朝の勤行ごんぎやうはてぬればまた歎かれぬ山上のかく
そしてこれに招くべき賓客ひんかくすうもほぼ定まっていた。然るに抽斎の居宅には多くかくくべき広間がないので、新築しなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一時日本に亡命のかくたりし朴泳孝ぼくえいこう氏らも大政たいせいに参与し、威権赫々かくかくたる時なりければ、日本よりも星亨ほしとおる岡本柳之助おかもとりゅうのすけ氏ら、そのへいに応じて朝廷の顧問となり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さういふ訪問かくのなかに一人坊主があつた。つい先日こなひだの事その坊主はひよつくり犬養氏のやしきを訪ねて来た。
花のもとの半日のかく、月の前の一夜の友も、名殘は惜しまるゝ習ひなるに、一向所感の身なれば、先の世の法縁も淺からず思はれ、流石さすがの瀧口、かぎりなき感慨むねあふれて、轉〻うたゝ今昔こんじやくじやうに堪へず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
幸に慈愍じみんの御まなじりにもかゝり聊か勧賞の御言葉にもあづからむには、火をも踏み水にもり、生命を塵芥ぢんかいよりも軽く捨てむと競ひあへりしも、今かくなり玉ひては皆対岸の人異舟いしうかくとなりて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かくまたはず、してる。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
東京のかくのここへ来ることは、としに一たびあらんなどいえど、それも山田へとてにはあらざるべし。きょう今までの座敷ざしきより本店のかたへうつる。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくは寒さうな顔を見合はせて、一緒に立つて侯爵にお辞儀をした。そして玄関で待たせたくるまに乗ると、言ひ合せたやうに体を鯱子張しやちこばらせて「勇だ/\。大いにるぞ」と強ひて附景気つけけいきをしてゐた。
世をこぞって たれかくあらざらん
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勝久はこの歌に本づいて歌曲「まつさかえ」を作り、両国井生村楼いぶむらろうで新曲開きをした。勝三郎を始として、杵屋一派の名流が集まった。曲は奉書摺ほうしょずりの本に為立したててかくわかたれた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただねがふ かく※酔へんすいせんことを
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一たび欵待かんたいせられたものは、友をいざなって再び来る。玄機がかくを好むと云う風聞は、いくばくもなくして長安人士の間に伝わった。もう酒を載せて尋ねても、逐われるおそれはなくなったのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
去年は 淮楚わいそかくたりき
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)